「キャリア開発」で挑む経営課題①(2015年6月25日号)

■曖昧さ内包するキャリア開発支援

「キャリア開発」というキーワードが産業界に広まり始めて10数年が経過した。この間に、社員のキャリア開発を支援するための研修や制度が大手企業を中心に導入され、今では人事施策としての市民権を得たような感がある。

その一方で、キャリア開発に関連する施策を行っていない企業も相当数にのぼることが各種調査より明らかになっている。

既にキャリア開発に取り組んでいる企業においても、組織風土として定着するなど、着実に成果につながっている事例と、残念ながら一時的なモチベーションの喚起に留まっている事例があるように、成否についてもバラつきが見られる。

シニア社員の活性化や女性の活躍推進など今日的な経営課題を解決するにあたり、非常に親和性のある施策でありながら、このようなバラつきが生じる背景には、キャリア開発という施策に内在するある種の曖昧さがあると考えられる。すなわち、キャリア開発とはそもそも何をすることなのか、どのようなメカニズムで経営課題の解決につながるのか、といった肝心な点がわかりづらいのだ。

そこで本連載では、キャリア開発という施策の本質を改めて確認するとともに、今日的な経営課題の解決に同施策をどのように活用していくべきか、また成功と失敗を分ける分水嶺について明らかにしていきたい。

まず、キャリア開発とは、具体的にどのような施策を指すのだろうか。キャリア研修やキャリアディベロップメント制度(CDP制度)などを思い浮かべる人も多いだろう。結論からすると、キャリア開発という施策は、何か特定の研修や制度のことだけではない。「キャリア開発の目的」に沿った施策であれば、ジョブ・ローテーションやメンター制度のように、以前から取り組まれてきた人事諸制度も該当することになる。

では、キャリア開発の目的とは何か。様々な見解があるものの、それぞれに共通する核の部分を抽出すると「社員が自身のオリジナル・サクセスストーリーを明確にするとともに、本人と会社が力を合わせながら中長期にわたりその実現を目指す過程で、能力開発とパフォーマンスの発揮を追求すること」と言える。

逆に言えば、「画一的な成長モデルをもとに、将来の構想は本人に任せっきり、あるいは会社が一方的に策定し、短期的な視点で研修や人事異動を行う」施策は、仮に「キャリア」という冠がついていようと、キャリア開発の目的とは異なるため、本来期待される効果も不十分になってしまう。

実際にどのようなキャリア開発施策を、どの程度の割合で企業が導入しているのだろうか。厚生労働省の調査(「平成26年度キャリア・コンサルティング研究会」)によると、「階層別キャリア研修」(68.4%)、「職場の上司・管理者によるキャリア面談・相談」(57.9%)、「社員のキャリア形成を意識したジョブ・ローテーション」(46.7%)、「節目キャリア研修」(40.7%)などが上位にきている。

また、これらの施策をどのような経営課題の解決に活かそうとしているかについては、前述の調査によると「管理職の社員の部下育成、指導」、「中堅社員の育成、成長」、「ベテラン社員の職場適応、モチベーションの維持・向上」などの経営課題と相関関係がみられる。

つまり、「部下の育成」、「本人の成長」、「モチベーションの向上」といった様々な経営課題に対し、キャリア開発施策を切り口に挑んでいる企業の実態がうかがえる。

もっとも経営課題の解決を考えたときに、キャリア開発施策を導入すればなんとかなる、あるいはキャリア開発施策だけで対応できると考えるのはいささか楽観的過ぎる。制度をうまく組み合わせながら、キャリア開発の目的に則して運用していくことが大切なポイントである。

次回は、具体的な事例を用いながらこの点について明らかにしていきたい。


筆者

栗林 裕也
日本生産性本部 人材開発コンサルタント

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