第4回 生産性シンポジウムを開催しました
2019年12月9日
公益財団法人 日本生産性本部は2019年12月9日、ホテルニューオータニにて第4回生産性シンポジウム「イノベーションを起こせる大企業に」を開催しました。
同年9月4日に日本生産性本部が設置したイノベーション会議(座長:大田弘子 副会長/政策研究大学院大学特別教授)は、日本の生産性向上のためには大企業によるイノベーションが不可欠との認識のもと、「破壊的イノベーション*¹」の実現に 有効な手法とされる「出島*²」と「オープンイノベーション」を中心に企業アンケート調査とヒアリングを実施したうえで、「イノベーションを起こす大企業実現に向けて」と題した中間報告を取りまとめました。
中間報告では、企業のイノベーション力強化に向けた提言として下記を挙げています。
- 1.「リスクを取ることに消極的な経営」を変えるために
- 経営層は現場でのリスクへの挑戦を委縮させない企業風土をつくる
- 経営層は失敗をマイナス要因としない人事評価制度をつくる
- 2.イノベーションを起こす人材確保のために
- 社内外を問わず人材を得る
- 社内の「知の組合せ」には限界。意識的に多様性を持ち込み「知の探索」を図る
- 3.出島を成功させるために
- 出島への権限移譲など思い切った試行錯誤を行い、失敗できる環境を与える
- 出島と本社をつなぐ役割を重視する
- 4.オープンイノベーションを成功させるために
- 意思決定のスピード感を重視する
- 相手組織との相互信頼関係を醸成する
シンポジウムではこの中間報告を踏まえ、破壊的イノベーションにおける日本企業の課題などについて議論が交わされました。
まず、米シリコンバレーで日本企業からの出向者を受け入れて出島を運営するなどして、イノベーションの創出を支援している 株式会社WiLの共同創業者CEO、伊佐山 元氏による基調講演が行われました。伊佐山氏は、シリコンバレーではいま、技術そのものよりも、社会のニーズを理解して技術を付加価値につなげていく力が重視される「感性の時代」に入っているなどと、現地で起きている変化を紹介しました。 そのうえでこれからの経営には、日本企業が得意とする、既存の事業に磨きをかけるような「知の深化」だけではなく、新たな価値を生み出すための 「知の探索」が重要になるなどと指摘しました。また具体的な事例を示しながら、出島が成功するための条件として、経営トップの関与や、出島からの提案を受け止める本社側の態勢の重要性などをあげました。そして日本においてイノベーションをめぐる議論は十分出尽くしたとして、「イノベーションは実践のフェーズに入っている。最後は(やってやろうという)皆さんの意志の力がすべてだ」と強調しました。
その後に行われたパネル討論では、まず日本企業が抱える課題について樋口 泰行氏(パナソニック株式会社 代表取締役専務執行役員)が 「思考停止していることが一番大きい」として、閉塞感から優秀な人材が流出していると指摘しました。 また柳川 範之氏(イノベーション会議コアメンバー/東京大学大学院経済学研究科教授)は失敗の内容をきちんと評価するべきとしたうえで 「若い人たちに意思決定させることが(イノベーションの)必要条件だ」と強調しました。 これに金丸 恭文氏(フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長グループCEO)も「決断が好きな人に決断させ、 その人に失敗を許容することではないか」と応じました。また金丸氏が「経営トップのイマジネーションが牽引力だ」と話すなど、 イノベ―ションにおいて経営トップの果たす役割の重要性が相次いで指摘されました。
次にイノベーションを起こすための人材をどう確保するかについて、金丸氏は「社内に潜在能力を持った人がいるはずなので発掘するべき」としたうえで、外部から採用する際には、失敗をしたことのない人は常に防御的なので大きな成功は起こせないとして「『無傷の人』を選ばないことが必要だ」と語りました。 また社内での人材の発掘の方法について伊佐山氏は「会社が変わるというメッセージを送り、 パイオニアになりたい人を公募すれば結構集まるのではないか」とし、森川 正之氏(イノベーション会議コアメンバー/独立行政法人 経済産業研究所副所長)は 「育成も大事だ。企業の教育訓練投資の収益率は非常に高いのに、いまは過少投資だ」と企業が人材育成にもっと投資するべきだと訴えました。
日本生産性本部のイノベーション会議では今後も引き続き、企業のイノベーション力強化にむけた議論を続けてまいります。
登壇者
基調講演「大企業のイノベーションの課題と対応について」
パネル討論「大企業の創造的イノベーションはいかにして可能か」
【コーディネーター】
【パネリスト】
- ※1破壊的イノベーションとは
確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場の秩序を乱し、業界構造を劇的に変化させてしまうイノベーション。 1997年にクレイトン・クリステンセン ハーバード・ビジネス・スクール教授が提唱した。
- ※2出島とは
企業が異次元のテーマに取り組み「破壊的イノベーション」を起こすことをめざし、試行錯誤を許容する環境として、通常のビジネスとは独立した形で運営されるイノベーション拠点のことを指す。「出島」という用語は、伊佐山元氏 が2012 年12 月頃より使い始めた。