データが人事を変える①(2020年2月5日号)

■5つの変数から仕事の魅力度解析

企業が経営目標を達成するには、自社が持つ様々な資源を効率的に活用し、環境適合することが重要である。そして企業の持つ資源の最たるものが、人材(人財)である。人的資源管理(HRM=Human Resource Management)は、今日の複雑な環境下で成長を継続するべく、企業内の人材を戦略的な資源としてとらえ、その活用に注目した発想である。

人的資源管理の象徴的な概念に「エンゲージメント」がある。「ロイヤリティー」との違いであるが、ロイヤリティーの観測対象が個人の満足感に限定され、会社への貢献意欲や能力が明示的に求められてはいないのに対し、エンゲージメントでは、社員が組織のビジョンに共感し、実現に向けて能動的に貢献する意欲や能力を観測する。エンゲージメントとは、企業活動における企業と社員とのパートナーシップにより焦点を当てた考え方とも言える。

こうした焦点の変化に伴い、人事部門に要求される機能にも変化が見られる。旧来は人事情報の管理や制度の運用、そして法務対応が主要な業務であったが、今日では経営戦略へのより高度なコミットメントのもと、社員個々の能力成長やパフォーマンスの最大化に責任を果たすことを意識しなくてはならない。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、15歳から64歳の生産年齢人口は、2017年の7596万人(総人口に占める割合は60.0%)が、2040年には5978万人(同53.9%)へ減少する。このことは、優秀な人材の奪い合いが激化し、相対的に社員1人当たり付加価値がシビアに評価されることを意味する。採用や教育における人事部門のパフォーマンスが、組織の維持や発展を大きく左右する時代になったのである。

仮に若手社員を確保できたとしても、それで安心することはできない。若手社員の離職は多くの企業にとって悩みの種である。原因として聞かれることのひとつが、年齢による賃金格差である。年功的色彩の強い給与体系の組織では、自らの実力を恃む若手は不満を募らせ、外部に活躍の場を求める場合がある。このため、多くの企業が給与体系の変更に関心を寄せている。

しかし、事はそれほど単純ではない。ハーズバーグの二要因理論によれば、給与は衛生要因であり、給与面の改善では内発的動機付けは得られない。ハックマンとオルダムによる職務特性モデル(MPS=Motivating Potential Score)によると、仕事の魅力度は次の式で定義される。

仕事の魅力度=(技能の多様性+職務の完結性+職務の有意義性)÷3×自己裁量権×フィードバック

若手の離職が問題となる職場は、この5つの変数(技能の多様性、職務の完結性、職務の有意義性、自己裁量権、フィードバック)に問題がある可能性が高い。

例えば、年功的色彩の強い給与体系は、熟練者の満足度や定着率を高める反面、上意下達の組織風土形成を助長するかもしれない。そのような職場では、若手の自己裁量権は低く、仕事に対するフィードバックも疎かにされる可能性が高い。若手社員の離職という問題は、給与面だけではなく、これら組織風土まで包括的に検証されるべきである。このことからも、今後の人事部が扱うべき領域が、単なる管理活動から、組織戦略と言うべき領域に広がっていくことがわかる。生産年齢人口の減少を外部圧力として、今日の人事部門に求められる業務は大きく変化しつつある。

一方で、こうした議論に既視感があるのも事実である。 これまでも、「人事部」を重要な経営機能としてとらえ、戦略の推進役とすべき、という議論はあった。それら過去と今日の差異は、IoTやクラウドといった技術の進歩である。

今日の人的資源管理には、データが大きな役割を果たす。中小企業でも比較的手軽にデータを収集・活用することができる環境が整ったことが、人事部に長く期待されてきた役割の実現を後押ししているのだと思われる。

本連載では、第2回に人事データを活用できる領域について述べ、第3回に分析の進め方と留意点について述べる。

コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

高橋 佑輔

国会議員公設秘書として、担当選挙区において政策・広報・選挙等の戦略立案・遂行にあたる。
その後、中小企業のマーケティング 担当役員、経営再建担当役員を経て、日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了。
本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。筑波大学大学院修了(経営学修士)。(1978年生)

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