第5回:グループ力強化に向けた人材育成~ANAグループ~(2018年11月25日号)

■グループ力強化に向けた人材育成を推進

ANAグループでは、「人財こそが最大の資産であり、差別化の源泉」との考えに立ち、グループ各社が連携して、採用―育成―評価・処遇―教育・研修を戦略的に推し進めた人材育成を行っている。 

2016年度には「アドバンスキャリア制度」を導入し、集合研修、戦略的ローテーション、個別研修などを組み合わせた育成の仕組みを構築するなど、グループ力強化に向けた人材育成を促進している。 

ANAグループは2013年度から、グループ経営の強化や、各事業会社の自律的経営によるグループ運営の推進などをねらいとして、持株会社制へ移行した。「持株会社化によって、グループが一体となって運営する体制になったが、グループの成長戦略実現の原動力となるグループ各社の発展とグループ運営体制の深化に向けて、グループの事業を牽引する人財の育成が求められてきた。グループ各社でコアとなってグループの事業を牽引していける人財を選抜し育成しようと、『アドバンスキャリア制度』を導入した」(河村光章・ANAホールディングスグループ人財戦略部担当部長)という。 

同制度では、グループ会社を牽引する役割を期待されている人材を各社から選抜し、SM(シニアマネジメント)層(部長層)、MM(ミドルマネジメント)層(課長層)、PM(プレマネジメント)層(管理職候補者層)の三つに分け、それぞれ長期の集合研修を1年目に実施する。また、集合研修が終了した後の2年目プログラムとして、コーチングなどの個別研修を実施し、集合研修で学んだ内容を対象者の職場で実践していくための様々な支援を行う。研修で学んだことを実際の仕事の中で生かすために、事業領域の異なる他のグループ会社に異動する「戦略的ローテーション」も実施している。これらの仕組みをまとめて「アドバンスキャリア制度」と称している。 

この選抜型集合研修「ANAグループビジネススクール」では、各種スキルの習得だけでなく、リベラルアーツや社外でのフィールドワークを通して、自身の強みや感性を見つめ直し、得た気づきと学びを基に視野を広げ、グループを牽引するリーダーを育成している。2016年度から体系化され、グループ企業39社が参加している。 

今期のSMコースは、11月からスタートし、2020年2月まで開催される、長丁場の研修となっている。経営戦略、マーケティング戦略などの経営に関する講義やケーススタディ、経営者の講話、社外でのフィールドワーク(登山、他社の職場見学)などのプログラムのほか、美的感性を養う「対話型鑑賞プログラム」や、「世界史から読み解く世界情勢」といったリベラルアーツのプログラムも多く取り入れているのが特徴だ。 

さらに、研修の参加者は、今後のANAグループの戦略のあり方について、グループ単位で議論し、課題解決の方法などを提案・発表する「グループ学習」と、所属する会社の全社戦略を個人で検討・発表する「個人発表」にも取り組む。 

今期のMMコースは6月にスタートし、来年2月まで1泊2日の研修を計6回開催する。グループ企業24社から選抜された課長層24人が参加している。 

参加者は、経営戦略、財務戦略、人材・組織戦略、リーダーシップなどの経営に関する知識を身に付けるほか、ロジカルシンキングやプレゼンテーション、アセスメントを活用した自己理解などの学習も行う。社外でのフィールドワークとして、宮城でのボランティア活動や他社の職場見学も行われる。 

MMコースの「グループ学習」は、「近未来に求められるリーダーシップ」をテーマとしている。「グループ学習については、研究で終わるのではなく、自分たちが研究して立てた仮説について研修期間中に職場で実践し、検証してほしいと言っている。実際に職場で実践した結果、どうなったのかを含めた提言発表を求めている」(柳沢尚希・全日本空輸人財戦略室ANA人財大学マネジャー)。 

PMコースは約3カ月(計8日間)の日程で、年に4回開催している。自己理解を深め、自分で答えを導き出す思考方法や、発想法を高める思考方法などを身に付ける。「キーワードは『主体性』。自分で主体性を発揮して職場を変え、課題を解決していくための能力の育成に主眼を置いている」(柳沢氏)。PMコースの「グループ学習」は、「5年後、10年後のANAグループのありたい姿とは何か。そのために自分たちが行うべきことは何か」をテーマとしている。 

これまでの成果について河村氏は、「通常の各社の研修ではなかなか実現できない、グループ横断的な視点を醸成することができるようになった。研修を通して、グループ間の人財の交流も活発化した。SMコースを修了して、実際に役員になっている者も出ている。今後、さらに研修内容の充実を図っていきたい」としている。    

■リーダーに必要な「自分をまとめるリーダーシップ」

(MMコースの主任講師を務める鬼澤慎人・日本生産性本部講師の話)

ANAグループビジネススクールのグループ学習は、様々な会社を研究、訪問する体験学習的な要素も持ち、研究テーマを自社にどう生かしていくかという、実践の視点が明確である点が大きな特徴だ。 

私はMMコースではリーダーシップのプログラムも担当しているが、リーダーシップは知識として頭に入れているだけでは意味がない。学びだけではなく、体験学習による気づきと実践が大事だ。 

人は、自分で納得し「そうだなあ」と思うときに変わる。自分で考えたり、振り返ってみたり、同じような立場の人と話をすることで「やっぱりそうか。自分はまだまだできていないな」と気づく。自分で「こうしよう」と思わない限り、人は動かない。 

私の講義の半分は一人一人に考えてもらったり、話し合ってもらうスタイルを取っている。「部下への声掛けは1日にどのくらいしていますか」「自社や自部署のビジョンを部下にどう伝えていますか」と具体的に投げかけないと参加者は考えてくれない。研修では、学び合う場づくりとタイミングよく問いを投げかけることを意識している。 

リーダーシップには「みんなをまとめるリーダーシップ」と「自分をまとめるリーダーシップ」があるが、リーダーにはぜひ、「自分をまとめるリーダーシップ」を考えてほしい。 

自分の中には、前向きの自分もいるし、面倒くさがりの自分もいるが、結局は自分で自分をまとめなければならない。そのためには自分の中にしっかりとした自分の軸がないと、どんどんぶれていってしまう。人への接し方や声の掛け方など、一つ一つについて研修をきっかけに自分を振り返ってもらうことを大事にしている。 

会社の目的のみならず、人生の目的までも考えてもらわないと、自分自身をリードできない。「自分をまとめるリーダーシップ」とは日本語でいうと自立であり、自律だ。そのためには組織と同様に、自分の中にも軸(ミッションとビジョンとバリュー)を持つことが必要だ。組織をまとめるリーダーにはリーダー自身のあり方が問われる。 

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