第5回:技能系現場リーダー育成~ジャパン マリンユナイテッド~(2016年12月5日号)

■個別指導で技能系現場リーダーを育成

ジャパンマリンユナイテッド(JMU)では、課題解決能力の向上などをねらいとした技能系社員の研修に力を入れている。 

階層別では「新入社員研修」「中堅社員研修」「新任班長研修」「班長特別研修」「新任職長研修」を実施しているが、その中でも、技能系の現場リーダーを半年間で養成する「班長特別研修」は、指導講師による個別指導も充実しており、同社の改善活動の定着に貢献している。 

船舶・艦艇・海洋浮体構造物等の設計、製造、販売等を行っているJMUは、ユニバーサル造船とアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドの統合によって、2013年1月に設立された。技能系社員は、横浜事業所(鶴見工場、磯子工場)、津事業所、呉事業所、有明事業所(熊本県玉名郡)、舞鶴事業所(京都府舞鶴市)、因島工場(広島県尾道市)に勤務している。 

同社の班長特別研修は、日本生産性本部が開発した「現場力向上リーダー育成プログラム」の考え方を取り入れている。 モノづくり現場のリーダーには現場のQCDSE(Q品質、Cコスト、D納期、S安全、E環境)を維持・向上する能力が求められ、それをバランスよく強化することが重要であり、最終的には「実践力」が求められるが、「現場力向上リーダー育成プログラム」では、こうした能力を育成するため、実践を通じたモノづくり企業のリーダー養成を支援する。 

同プログラムでは現場リーダーが直面している現実の課題を取り上げ、現場改善やコストダウン活動等を指導してきたコンサルタントが課題解決目標の達成まで直接指導し、受講者に達成感を感じてもらうことで、自信に満ちた現場改善リーダーを育てる。ムダ・ロスの視点、課題解決の進め方・手法、生産管理の基礎等の知識の習得のほか、体験型コミュニケーション研修を取り入れ、気づきに基づく意識変革を促す。 

JMUの今年度の班長特別研修は、30~40 歳代の21人を対象に5月から11月までの期間で行われた。 

因島工場で5月12~13日に開催された「第1回集合研修」では、部下育成やチームワーク向上、コミュニケーションなどに関する講義のほか、課題解決のプロセスの理解、現状分析に役立つ手法などを学んだ。また、自らが半年間、取り組む課題を選定し、選定した課題をどのように実施していくかについての「現状・原因分析実施計画書」を作成した。 

6月に有明、呉、因島、舞鶴、津、鶴見、磯子の7事業所で行われた「第1回フォローアップ研修」では、研修を指導する矢島浩明・日本生産性本部主席経営コンサルタントが、参加者の職場を個別に訪問し、現場を確認した上で、現状・原因分析の実施状況の確認や活動状況へのコメント、アドバイスを1人当たり80分、行った。7月に各事業所で行われた「第2回フォローアップ研修」でも80分の個別指導を行った。 

8月25~26日に呉事業所で開催された「第2回集合研修」では、原因分析結果の個別発表のほか、改善に役立つ手法についての座学、改善案を考える演習などが行われた。 

9月と10月には第3回、第4回のフォローアップ研修が個別に各事業所で開催され、改善実施状況の確認や活動状況へのコメント、アドバイスなど、80分の個別指導がそれぞれ実施された。 研修期間中は、直属の上司が指導員、その上の上司が指導責任者となり、研修参加者に対する指導、助言を行い、研修を支援した。 11月10日から18日にかけて参加者が所属する各事業所で行われた「各事業所報告会」では、事業所の幹部や所属長の出席のもとで、研修の成果が発表された。11月25日に東京・港区の本社で行われた「第3回集合研修」では、役員等の出席のもとで、研修の成果が発表された。 

■地歩固めた新研修体系

(高原伸一・ジャパンマリンユナイテッド 人事部主幹の話)

2013年1月の統合当初のJMUにおいては、「融和・融合による統合効果の早期実現」が大きなテーマだった。現場において統合効果を早く出すために、製造部門が交流し、早期融和を図り、一体感を醸成するための施策として、事業所間交流研修である「全社職長交流研修」や「全社班長交流研修」を実施した。 

それとともに、日本生産性本部の協力を得て、技能系社員の研修体系を整備していった。初年度の中堅社員研修は、各事業所の取り組み姿勢に濃淡があったため、昨年度から研修の指導員や指導責任者を対象とした事前説明会を実施し、研修の趣旨の周知徹底を図っている。班長特別研修では昨年度から「各事業所報告会」を新たに加えた。 

班長特別研修では個別指導を矢島先生にお願いしている。参加者は現場の課題をどう解決したらいいか悩んでいるが、矢島先生が現場に入ってきてくれると課題が「見える化」される。課題が明確になり、これが問題だと指摘してくれて、その先に進むことができる。他社での豊富な指導経験を踏まえた改善のヒントもたくさんもらっている。また、過去に他の事業所で実施された改善活動の内容を引用してのアドバイスもしていただいている。 

新研修体系になって3年が経つが、やっと研修の形が固まりつつある。この形でしばらくは続けていきたい。今後は、各事業所の理解を得ながら、研修をきっかけとした改善活動の充実に力を入れていきたい。

■「改善は楽しい」現場が実感してこそ進歩

矢島浩明・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

班長特別研修は、基本的にはリーダー育成研修であり、リーダーが自分の部下を巻き込みながら、主体的に現場改善をリードできる人材を育成していくことをねらいとしている。集合研修だとどうしても受講生の理解度に濃淡が出てしまう。頭では理解したつもりになっても実践する際に戸惑ってしまう例も多い。一人一人が自分で実際に手を動かし、「できた。達成した」というレベルまで到達しないと、現場での実践はなかなか続かない。そのためには個別指導が最適だ。個別指導だと受講生の真剣度が違う。自分自身が現場で関わっているテーマであり、しかも6カ月の長丁場なので、ごまかせない。 

取り上げるテーマについては、今、一番困っているテーマを出してくださいとお願いしている。それが解決できれば改善の楽しさを実感してもらえると考えているからだ。 

改善とは本来、知恵や創造性が発揮でき、自分の仕事が楽になり、経営的成果にもつながる、一石三鳥以上の楽しい活動のはずだが、経営者は、コスト削減やリードタイムの短縮、在庫削減などの目先の成果を現場に求めがちだ。現場が改善の楽しさを知らなければ、改善は長続きしない。「改善とは楽しいものだ」と現場が実感してはじめて、継続的な改善を進める風土が醸成され、それがリードタイムの短縮やコスト削減につながっていくということを経営者は理解しなければならない。 

技能系社員育成に関する日本企業の課題は、団塊の世代が抜けた後の技能伝承だ。次のリーダークラスの層がスポンと抜けている企業が多い。しかし、年齢構成のひずみもあり、今の現場リーダー候補者は、しっかりとした指導を受けた経験があまりないので、指導をやれと言われてもよくわからない。教わったことがない人は人に教えられない。こうした問題を解決するために、班長特別研修のような教育を行い、次の現場リーダーを育てていこうという企業も出てきている。

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