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2023年度第5回生産性シンポジウムを開催しました

2024年2月6日

日本生産性本部は、「健康いきいき職場づくりフォーラム 成果発表シンポジウム/第5回生産性シンポジウム~“ウェルビーイング”を重視した経営のゆくえ~」と題して、「健康いきいき職場づくりフォーラム*」(代表:島津 明人 慶應義塾大学教授、事務局:(公財)日本生産性本部)と共催で2023年度第5回生産性シンポジウムを開催しました。

近年、「健康経営®」や「人的資本経営」等、働く人と組織に関するキーワードが多く出てきています。その中の一つとして、従業員の幸福を重視する経営の在り方として「ウェルビーイングを重視した経営」に注目が集まっています。一方で、その定義や内容があいまいなまま概念が先行している面も否めません。そのような中、健康いきいき職場づくりフォーラムでは、設立10年を迎えた2022年より、従業員のウェルビーイングの実現に向けた個人・職場・企業での取り組みを幅広く支援することを活動の基盤に据え、ウェルビーイングおよびウェルビーイングを重視した経営の在り方や、事例に関する研究を進めてきました。本シンポジウムでは、現時点での研究成果や論点を発表し、登壇者や参加者と討議を行うことで、「ウェルビーイングを重視した経営」の現在地と今後の可能性について考えました。


島津明人 慶應義塾大学総合政策学部教授

最初に、島津明人・慶應義塾大学総合政策学部教授が、「健康いきいき職場づくりの新たな歩み」と題して問題提起を行いました。島津氏は、2012年12月にスタートした「健康いきいき職場づくりフォーラム」の設立から今日までの活動経過を報告し、これからのフォーラムの課題について、「健康いきいき職場づくりの大きなキーワードはウェルビーイングで、本フォーラムの新しいミッションだ。従業員のウェルビーイングの実現に向けた個人と職場、企業の活動を幅広く支援し、社会全体のウェルビーイングを推進する必要がある」と語りました。

西村孝史 東京都立大学大学院経営学研究科准教授

西村孝史 東京都立大学大学院経営学研究科准教授は、「HRM(Human Resource Management:人的資源管理)視点から見るウェルビーイングを重視した経営のゆくえ」と題して講演し、「HRMで注目されるのは組織力。HRMとウェルビーイングの関係については3つのタイプがある。人と組織の相互利益の実現、相互利益の対立、そして相互損失の発生だ。企業が見せかけで人事施策をやると従業員に見透かされ業績がダウンする。企業業績の違いは制度だけではなく施策の違いによるものではないか」との認識を示しました。

池田浩 九州大学大学院人間環境学研究院准教授

池田浩 九州大学大学院人間環境学研究院准教授は、「組織と職場のウェルビーイングをどのように測定し評価すべきか」をテーマに、「ウェルビーイングは重要だが、組織にどのように取り入れていくのか模索中だ。ウェルビーイングの相互充足モデルを考えている。どのような施策にどのような効果があるのか科学的に分析していくことに関心がある。組織(企業)や職場単位での取り組みが個人のウェルビーイングを高め、同時に個人のウェルビーイングが職場や組織のウェルビーイングを高めることになる」と報告しました。

黒田祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授

黒田祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授は、「経済学から見たウェルビーイングを重視した経営の意義」と題して講演。「心理的安全、雇用の安定もウェルビーイングには大きなこと。従来のケースでは、競合する2社の場合、一方が残業すると他方は負けるので結局両方とも残業することになった。今は上限規制が導入され働き方改革が実現し、働き方の選択肢も多様化し日本の労働市場の多様化が進む。労働者のことを考えない企業では転職が増え生き残れない。ウェルビーイングに対応せざるを得ない。社員のことを考えた経営が必要だ」と指摘しました

奈良恵子 日本生活協同組合連合会執行役員

奈良恵子 日本生活協同組合連合会執行役員は、「ウェルビーイングな働き方~一人ひとりを元気にする取り組み~」をテーマに、「時代は変わり、夜のコミュニケーションの機会は皆無で、昼間、職場でやるしかない。何のために働くのかの共有が必要。方向性を示すことでメンバーが参加しやすくなる。関連性が良くわからないという声があり、チャート図で関連性を示し理解を得た。コロナ禍でコミュニケーションの機会が減ったので、『あいさつ』の励行などで改善を図った」と自組織におけるウェルビーイングへの取り組みを紹介しました。

三宅邦明 ディー・エヌ・エーChief MedicalOfficer・ChiefHealthOfficer

三宅邦明 ディー・エヌ・エーChief MedicalOfficer・ChiefHealthOfficerは、「社員のパフォーマンスアップを叶える、DeNAの健康経営施策」として、「社員に対し食生活の改善、歯磨き励行、階段使用の励行など攻めのサポートをしている。コロナ禍でリモートワークが前提となり、社員の1日の歩数が減ったほか、帰属意識が低下して心の不調者も増えた。そこで社内のカフェで心理士と接する機会を設けるなど話しやすい環境を作った。『健康とコミュニケーション』をキーワードに、4人1グループでの『歩活(アルカツ)』を始めた。チームで取り組むと如実に歩数が上がった」と実績も交えつつ自社の取り組み事例を紹介しました。 最後に、「ウェルビーイングを重視した経営の現在地と今後を考える」をテーマに、登壇者によるパネルディスカッションを行い、3時間半にわたるシンポジウムを締めくくりました。

*「健康いきいき職場づくりフォーラム」とは
「労働者の健康」「労働者のいきいき」「職場の一体感」を中核とした「健康いきいき職場づくり」を具現化し、働く人の心身の健康と企業の生産性向上を支援することを目的に、2012年に東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野(当時)と当本部が共同で設立。