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2023年度第2回生産性シンポジウムを開催しました

2023年9月19日

公益財団法人日本生産性本部は2023年9月19日、オンラインにて2023年度第2回生産性シンポジウム「地域の生産性向上の鍵:経営課題=社会課題の時代の解決策 ~米国コミュニティ・エクセレンスの衝撃~」を開催しました。近年、我が国の企業や団体は人手不足やマーケットの縮小等の深刻な経営課題に直面していますが、その背景には人口減少や少子高齢化等の社会課題があり、それぞれの分野における生産性向上が必要不可欠です。このような社会課題は、個々の企業や団体だけでも政府だけでも解決が困難であり、「ネットワーク」 で解決することが有効であると言われていますが、これまで具体的な手法が明らかになっていませんでした。このような現状を解決する手法として、現在、米国では、ネットワークガバナンスの具体的な手法を示す“コミュニティ・エクセレンス(COE)”が注目され、昨年には連邦の法改正に至るなど、すでにその有効性も確認されています。そこで、米国でCOEを推進する唯一の組織である”Communities of Excellence 2026”の事務局長をはじめとした専門家2名をお招きし、COEとは何か、なぜ有効な手法となっているか、その要諦を明らかにするシンポジウムを開催しました。

目次
イントロダクション ”失われた30年”とコミュニティ・エクセレンス
佐藤亨 当本部顧客価値創造センター部長
セッション1 米国におけるコミュニティ・エクセレンスの展開 ~社会課題=経営課題を解決する有効なフレームワーク~
 米国コミュニティ・エクセレンス 事務局長 Stephanie Norling(ステファニー・ノーリング) 氏
セッション2 コミュニティとマネジメント~ボルドリッジ・フレームワークの視点から~
米国コンサルタント・ボルドリッジ 専門家 Craig Anderson(クレイグ・アンダーソン) 氏
パネルディスカッション コミュニティ・エクセレンスにおける企業・団体の役割と成功要因 ~米国の事例から~
 <パネリスト>米国コミュニティ・エクセレンス 事務局長 Stephanie Norling(ステファニー・ノーリング) 氏
         米国コンサルタント・ボルドリッジ 専門家 Craig Anderson(クレイグ・アンダーソン) 氏
 <モデレーター> 公益財団法人日本生産性本部 顧客価値創造センター部長 佐藤 亨
日本版コミュニティ・エクセレンス(Japanese Communities of Excellence: J-COE)について

イントロダクション 佐藤亨 顧客価値創造センター部長

佐藤亨 顧客価値創造センター部長

はじめに、佐藤亨 顧客価値創造センター部長より、「”失われた30年”とコミュニティ・エクセレンス」と題したイントロダクションがありました。冒頭、経済同友会が2022年に発行した企業白書から、企業が今後の経営の方向性や事業戦略を考える上で重要な項目として人口減少、労働力不足の進行、脱炭素経済への移行などを挙げていることを紹介し、経営課題の背後に社会課題が潜んでいるとの現状を共有しました。しかし、「失われた30年」が示すように、このような社会課題は政府だけでは解決が困難です。そこで、それらの課題を「ネットワーク」で解決する手法として有効性が確認されている「コミュニティ・エクセレンス」がアメリカで近年注目を集めていると紹介しました。

セッション1 米国におけるコミュニティ・エクセレンスの展開 ~社会課題=経営課題を解決する有効なフレームワーク~

Stephanie Norling(ステファニー・ノーリング) 米国コミュニティ・エクセレンス 事務局長

続いて、Communities of Excellence 2026 (COE 2026) 事務局長のステファニー・ノーリング(Stephanie Norling)氏による、「米国におけるコミュニティ・エクセレンスの展開 ~社会課題=経営課題を解決する有効なフレームワーク~」と題した講演が行われました。COE 2026は、アメリカのNGOで、マルコム・ボルドリッジ国家経営品質賞をベースとした「コミュニティ・エクセレンス・フレームワーク(COEフレームワーク)」を使って社会課題の解決に取り組む32のコミュニティを支援しており、各コミュニティには、活動をファシリテートする「バックボーン組織」があります。また、バックボーン組織とコミュニケーションを取りながら活動を進める推進チームについて、平均寿命の延伸などの課題に取り組むミズーリ州エクセルシオールスプリングスを例に挙げ、シティ・マネージャー、市議会、住民、学区、病院など、さまざまな立場の関係者で構成された課題別のタスクチームが、具体的な活動を進めていると紹介しました。なお、カリフォルニア州サンディエゴ郡南部地域では、慢性疾患による高い死亡率が課題となっており、COEフレームワークを使って、慢性疾患予防、高校卒業率向上、経済活性化に取り組むことで、住民の喫煙率低下、高卒以上の学歴保持者増加、雇用率上昇などの成果があり、この活動はサンディエゴ郡の他の地域にも展開されたことが報告されました。

