第3回:ベトナムにおける現場改善コンサルティング~プラス~(2016年10月15日号)

■ベトナムで「生産性2割向上」を実現

プラスは、海外事業を成長戦略事業と位置付け、ベトナム・中国・台湾・米国・ドイツに現地法人を設立、海外事業の拡大に取り組んでいる。

特に、1995年に従業員25人でスタートしたベトナムは現在、従業員2400人を超える一大生産拠点に発展した。プラス全額出資のベトナム現地法人「プラスベトナム工業」(角坂靖夫社長)の文具・事務用品製造拠点として、ビエンホア工場、ヌンチャク工場、モールディングファクトリーの三つの工場を開設している。 

ベトナムでのものづくりに長年従事している小峰良雄・プラスベトナム工業工場長は、「プラス文具製品の7割近くはプラスベトナム工場で生産しており、修正テープ・テープのり・樹脂製ファイル・紙ファイル等多品種を生産している。新製品の立ち上げも担っており、まさにプラスのマザー工場の位置づけとなっている。プラスベトナム工場のものづくりの力を日本の本社が評価してくれている表れだと思う」と語る。 

プラスベトナム工場では今回、よりいっそうの生産性向上を図るために、日本生産性本部がベトナム向けに開発した現場改善コンサルティングを受け入れた。 

同コンサルティングは、大きく「生産革新トレーナー養成」と「コンサルティング」の二つに分かれる。 

前者では、コンサルタントが現場の簡易診断を行い、問題点や課題の洗い出し、改善方針、数値目標を示した上で、診断結果に基づいた徹底的な改善を生産革新トレーナー候補者とともに行い、主体的に考え、行動できるリーダー社員を養成する。6カ月を1サイクルとして、コンサルタントの指導のもと、会社目標・個人目標を達成する活動を行い、改善成果達成と能力育成を同時に行う。 

後者では、コンサルタントの指導のもと、入口から出口までの工場全体の流れを意識した改善課題の指導を行う。育成された生産革新トレーナーが中心となり、さらなる改善を各職場で自主的に行えるように指導する。 

今回の現場改善コンサルティングは、2015年の7~12月にビエンホア工場、16年1~6月にヌンチャク工場で、月1回3日間、計12カ月の日程で行われた。3日間のうち、「生産革新トレーナー養成」を1.5日、「コンサルティング」を1.5日行い、両工場でそれぞれ12人のトレーナーを養成した。 

トレーナーは、1日目の午前中に改善の講義を受けた後、午後は2グループに分かれて、モデルラインでの改善実習を行った。実習時間内に現場レイアウトやモノの置き方、作業のやり方を変更し、成果の確認ができるまでフォローした。 

2日目は、各トレーナーの担当モデルラインを中心に、コンサルタントが午前と午後に2回巡回した。1巡目では、現状確認を行い具体的課題を与え、2巡目では改善結果を再度確認した。改善できなかったことは課題として残し、経営トップも出席する3日目の成果報告会で報告、検討してもらった。 

これらの活動の結果、ビエンホア工場では、対象ラインにおける20%の工数低減による生産性向上と20%のスペース創出を実現した。ヌンチャク工場では、対象ラインにおける50%の工数低減による生産性向上と20%のスペース創出を実現している。 

「ヌンチャクでは『一人屋台生産方式』が浸透し、できる人間がどんどん増えてきた。ビエンホアでは、新たな工程改善のテーマに取り組んでいる。今回受講したメンバーに改善を頼ってしまう傾向があるので、今後は、自主的に改善に取り組むことができる人材をもっと増やしていきたい」(小峰工場長)としている。

■低くなった部門間の壁

(小峰良雄・プラス ベトナム工業工場長の話)

工場を立ち上げた当初は、品質に対する疑問もあったが、品質第一で取り組んでいるうちに、品質の良さが認識されるようになった。注文も徐々に増え、中国からの生産移管もあり、プラスのものづくりを支える存在になった。 

何事にも「やってみること、行ってみること、見てみること」が非常に大事だ。過去に延べ100人以上の工場スタッフを日本に研修に送り込んだのも日本を見て感じてほしかったからだ。今回の受講メンバーである生産革新トレーナーも日本に5日間程度、本社と所沢工場(スタンプ生産工場)に派遣し、日本人が考えている品質とはどういうものかを理解してほしいと思っている。そのメンバーがベトナムに戻り、工場内で日本の品質や文化について話すことで品質への理解がよりいっそう深まるだろう。 

過去にも工程改善のアドバイスはあったが、現場の従業員に腑に落ちるものがなかった。平澤コンサルは「教えるけれども、その後のアイデアは自分たちでやってください」という考え方で、私も、自分たちで考え行動しなければ自分たちのモノにならないと思っていたので、考え方が一致した。コンサルの人柄も重要と考えていたが、平澤コンサルはベトナム人の心をつかむのが非常にうまく、本当に良かった。 

ビエンホアでは、成形、スリッター、組立、印刷でそれぞれ部門が分かれているが、成形やスリッターの部門はこれまで他の部門とあまり交流がなかった。しかし、今回、これらが一つのグループでトレーニングを受けたことで、部門間の情報がスムーズに流れ始めた。 

ヌンチャクでも、押し出し、クリアファイル、フラットファイルなどで、部門間の壁が低くなり、部門間で助け合うことが多くなった。他の工程に対する理解も生まれてきた。押し出しの部門のアイデアが、クリアファイルの改善に使われている。 

今回コンサルを受けて、様々なことを学んだので、それらを今後、実践していきたい。 

■「一人屋台生産方式」で変化対応を

(平澤宏邦・日本生産性本部経営コンサルタントの話)

指導にあたっては、こちらから一方的に教えるのではなく、自分たちで問題点に気づき、課題を解決してもらう活動になるように留意した。例えば、ビエンホアでは、コンベアを使って、部品が10個ある修正テープを多くの人が分業して組み立てていた。最初の診断の時に、コンベアは要らないという話をした。その時はそれで終わったが、その後の活動の中で、自分たちでコンベアは必要ないと気づいて、結果としてはメンバーが自主的にコンベアを撤去した。そうした自主的な活動が根付きつつある。 

ベトナムのものづくりの基本は、安い人件費をベースとした大量生産であり、分業が主流になっている。注文も今はまだまだ大きい単位だが、近い将来は間違いなく小ロットになるだろう。品質についての顧客の要求もよりシビアになってきている。そうした環境変化に対応していく準備を今から進めておくべきだ。 

多品種少量生産においては、リードタイムを短くすることが重要だ。段取り時間を短縮し、モノの停滞を減らすことで可能になる。そのためには、一つの工程しかできなかった人を、いくつかの工程をこなせるようにする多能工化を図り、最終的には、一人ですべてをこなせる「一人屋台生産方式」を導入することだ。責任を持って一人ですべてをこなすことが作業者の誇りとなり、自信となる。一人でこなせる人をどれだけそろえられるかが、顧客対応力の向上、ひいては企業競争力の向上につながる。

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