最適な価格転嫁方法①
価格転嫁最適化はトップの姿勢そのもの
「当稿では、国内B2B[企業間取引]を対象に、価格転嫁を掘り下げます。今年度も中小企業庁では下請Gメン[下請調査員]がさらに増員され、適正な価格転嫁の浸透を推進しようとしています。3回にわたり、価格転嫁が進みにくいB2Bの現在進行形のコンサルティング現場実態をもとに述べていきます。
「価格転嫁」に慣れていない国内B2B
B2Bでは、過去30年間以上継続してきた「各業界の常識」が大きく変わっています。B2Bの国内メーカー間取引は、今までは「企業努力により調達価格は下がる(下げる)もの」という固定観念がありました。価格は下がることがあっても、上げる(上がる)ことに慣れてこなかったためです。しかし、「最低賃金上昇」「原油高による電力費高騰」「物流費高騰」など、無視できないコスト構造になっています。常識や当たり前は、その時代時代で変わっていきます。急いで変えていかなくてはならない関係性の時代となってきました。
B2Bでは、素材費・材料費に関しては、多くの企業で相場変動によってスライド制がある程度進んでいます。しかし、それ以外の価格転嫁ルールは未整備なままで、認められにくいのが実情です。 現状では、「販売する側」も「調達する側」も、過去からの延長線上では「ダメだ」と感じ始め、どうすればいいのか迷いながら対処を検討している過渡期となっています。
顧客への「供給責任」を問われてきたB2B
平成では価格折衝の場面において、「それは供給者責任だ」という言葉が多く使われてきました。サプライヤーが赤字でも、顧客はその顧客への販売価格を上げられなかったのが実情です。また、継続取引の中で顧客の顧客から、品質でクレームを言われ、品質管理レベルを上げなければならないことがよく発生しています。サプライヤーは、従わざるを得ず、泣き寝入りが当たり前となり、常態化しています。
「供給者責任」の定義が大きく変わっています。「調達する側の自社論理の最適コスト追求」でもなく、「売る側の便乗値上げ」でもありません。あくまでも「適正価格」を話し合える・折衝できる時代の幕開けとなってきました。
では、これを経営改革の契機としてトップ自ら社内改革されている事例を見てみましょう。A社とB社の対応の違いを確認していきます。
B2Bの適正価格設定は「持続可能性」を起点に
一般的には、価格改定の値上げを要求されると、顧客は拒絶反応が必ずあります。値上げを了承すると調達部門は、営業・生産管理から「弱腰」と批判されます。防波堤をつくり、社内説得もできず意思決定を先延ばしされ、サプライヤーは、「言ってもムダ」「上げることは不可能」と既成事実化されてきました。
ある自動車部品メーカーA社は、経営が悪化し、コロナ禍による受注減もあり、事業承継をできる後継者も存在していないため、事業を売却することとなりました。経営者が変わり、業績悪化の元凶を確認すると、特定企業の受注品が大幅な赤字の要因と分かりました。
適正価格のデータを出し、値上げを要求しました。今までだと、顧客の担当窓口に慰留され時間稼ぎされ、うやむやになっていました。しかし、このトップは、自ら顧客の社長に申し入れ、期限を切り値上げを要求し、できなければ撤退すると「退路」を切り要望しました。基本的に自動車部品は、さまざまな制約があり、品質評価など時間と費用が掛かり、転注はなかなか進まないのが実態です。他社へのスイッチングコストもかかるため、そのまま妥結となりました。
A社トップ主導で適正価格設定による「経営改革」を展開
A社トップは、進める途中で組織運営面での次のような問題を強く感じました。現在、多くの従業員は「目の輝き」が出始め精力的に仕事へ取り組むようになってきました。
●価格転嫁では部門ごとの牽制を止めよう。全社で考えて一緒に結論を出す。価格転嫁以外にも、さまざまな情報の目詰まりが見つかった。皆疲弊している。きれいごとは言わない。これから具体的内容で、社内を変えていく。変えることがトップの仕事だ。
●社内で価格改定を受け入れても、調達部門・外注管理部門を決してイジメない。会社全体で決めたことだ。売価を上げて、失注しても営業の責任にはしない。生産管理の利益管理は値上げ分を差し引き、改善効果も評価する。一律の責任追及はしない。そうしないと、調達部門はそのサプライヤーに必ず「しっぺ返し」の報復をすることが他社でも発生している。そのような行動は一切禁じる。
●価格転嫁の意思決定方法をもとに、目詰まりした会社風土を変える。しかし、意味のない便乗値上げはしない。さまざまなことを会社で結論を出す。皆が気持ちよく働いてもらうことがトップの責任である。
一方、B社は旧態依然とした対応で、「一方的価格押し付け」「サプライヤーの実情を無視した買い叩き体質」をそのまま継続しています。
トップが問題を問題と考え、頭の切り替えができるかどうかに関わっています。過去何十年間蓄積した常識は自己の否定にもつながってしまいます。B社は5年程度このまま誤魔化し継続できそうですが、その後厳しい局面があることは確実です。
A社のように、頭の切り替えができる会社のみが将来を約束されています。(3回連載)
コンサルタント紹介
藤本 忠司
立命館大学経済学部卒業後、ローム株式会社生産本部・管理本部にて勤務
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、20年以上大手及び中堅企業を中心に診断指導、人材育成の任にあたる。
(1959年生)
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