第4回:改善活動による風土改革~ニッカウヰスキー~(2018年11月5日号)

■トップが関与、リーダー養成で現場力強化

ニッカウヰスキー(本社=東京・南青山)は、課題解決能力の向上などをねらいとして、製造現場のリーダーを半年間で養成する「現場力向上リーダー育成プログラム」を2017年度から実施している。 

講師による個別指導も充実しており、同社の現場力強化につながっている。 

日本生産性本部が開発した「現場力向上リーダー育成プログラム」は、参加者各人の自ら取り組みたい課題(本人の困りごとや組織から期待されている課題等)を直接取り扱い、改善効果を実感し成功体験を得ることで、改善の楽しみを知り、自主・自律的に継続的な改善に取り組む風土を醸成する。 

現場改善・コストダウン活動等を指導してきた経営コンサルタントが課題解決目標の達成まで直接指導し、参加者に達成感を得てもらうことによって、自信に満ちた現場改善リーダーを育てる。ムダ・ロスの視点、課題解決の進め方・手法、生産管理の基礎等の知識を習得する。リーダー自身の意識変革、リーダーシップ・コミュニケーション能力等を向上させるために、体験型コミュニケーション研修を取り入れ、気づきに基づく意識変革を促す。 

上から押しつけられた活動ではなく、自ら「やりたい」と思う課題に挑戦し、達成の喜び、成功体験を知ることにより、自ら主体的に動くことができるリーダーを育てる。 

今年度の「現場力向上リーダー育成プログラム」は3月から9月にかけて行われ、西宮工場と門司工場の充填部門から現場リーダー5人(西宮2人、門司3人)が参加した。 

門司工場で3月に開催された集合研修では、業務改善・改革の視点、リーダーシップ、業績をあげる人材を育む組織風土づくりなどに関する講義・演習や、課題解決のプロセスの理解、課題選定に向けた現状分析手法、目標設定の考え方などを学んだほか、門司工場の現場見学も行われた。 

4月から6月にかけては、研修を担当する矢島浩明・日本生産性本部主席経営コンサルタントが、参加者の職場を個別に訪問し、テーマや目標の確認や、「現状・原因分析実施計画書」(自らが半年間、取り組む課題を選定し、選定した課題をどのように実施していくかの計画書)の作成のフォロー、現場確認などを1人当たり90分行う「個別フォロー」を実施した。 

西宮工場で7月に開催された集合研修では、チームワーク、コミュニケーションなどに関する講義や、改善に役立つ手法の講義、現状・原因分析実施結果の発表、改善案の創出の演習などが行われ、西宮工場の現場見学も行われた。 

8月から9月にかけては、再度「個別フォロー」が開催され、改善実施状況の確認や指導など、1人当たり90分の個別指導を西宮工場と門司工場で実施した。 

9月下旬には門司工場で、岸本社長、西宮工場長、門司工場長等の経営幹部が出席して、1人当たり12分の持ち時間で、改善実施状況の成果発表が行われた。 

研修期間中は、直属の上司(課長)が指導員、その上の上司(部長)が指導責任者となり、参加者に対する指導、助言を行った。   

■改善活動による風土改革を目指したい

(岸本健利・ニッカウヰスキー 代表取締役社長の話)

ここ10年ぐらいはウイスキーの市場は好調で、海外でも日本のウイスキーの評価は高まっているが、少子高齢化や若者の飲酒離れなどの様々な環境変化が起こっているなかで、この流れはいつまで続くかわからない。 

そこで、良い状況であるからこそ、社員教育に注力し、従業員のレベルを高めていきたいと考えた。当社のウイスキー事業は平成元年以降、長い低迷の時代が続き、従業員に十分な投資を行うことができなかった。当社には八つの工場があり、約500人の従業員がいるが、まずは現場のリーダー層のレベルを上げることで全体のレベルを引き上げ、環境変化に柔軟に対応できる企業をつくっていきたい。 

改善実施状況の成果発表を聞いて、昨年よりは今年の方がレベルは上がってきており、QCストーリーやQC手法がしっかり身に付いているなと感じた。短時間で一つのテーマについてしっかり成果を上げるという意識も強く感じた。部長や課長などのサポーターがしっかり支援してくれたこともよかった。 

改善で一番大事なのは、改善すべきポイントを見つけていく力だ。改善すべきポイントさえつかめれば、おのずと結果はついてくる。日々の仕事の中に改善のテーマはいくらでもある。「なぜこんなことをやる必要があるのか」といった疑問を常に持ち、それを改善のテーマにすればいい。そういう感覚を研修でしっかりつかんでほしいと思っている。 

改善活動に期待していることは四つある。 

一つ目は労働生産性の向上とともに、女性や高齢者も含め、すべての従業員が楽に仕事ができる職場をつくること。二つ目は人材の育成だ。まずはリーダー層の育成をしっかりとやっていきたい。三つ目は技術の伝承。技術を持った人材が定年退職でこれから辞めていく。標準化すべきところは標準化し、残された人間でやっていける職場にしたい。四つ目は風土改革で、これが一番大事だ。 

最終的には、改善活動が常にどこの職場でもぐるぐる短期間で回っているような職場風土を目指していきたい。そうなれば、結果として利益が創出され、ひいては従業員の生活も豊かになり、モチベーションが上がって、次の改善に進むという好循環が生まれ、会社は持続的に成長できる。来年以降もこの活動を広げていき、できるだけ多くの従業員に研修を受けさせたい。

■楽しさを体感してもらうことが継続的改善の大前提

矢島浩明・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

ニッカウヰスキーの事例は、経営トップの問題意識や思いが明確であるという点が大きな特徴だ。研修を始めたきっかけはトップダウンだが、取り組みはボトムアップであり、トップダウンとボトムアップがうまく組み合わさっている。トップと現場リーダーをつなぐ経営幹部も熱心にサポートしている。 

私は常々、「改善は楽しくやろう。大きな効果を上げなくてもいいからまずは自分の仕事を楽にしよう」と言っている。改善が思うように進まない企業では「改善の楽しさ」を伝えていないことが多い。コストやリードタイムの課題をいきなり押し付け、成果が出ないと叱りつけ、現場がモチベーションを失い、改善活動を苦痛に感じていることがあるが、本来、改善とは知恵や創造性が発揮でき、自分の仕事が楽になり、経営的成果にもつながる「一石三鳥」以上の楽しい活動のはずだ。まずは改善の楽しさを体感してもらうことが継続的改善の大前提だ。 

真の現場力強化には、現場の自主性を引き出し、自ら改善を進める能力やモチベーションを醸成することが、遠回りのようだが最終的には近道になると確信している。

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