「キャリア開発」で挑む経営課題③(2015年7月15日号)
■主体性を引き出す戦略モデル
人間の思考や行動の特性は、長年の積み重ねの結果として形成されたものなので簡単には変わらない。これまで受動的であった人材が自責で物事を考え、キャリアビジョンに向かって自らの行動を律するようになることを期待するのであれば、相応の戦略と手立てが必要となってくる。
日本生産性本部では、これまでの実践から得られた知見と有識者の見識を基に、主体性を引き出す戦略モデルを考案し、活用している。
モデルの全体像であるが、まず【1】人材モデルを明確にした後に、【2】本人向けに主体性を育むきっかけとなるアプローチを行いつつ、【3】行動が持続するように環境を整えるというものである。それぞれのポイントを見ていこう。
<1.人材モデルの明確化>
目指す人材モデルを発信することで、会社と社員の認識をすり合わせる重要な役割を果たす。会社が望ましいと考える人材像を明示しなければ、社員の目指す方向性と到達レベルにバラツキが生じてしまう。人材モデルは「先取り志向で、自主的な、自己と組織の改革・改善を目的とした行動をとれる人材」など、自社の経営課題の解決を見据えたものとする。また、明確化は施策の目標設定に該当し、プログラムの検討や、取り組みが終わった後の評価のためにも必要となる。
<2.本人向けアプローチ>
人の行動は、考え方が変わることによって変化する。従って、行動変容を促すためには、主体的に物事を考えるようになる「きっかけ」が必要となる。当本部では研修を「きっかけ」の一つとして位置づけている。研修では次の三つの要素の向上が相まってこそ効果を発揮するとの考えに基づき、プログラムを構成している。①モチベーションの向上=心から実現したいと思うキャリアビジョンを明確にできるかどうかがポイントとなる。
②思考の質の向上=物事を自責で考えることで、自らが自分のキャリアの主人公になりうるとの気づきを促す。
③行動の質の向上=漫然と仕事を行うのではなく、この仕事をキャリア開発にどのようにつなげていくのか、という意識を持って臨むように促す
「きっかけ」となるのは、研修だけではない。毎日、部下と顔を合わせる上司は、良いきっかけを毎日提供できる立場にある。上司に自覚を促すことも重要である。
<3.環境の整備>
ある行動が望ましい結果につながらなければ行動の頻度が減るという行動分析学の理論からすると、せっかく主体的に考え、行動に移すようになっても、成果を感じられなければ元に戻ってしまうおそれがある。そこで「きっかけ」を持続的な行動につなげるための「仕組み」が必要となってくる。主な「仕組み」として、二つの切り口がある。一つは「組織ニーズと個人ニーズをすり合わせる仕組み」だ。キャリア面談制度等を活用し、組織からの期待と本人が実現したい将来像をすり合わせ、必要なキャリア支援を行う。面談場面だけではなく、日常の上司と部下のコミュニケーションを通じて互いのニーズを共有しておくことが望ましい。
もう一つは「主体性をキャリア開発に活かす仕組み」である。キャリア開発のために自らが選択し得る機会を提供するもので、FA制や異動の自己申告制といった配属に関するもの、カフェテリア方式に代表される能力開発に関するものなどがある。これらの制度は社員の主体性を図るバロメータにもなる。もし、十分に活用されていなければ、「きっかけ」づくりから考えてみる必要がありそうだ。
これら一連の取り組みは継続することが大切だ。継続することで主体性を尊重する風土が定着し、組織の構成メンバー全員の意識や行動に影響を与えることになる。
筆者
栗林 裕也
日本生産性本部 人材開発コンサルタント
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