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2022年度第1回生産性シンポジウムを開催しました

2022年10月7日

公益財団法人日本生産性本部は2022年10月7日、オンラインにて2022年度第1回生産性シンポジウム「生産性とは何か~データから読み解く生産性」を開催しました。人口減少期にあるわが国において、産業・企業の存続のためには生産性向上が欠かせません。今回は「生産性」について、木内康裕・日本生産性本部 生産性総合研究センター上席研究員がデータを交えながら読み解きました。今さら聞けない「生産性」の概念や「賃金」「顧客満足度」「人材育成」との関係性、生産性向上に取り組む企業事例などを通じて「生産性」への理解を深めるシンポジウムとなりました。


1. 今さら聞けない「生産性」とは?


図1

「生産性」とは、企業が持っている経営資源(人・モノ・金・情報・土地/面積など)をどれだけ有効に活用し、成果を出すことができているかを測る指標です。インプット(経営資源)をどれだけ投入して、アウトプット(成果)がどれだけ出たかを表します。(図1)

生産性というと、よく出てくるのが「労働生産性」という指標です。労働生産性は、より少ない労力でどれだけ多くの成果を生み出したかということを表します。具体的には、一人の人が1時間働いたときの成果を指標化したものです。労働生産性が向上すると、企業の利益の拡大につながり、従業員の賃金を上昇させる原資が拡大し、日本の持続的な経済成長にむけた推進力になります。

2. データで読み解く日本の労働生産性の現状

日本の就業者数は、人口減少に伴い、1997年をピークに2010年代前半まで減少傾向にあります。その後、働き方改革などにより再び増加に転じましたが、2019年にピークアウトしました。また、日本の労働時間は、1990年代の1900時間を超えていた状況から、労働時間が比較的短いパートタイム労働者の比率が上昇してきた影響で、1600時間程度にまで減少しています。

経済を成長させるには、生産性を上げることが重要です。しかし、2021年の日本の時間当たり名目労働生産性(就業1時間当たり付加価値額)は4938円と、ここ3年くらい殆ど変わっていません。なお、1990年代後半~2000年代は、労働生産性の向上が経済成長に貢献していましたが、2010年代以降は、就業者が増えていることが経済成長の主な要因になっています。


3. 生産性に影響を及ぼす要因~賃金や顧客満足度、人材育成とのつながりは?


図2

付加価値とは、様々なサービス提供やモノづくりなどで新しく生み出した価値(金額)であり、売上高から仕入れ費用や水道・光熱費などの外部に支払う金額を引いたものです。この付加価値の中から労働収益(賃金、賞与、福利厚生)と営業利益(税金、支払利息、配当、不動産賃貸料、内部留保)が分配されます。よって賃金を上げるには、付加価値を上げること、言い換えれば労働生産性を向上させることが大事になります。

労働生産性は、「物的労働生産性」、「価値労働生産性」、「付加価値労働生産性」の3つに分解できます(図2)。「物的労働生産性」は、どれだけ多くの製品を所定の労働時間で生産したかなどを表します。なお、物的労働生産性を向上させても、適切な値付けを行い、粗利を確保できなければ、労働生産性は向上せず、賃金の向上にも結び付きません。企業が、顧客に今よりも少し多くのお金を喜んで払ってもらえるような工夫をし、それが少しずつ実を結ぶことが大事かと思います。

図3

当本部の調査結果(図3)によると、生産性がもともと高い企業では、顧客満足度が高くなると、労働生産性も高くなる傾向があります。一方で、顧客満足度が高くても、生産性が低い企業が一定数あります。顧客満足度を上げることで目指すものが生産性向上や収益性向上以外となってしまい、企業の利益や従業員の賃金に結びついていないのが要因にあります。そのような企業は、顧客満足度の使い方を変えていく余地があるかと思います。

日本の生産性を上げるためには、人材育成への投資が不可欠です。しかし、日本の人材育成は2000年をピークに減少傾向にあります。また、日本の人材投資水準(人材投資/GDP)は、アメリカ、イギリス、ドイツに比べて大幅に低くなっています。さらに、人材育成の中身にも課題があり、重視されているOJTも、コストや効果検証がきちんとなされていません。経営リーダーの育成にも、より力を入れていく必要があります。また、今後は日本でも人材や働き方の多様性が進む中、組織を強くする活動に投資を行っていくべきです。

4. 生産性向上の具体事例


図4

当本部は、宿泊業の生産性向上のモデル化を行っています。湯元館(おごと温泉)では、顧客情報管理システムの活用や負担の大きい運搬業務の機械化を行い、顧客への接客で喜んでもらう領域を増やし付加価値を上げることにより、生産性の向上と高水準の賃金を実現させました。(図4)

登壇者

木内康裕 公益財団法人日本生産性本部 生産性総合研究センター上席研究員

2001年、立教大学大学院経済学研究科修了。政府系金融機関勤務を経て日本生産性本部入職。生産性に関する統計作成・経済分析が専門。アジア・アフリカ諸国の政府機関に対する技術支援なども行っている。国際的にみた日本の労働生産性の実態など主要国との比較にも詳しい。
主な執筆物に「労働生産性の国際比較」(2003~2006年、2009年以降各年版、日本生産性本部)、「高付加価値経営に向けた今日的な付加価値概念」(分担執筆、生産性労働情報センター)、「新時代の高生産性経営」(分担執筆、清文社)、「Productivity Transformation」(分担執筆、生産性出版)など。