データが人事を変える③(2020年2月25日号)

■分析手法 シーンで使い分け

最終回となる本稿では、人事データ分析の進め方と留意点を述べる。


<1.分析の進め方>

はじめにプロジェクトの概要を整理する。「(目的)何のために分析を行うのか」「(対象)どの部門・部署を対象に行うのか。また、どのデータを使って行うのか」「(期限)いつまでに行うのか」を明確にする。例えば、「(目的)エンゲージメント改善に向けた改善ポイントの抽出調査」「(対象)全社員に対して実施した本年度の社員意識調査および考課情報」「(期限)本日より2カ月間」となる。
分析プロセスは、「問題特定」→「仮説検証」→「対策」の順に進める。
「問題特定」ステップでは、問題点は何かを明確にする。この時、問題と原因(仮説)がない交ぜになってしまうケースが多いので注意する。(例=若手社員は給与に不満があるから離職率が高い→問題は「離職率の高さ」か「給与への不満」か)。そして問題認識が正しいのか、データで現状を可視化し、確認する
「仮説検証」ステップでは、問題の原因を推論し、仮説を立てる。仮説にあたっては、思い込みや問題の表層にとらわれないよう、丁寧な現場観察と、ロジックツリー等の論理的手法を活用する。仮説は複数持っておいた方が良い。仮説が整理できたなら、データを集めて分析を行う。この時留意すべき点については後述する。
「対策」ステップでは、原因を是正するアクションを考える。分析は行動に結びついてこそ意味を持つ。そのため、関連部署とのコミュニケーションを密にし、実現可能性と有効性に留意した提案を行うことが望ましい。

<2.留意点>

人的資源管理を機能させるには、組織や個人に関するデータが必要である。そして多くの場合、人事部には量的には十分なデータが揃っているものの、質的には不安がある。これは、人事部の主な仕事がデータの「管理」であって、「活用」への意識が低かったことに起因する。
質の低いデータからは質の低い分析しか生まれない。例えば、面接データには面接官の個人的主観が含まれている可能性が高く、それがバイアスとして分析を歪める恐れがある。
社員意識調査でも、主語が複数あったり、二つ以上の質問を一つの設問に盛り込んでいたりすると、回答に予期せぬ歪みが生じることがある。そもそも、調査票の設問に抜け・漏れが多く、分析に用いることはできない、という場合もある。一定のデータ品質を担保するには、外部のサービスを利用することも一案である。日本生産性本部でも「社員意識調査」や「ストレスチェック」等のサービスを展開している。
データの質が解決すれば、いざ分析、である。これまで本格的な分析をしてこなかった組織では、最初の分析に大きな期待が寄せられる。ところが、最初の分析から得られる知見は、6対4で「なんとなく分かっていたこと」が多い。うちの若手社員は不満が大きい…、残業の長さが離職意向に影響している…など、大方予想がついていたことのオンパレードである。しかし、それらは「人事部の常識」であって、「組織にとっての常識」ではないことがある。例えば、残業と離職の関係を指摘しても、営業部などは「いや、能力が高い社員は案件が多くなるから、自然に残業が多くなるんだ」というように、残業を肯定的にとらえる声を上げたりする。見ている方向がバラバラでは、改善も進まない。
組織を巻き込んだ変革には、現状認識を全体で共有する必要があり、分析で現状を可視化することには大きな意味がある。また、これら組織問題を数字で「見える化」し、他の要素と「関係づける(因果関係)」ことができれば、人事部の活動を測定するKPIとアクションプランが出来上がる。
この他、分析手法としてAIに注目が集まっている。AIの予測能力は非常に高く、今後も活用の場は広がると思われる。
しかし、AIの意思決定プロセスはブラックボックスといわれるように、結果を導出したプロセスを正確に辿ることが難しい。決裁権者が自身の判断根拠を説明できないため、センシティブな人事の案件では、使用がためらわれることも多い。このような時は、分析プロセスの説明がしやすい統計的手法が重宝する。
AIと統計的手法のどちらを活用するかは、企業文化や分析シーンによって柔軟に対応していくのが良い。

コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

高橋 佑輔

国会議員公設秘書として、担当選挙区において政策・広報・選挙等の戦略立案・遂行にあたる。
その後、中小企業のマーケティング 担当役員、経営再建担当役員を経て、日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了。
本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。筑波大学大学院修了(経営学修士)。(1978年生)

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