セッション2 コミュニティとマネジメント~ボルドリッジ・フレームワークの視点から~

Craig Anderson(クレイグ・アンダーソン) 米国コンサルタント・ボルドリッジ 専門家

続いて、米国のコンサルタントでありボルドリッジ賞の専門家であるクレイグ・アンダーソン(Craig Anderson)氏による講演「コミュニティとマネジメント~ボルドリッジ・フレームワークの視点から~」が行われました。まず、マルコム・ボルドリッジ賞(MB賞)について、同賞は1987年にアメリカで、レーガン大統領のもとでグローバルマーケットにおける競争力の低下を背景に創設されたと紹介しました。そして、組織を評価する「ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワーク」について、「リーダーシップ」、「戦略」、「顧客」、「測定、分析、ナレッジマネジメント」、「働き手」、「オペレーション」、「結果」という要素から成り立っており、そのクライテリア(審査基準)には、約500の質問があるとの説明がありました。なお、このフレームワークは2年ごとに見直しがされており、最近の改定では、レジリエンス、公平性とインクルージョン、デジタル化、社会貢献、イノベーション、安全性が強調されています。最後に、MB賞は、当初は製造業が対象でしたが、その後、教育機関、ヘルスケア機関、非営利組織などに適用セクターが拡大し、2022年には新たに「コミュニティ」が加わったことで、COE2026およびアライアンス・プログラムへの支援を行っていると伝えました。

パネルディスカッション コミュニティ・エクセレンスにおける企業・団体の役割と成功要因 ~米国の事例から~

パネルディスカッションの様子

最後に、「コミュニティ・エクセレンスにおける企業・団体の役割と成功要因 ~米国の事例から~」と題して、登壇者3名によるパネルディスカッションが行われました。はじめにノーリング氏は、乳児死亡率、高校卒業率、貧困率の改善に取り組むために、COEフレームワークを活用したオハイオ州トレドの事例を紹介しました。この事例で「バックボーン組織」となった民間企業のプロメディカについて、その理由として、過去にボルドリッジ・フレームワークを使用して有効性を理解していたことと、同社がコミュニティで信頼されていたことを挙げました。

また、トレドがCOEフレームワークを選んだのは、コミュニティ向けツールの多くは、特定のセクターや課題のみにフォーカスしているのに対し、COEフレームワークは包括的であり、さまざまな要因が複雑に絡む課題を解決する手段だったことを挙げました。アンダーソン氏は、プロジェクトが成功する要因として、ボルドリッジのフレームワークのスコア配分が、3分の2がプロセス、3分の1が成果と、プロセスを重視していることを挙げ、プロセスを正しく行えば、成果はおのずとついてくると説明。また、ノーリング氏は、影響力を持ち、信頼されるリーダーと、仕事を遂行することができるリーダーの2つのタイプのリーダーが一緒に取り組むことができれば、プロジェクトの成功につながることを示唆しました。

日本版コミュニティ・エクセレンス(Japanese Communities of Excellence: J-COE)について

当本部は社会課題化した経営課題の解決にむけて、企業・団体の方を対象に“日本版コミュニティ・エクセレンス”の取り組みを推進します。 詳しくは下記リンクよりご覧ください。

登壇者

米国コミュニティ・エクセレンス事務局長 Stephanie Norling(ステファニー・ノーリング) 氏
Stephanie Norling, Executive Director, Communities of Excellence 2026

2014年よりCommunities of Excellence 2026の事務局長としてフレームワーク開発に参加するとともに、このフレームワークに基づく取組みを支援する米国全土のコミュニティであるNational Learning Collaborativeを発足させる。現在、メンターとして参画コミュニティへの指導等も行う。

米国コンサルタント・ボルドリッジ専門家 Craig Anderson(クレイグ・アンダーソン) 氏
Craig A. Anderson, Strategic Advisor on Baldrige Performance Excellence

経営革新と卓越性の基準として世界的に評価されている「ボルドリッジ・フレームワーク」の専門家として、アジア、ヨーロッパなど60カ国以上で20年以上に渡る豊富な支援実績を有する。企業、政府機関、非営利団体が持続的に優れた業績を達成できるよう、マネジメントとアカウンタビリティ・システムを最適化するための支援を行う。

日本生産性本部 顧客価値創造センター部長 佐藤 亨
SATO Toru, Director, Japan Productivity Center Customer Value Creation Department

2003年横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程前期修了。同年、社会経済生産性本部(現:日本生産性本部)入職。これまでに地方を中心とした政府の経営や会計に関する調査・研究やコンサルティングに従事。 2022年より現職。立教大学兼任講師、明治大学客員研究員、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構調査研究協力者(~2021年 客員准教授)。専門は政府の経営・会計。