「キャリア開発」で挑む経営課題②(2015年7月5日号)

■成功と失敗の分水嶺

前回は、キャリア開発という人事施策が、「管理職の部下育成」や「ベテラン社員のモチベーション向上」という経営課題の解決に活用されている一方で、残念ながら成果につながっていないケースも散見されることに触れた。

では、何が成功と失敗を分かつ決定的な要因となるのだろうか。今回はその点に焦点を当てつつ、制度運用のポイントについて明らかにしていきたい。

近年、50~60歳代の社員(以降は「シニア社員」)の活性化にかかる企業からの相談が突出して多い。この背景には、13年の高年齢者雇用安定法の改正により原則65歳までの雇用が求められるようになったことに加え、バブル期の大量採用によりミドル世代の社員が多く、数年後にはシニア世代の増加が確実に見込まれるという企業の実情がある。多くの企業にとっては待ったなしの経営課題となっている。

そのような事情もあって、シニア社員の活性化の手段として、キャリア研修を実施する企業が増えてきている。

ところが研修を実施している企業の人事担当者に聞いてみると、「研修の効果がみられない」という感想が少なくない。研修は行動変容を目的に実施するわけだが、研修前と何ら行動が変わっていないというのである。

なぜ、このようなことになるのだろうか。企業の実例を見ていくと、プログラム自体には大差がない。しかし、期待するような効果が得られていないキャリア研修には、共通する二つの要因があることがわかってきた。

一つは「研修の目的とは異なるメッセージを参加者に送っている」ということである。キャリア研修の最も重要な目的は、主体性を引き出すことにある。そのためには、研修に込めるメッセージとして「本当に実現したい自分のキャリアをじっくりと導き出し、会社の期待とすり合わせたうえで、その実現に向けてできる限りの支援をしていく」という会社の覚悟を伝える必要がある。会社は本気であなたの望むサクセスストーリーの実現を支援しますよ、という思いが伝わってこそ、本人に火をつけるのである。

ところが現実には、研修の端々から会社都合の一方的なメッセージが発信されることにより、参加者が「押し付けられ感」を感じてしまうケースが多いようだ。その結果、それらしい目標を立てたものの、実現しようという思いが伴っていないため、絵に描いた餅に終わってしまう。一方的なメッセージとは「自らの役割を認識し、会社に貢献すべき」という類いのもので、「会社のために、自らの今後のキャリアビジョンと行動を考えよ」という点で共通している。確かにその通りなのだが、正論だけでは主体性を引き出せない。

うまくいかない事例に共通するもう一つの特徴は、「研修だけで何とかなる」という思い込みが見られることだ。人事担当者からは「研修で高まった参加者の意識もしばらくすると戻ってしまう」という嘆き節が聞かれる。

他方で、うまく運用している会社の事例をみると、研修の内容や参加者の作成した目標シートを上長と共有したり、定期的に上長とキャリアについて話し合う機会を設けたりしているケースが多い。つまり、活性化に成功している企業では、研修は行動変容を促す「きっかけ」と位置づけており、その後のフォローは別の手段を講じている。

この点は非常に重要である。なぜなら、組織において自分の意思だけでキャリア開発を行うことは極めて困難であるからだ。本人がどんなに変わろうとしても周りの支援、とりわけ上長の支援なくしては成果はおぼつかない。

従って、高まった意識を行動変容につなげ、会社側からみれば望ましい行動が持続するように、当事者にとってはキャリアビジョンの実現に近づくように、支援者の理解と力量を高めることが重要になる。実際に効果が上がっているケースでは、キャリア開発研修を本人だけでなく、支援者である上長もセットで実施していることが多い。

これらのポイントは、シニア社員だけではなく、すべての世代のキャリア開発支援にも共通する。


筆者

栗林 裕也
日本生産性本部 人材開発コンサルタント

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)