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2022年度第4回生産性シンポジウムを開催しました

2022年12月26日

公益財団法人日本生産性本部は2022年12月26日、オンラインにて2022年度第4回生産性シンポジウム「2022年度労働生産性の国際比較 日本の現状と生産性向上の方策」を開催しました。例年、主要先進国と比較して低い水準で推移している日本の労働生産性。コロナ禍の長期化の影響が色濃い2021年の日本の労働生産性が国際的にどのような水準だったのか、2022年12月に公開したデータを木内康裕 生産性総合研究センター上席研究員が背景なども交えつつ読み解きました。また、企業行動の実証分析や生産性分析を専門とされている滝澤美帆 学習院大学経済学部教授からは、生産性を向上させる方策について、人的資本投資を中心にご講演いただきました。


1. 国際的にみた日本の労働生産性の現状~労働生産性の国際比較2022から~

木内康裕 生産性総合研究センター上席研究員

2022年12月19日に当本部が公表した「労働生産性の国際比較2022」によると、2021年の日本の1時間当たりの労働生産性は、49.9ドル(5,006円)でした。この数字はOECD加盟38か国中27位で(2020年は26位)、アメリカの6割弱に相当し、エストニア、ラトビア、スロバキアなどとほぼ同水準でした。2021年の日本の実質経済成長率は2.1%でしたが、OECD加盟国の中では最も低く、労働生産性にも出遅れ感が表れています。また、日本の就業者一人当たりの労働生産性は81,510ドル(818万円)とOECD加盟国中29位で、ポーランド、ハンガリー、ニュージーランド、ポルトガルとほぼ同水準でした。なお、アメリカと比較すると、時間当たりでみても、一人当たりでみても、労働生産性の格差が拡大する傾向に歯止めがかかりません。

図1

最近の物価上昇の影響を受けて、賃上げに大きな注目が集まっていますが、賃金を持続的に上げるためには生産性の改善が必要です。OECD加盟国では生産性が高いほど、平均年収が高くなっています(図1)。日本も平均年収を上げるためには、生産性を上げていく必要があります。そして、生産性を向上させるには、人材育成・人的資源への投資が重要となります。

2. 日本の労働生産性を向上させる方策とは ~人的資本への投資を中心に~

(1) はじめに(足元の経済状況と国際比較)

日本はコロナのショックを他の先進国に比べて低く抑えることができましたが、回復のスピードも遅く、ようやくコロナ前の水準を取り戻せています。また、日本とアメリカの労働生産性の格差も拡大しています。


(2) 経済価値の源泉として注目される無形資産

滝澤美帆 学習院大学経済学部教授

経済価値の源泉および生産性上昇の要因として近年注目されているのが無形資産ですが、経済学では無形資産を、情報化資産(ソフトウェア系、データベースなど)、革新的資産(研究開発など)、経済的競争能力(人的資本、組織資本など)に分けています。各無形資産の投資額をGDP比でみると、日本はソフトウェア・データベース投資や研究開発投資は他の先進国に比べて見劣りしていませんが、人的資本投資は大変低いです。

(3) 日本の人的資本投資の現状

人口減少が進む中で生産性を高めるためには、経済成長をもたらすための数少ないチャンネルとして人的資本への蓄積が需要となります。なお、人的資本も物的資本と同様に、ある時期に来ると減耗(陳腐化)しますが、経済学では減耗率は25%から40%と計測されます。つまり、減耗分以上に投資しないと、ストックは積み上がりません。日本の2018年の人的資本投資額は約1.7兆円ですが、1990年代後半が投資のピークで、その後は横ばいとなっています。また、2018年の人的資本ストック額は約4兆円程度ですが、人的資本は減耗するので、投資が増えないと、ストック額も増えず、2011年以降は、ほぼ横ばいとなっています。

(4) 人的資本投資と生産性、利益率の関係

図2

人的資本投資と生産性に関する先行研究では、概ねどの研究においても、人的資本投資が生産性に寄与しているとの結果を示しています。また、日経スマートワーク経営調査データを使った分析の結果、人的資本投資は労働生産性と正で相関していることが明らかになりました(図2)。ただし、効果が出るまでに時間がかかる場合もありますので、教育訓練費は投資として考え、継続的に投資を行うことで生産性を上げる必要があります。

(5) 今後期待される人的資本の開示について

政府が発表した人的資本可視化指針には、「経営者、投資家、従業員を始めとするステークホルダー間の相互理解を深めるため、人的資本の可視化は不可欠である」と記載されており、人材育成に関連する開示事項として、研修時間や研修費用という例示がなされていました。私ども学術界、特に経済学専攻からの期待としては、人的資本がROEや生産性にどのような効果をもたらしているのかを分析するため、従業員一人当たりの総研修費用と総研修受講時間、全従業員の給与と賞与、雇用形態別の従業員数と給与総額などの比較可能な数値を開示していただけるとありがたいです。また、ICTや研究開発、組織改編などへの投資の開示や、従業員の健康やウェルビーイングと企業業績の関係についてのエビデンスの開示も、より効果的だと思います。

登壇者

滝澤美帆 学習院大学経済学部教授

2008年一橋大学博士(経済学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、東洋大学教授、ハーバード大学国際問題研究所日米関係プログラム研究員などを経て、2019年より現職。中小企業政策審議会、財政制度等審議会など中央省庁の委員を歴任。主な著書に『グラフィック マクロ経済学 第2版』(新世社、宮川努氏と共著)、「コロナショックと働き方」『コロナショックの経済学』(中央経済社、宮川努氏編)などがある。

木内康裕 生産性総合研究センター上席研究員

2001年、立教大学大学院経済学研究科修了。政府系金融機関勤務を経て日本生産性本部入職。生産性に関する統計作成・経済分析が専門。アジア・アフリカ諸国の政府機関に対する技術支援なども行っている。国際的にみた日本の労働生産性の実態など主要国との比較にも詳しい。
主な執筆物に「労働生産性の国際比較」(2003~2006年、2009年以降各年版、日本生産性本部)、「高付加価値経営に向けた今日的な付加価値概念」(分担執筆、生産性労働情報センター)、「新時代の高生産性経営」(分担執筆、清文社)、「PX:Productivity Transformation ―[生産性トランスフォーメーション]企業経営の新視点―」(分担執筆、生産性出版)など。