ニューノーマル時代の上司と部下の関わり方②(2020年8月5日号)

■谷を越える!ちょいコミュ普及のポイント

部下「1on1が導入され、面談の機会が増えた。成長のため、と聞いていたが業務のホウレンソウの場となっており、報告資料を作成する手間だけ増えて……」

上司「対話の機会をつくって部下にどのような相談でもいいよ、といったらどんな相談をすればよいのでしょうか、と相談された」

前回、テレワークという新しい働き方を進めるうえでちょいコミュ(雑談のような部下のための対話)の重要性が高まることに触れた。在宅ワークで不足しがちなちょいコミュを増やすことで、部下の成長を促進したり、組織へのロイヤリティを高めることが期待できる。加えてコミュニケーションコストを下げる効果も報告されている。コミュニケーションコストとは、相手と意思疎通を図るのに必要な時間や労力のこと。1を言えば相手が10を理解するのであればコミュニケーションコストが低い状態といえ、仕事の効率も上がる。

では、ちょいコミュを実のあるものとして組織内に普及させるにはどうしたらよいのだろうか。この実践として1on1の取り組みが適当であるものの、すでに導入している企業のなかには冒頭のようなコメントが社員から出てくるなど思うような結果に至らないケースも散見される。そこには三つの共通した要因がありそうだ。

①ねらいの周知不足
何のために行うのか、というねらいが浸透していないと目の前の仕事の進捗確認に偏りがちになる。
ちょいコミュは上司が確認したいことを確認する場ではない。日常の上司、部下のコミュニケーションでこぼれ落ちがちな、部下からすると機会があれば話したいと思っていることを意図的に俎上に載せる。そうすることで部下の不安や不満を解消したり、中長期のキャリア形成といった緊急度は低いものの重要なことについて考えを深めるのである。
加えて周知をするうえで重要なことは、上司と部下の双方にどのようなメリットがあるのかを具体的に示すことである。これを怠ると「忙しいのに手間を増やして」という反発から形骸化してしまう。

②上司の対話経験の不足
目標管理面談などの従来の面談とちょいコミュにおいて上司に求められるコミュニケーションスタイルは異なる。一番大きな違いは正解を「教える」のではなく、ともに「考える」点だ。自信のない上司ほど役割を果たすために的確にアドバイスをしなければと考えがちである。
しかし部下からすると十分に話も聞いてもらえないうちに一方的にお説教をされたと感じる。上司の役割は考えを深めるための良質な問いを立てることにある。部下が頭の中を整理したり、新しい視点に気づいたり、これまでの考えをもう一歩深めるような部下のための質問である(これを筆者は「ギフト」と呼んでいる)。このギフトは人によって巧拙が出やすい。したがって、上司と部下の対話例を事前に紹介したり、上司向けの対話トレーニングを実施することが望ましい。

③本音で語る関係性の未構築
対話の場面では日常の上司と部下の関係性がそのまま現れる。対話のときだけ本音で語ろう、というのは難しい。
1on1を導入するとまず上司が音を上げるケースが多い。ギフトの練習をしたのに部下が本音で語ってくれない、というのである。初回だけでなく2、3回と続くとあきらめたくなる。しかし、関係性というのは一朝一夕に築かれるものではない。部下がすぐに胸襟を開いてくれないことのほうがむしろ自然だ、と捉えて粘り強く積み重ねていくしかない。

最後にこれらの谷を越えて見事に社内に1on1を定着させた事例を紹介したい。

この会社では全社展開をする前に総務部でテストケースを行った。すると部下側から「評価につながると思うとネガティブなことが言えない」「そもそも何を話題にすればよいのかわからない」といった様々な声があがってきた。新しい取り組みを始めるとどんなに準備をしても盲点があったと気づかされる。

同社では上司向けの準備を手厚くしていたものの部下側への周知が十分でないことに気づき、本格的な制度導入の前に対応することができた。このように小さく生んで大きく育てるやり方をお勧めしたい。


筆者

栗林 裕也
日本生産性本部 人材開発コンサルタント
鉄道会社を経て現職。「人は組織内でどのように成長するのか」「どうすればより成果のあげやすい組織になるのか」をテーマに調査、コンサルティング、研修に従事。論文に「組織における管理職を起点とした人材の活性化戦略とは」(生産性労働情報センター)など。白百合女子大学非常勤講師。

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