データが人事を変える②(2020年2月15日号)

■攻めの人事へ データ活用が鍵

人口減少の時代にあって、人事部が担うべき役割は、かつての管理機能から戦略機能へ変化している。言い換えれば、守りから攻めへの転換である。

攻めの人事で注目を浴びているのが「人事データの活用」である。統計的手法や機械学習(広義のAI)を用いたデータ分析が、人事の生産性向上の鍵を握ると考えられている。

例えば、採用における面接の評価は、入社後のパフォーマンスと有意な相関関係が認められない、ということはよく知られている。どれだけのベテランであろうと、人が人を評価することは難しい。これに対し、あるAI開発会社が言うには、同社のアルゴリズムは入社後のパフォーマンスを70%以上の確率で推定可能であるという。生産年齢人口が減少する中、この数字が持つ意味は大きい。

有限の資源をどう活かし、組織成長にどう寄与するか。そのため、データ分析に何が可能か。

本稿では、人事の生産性向上に向けたデータ活用について、私自身の経験をもとに整理を試みる。


<1.適材適所>

社員の能力や適性を分析したい、との依頼は多い。ハイパフォーマンスに繋がる特性を定量的に把握できれば、社員の特徴にあった配置や異動が可能になるし、採用活動の生産性も高まることが期待できる。
採用時の分析には、先述のAIのようなソリューションが増えてきている。しかし、社内に蓄積されているデータ(社員意識調査、360度評価、SPI、上司評価、面談データなど)はパフォーマンス測定に使うことを想定しておらず、AIの訓練データ(教師データ)としての妥当性に疑問符がつくことがある。そもそも、「ハイパフォーマンス」の定義は各社各様であり、一般化することは難しい。分析目的に沿ったパラメータの設計と教師データの収集が、今後の課題である。

<2.リーダー育成>

リーダーシップは相手の状況に応じて発揮されるべきとする「コンティンジェンシー理論」の立場にたてば、リーダーは部下の状況を常に把握しておくことが望ましい。そこで、部下の性格やモチベーションを定量的に把握し、リーダーに提供することが考えられる。
データから得られた知見は、新任リーダーにとっては経験を補完する実践的な知識になり、ベテランリーダーにとっては、自分のスタイルを見直す契機になり得る。
私が扱った事例では、世代の出世頭ほどリーダーシップに悩む傾向が見られた。周囲に適切なロールモデルが得られないことが原因であった。本アプローチは、新任管理者の過度なストレスや孤独感を和らげることも期待できる。
但し、分析の精度をあげるには、旧来の年1回や2回の調査ではなく、より高頻度の調査(パルス・サーベイ)が必要である。また、調査の頻度を高めるほど「監視」の印象が強まる点も、問題である。

<3.エンゲージメント改善>

新人の採用・教育コストは、3年間で1人当たり1500万円以上と聞く。投資に対してROIの改善を図るのは当然の発想であり、これからの人事部門は、採用と定着のあり方を真剣に再考する必要がある。
そうした文脈から議論の俎上に上がるのが、エンゲージメント(社員の会社に対する愛着心や思い入れ)である。
新人社員の早期戦力化と定着率向上に向け、定期的に実施される社員意識調査の結果などからエンゲージメント改善の要因を分析する。会社への要望を自由回答形式で調査したことがあるのなら、テキストマイニングを試すのも良い。テキストマイニングで主要なキーワードを抽出し、社員の評価点と紐付けて分析することで、何がエンゲージメントを「向上/毀損」する要因なのか、有益な知見が得られるかもしれない。

<4.社員の自己実現支援>

社員のパフォーマンスは、社員自身が働きがいを感じている状態が最高である。このため、「教育施策(L&D=学習と能力開発)」には、単なる知識の提供だけではなく、従業員の働きがいを適切に高め、組織目標への自律的な貢献意欲を高めることが求められる。それには社員の学習意欲や動機を分析したり、研修やOJTの効果を測定したりなどの行動が必要になる。これらの分析と対策により、組織パフォーマンスの向上が期待できる。
L&Dは人事部門の知見を総動員して取り組むべき領域であり、人的資源管理の他領域との関係が深い。

コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

高橋 佑輔

国会議員公設秘書として、担当選挙区において政策・広報・選挙等の戦略立案・遂行にあたる。
その後、中小企業のマーケティング 担当役員、経営再建担当役員を経て、日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了。
本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。筑波大学大学院修了(経営学修士)。(1978年生)

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