徒然なれど薑桂之性は止まず⑲ 脆弱な日本の司法サービスの改善
「小さな司法」や「二割司法」と形容されるように、日本の司法制度の人口当たり利用者数は欧米等に比べ格段に少ない。この低い利用率は、司法制度の認知度が低いことが最大の理由である。結果的に法曹人口数が少なくとも、一応法曹界の体裁を装っている。
全国の各地域別の弁護士数をみると地域によって弁護士の数がゼロあるいは一人しかいない地域が散見され、同一地域内の弁護士だけでは訴訟が始められない状況にある。その改善のためには、弁護士ゼロあるいは一人の地域をなくしていくしかない。
また、司法による問題解決を忌避し泣き寝入りする国民が多いとの指摘もある。制度の認知度が低い上に相談を受ける体制の弱さ、弁護士費用など金銭上の負担力の弱さ等々、強い指摘の声がある。
このような「小さな司法」の原因のそれぞれにメスを入れ、その対応策を総合化・一体化して具体的に実施していく機関として「日本法律支援センター(略称「法テラス」、髙木は創設以来十余年にわたり顧問を受託)」が設立された。司法相談や国選弁護士に関するサービス、金銭支援、民事法律扶助、法テラスの認知度向上のための広報活動、そして直近では旧統一教会の被害者の相談に乗るという仕事も法テラスで受けるようになった。
また、東日本大震災などの大規模災害地での復興支援に関する相談業務を主たる任務とする地域事務所の設立と地域弁護士の派遣業務も担い、災害被災地の司法サービス需要に応えようと対処してきた。
なお、この被災地の法テラス事務所が弁護士を確保・配置することに対し、一部県の地域事務所が、法テラスによる弁護士配置に反対するという残念な出来事もあり、地域弁護士会の存在意義をはき違えたとの批判を免れない。
法テラスの役割の社会的認知度の上昇
法テラスはサービスを始めて十余年の年月を経て、その社会的な認知度も発足直後の20%前後だったのが最近では50%を超えるまでに上昇した。主として運営経費を賄う予算額も増額され、全国各地の地域事務所等も含め、陣容の拡大を見ている。
イギリスやフランス、ドイツ等ヨーロッパ諸国の司法支援等のサービス活動は、日本の法テラス予算に比べれば格段と多く、サービス内容とそのレベルも広く、高い。
「小さく産んで大きく育てよ」として小さく産まれた法テラスだが、国民への司法サービスの拡大・充実をめざし、関係者の一層の努力を強く求めるところである。
特許事件の審理の迅速化
経済界は司法制度改革にあたり、特許関連事件の訴訟の迅速化を強く求めていたが、東京・大阪の地方裁判所を特許事件に関する専門裁判所と位置づけ、審理も二審制とする迅速化にむけた措置をとることになった。
「特許」が上手く登録され、産業・企業の発展に資することは、国家の経済的発展にとって揺るがせにできない国家・国際機関のサービス活動であり、その活動の遅滞は当該国の産業・企業の競争力を左右する。今回の特許事件の審理の迅速化等が実効性を上げるようになることは、現場で働く労働者にとっても同慶(どうけい)の至りである。
今回の司法制度改革では、民事・刑事共に訴訟の迅速化等について議論され、その必要性が、「改革審意見書」の中でも強調された。
司法制度の残された課題
「改革審意見書」の小泉総理への手交後足かけ13年。いまだ未解決・不十分なまま放置されている課題も残っている。
例えば冤罪回避のための捜査の可視化の一層の促進、刑事事件の再審手続きの見直しと死刑廃止問題、冤罪被害者の救済策の改善、最高裁の憲法違反問題における関わり合い方の問題等々、不断の改革・改善が求められている。
(2024年11月15日号掲載)
執筆:髙木剛氏(連合顧問) 髙木氏のプロフィールとその他のコラムの内容はこちらをご覧ください。
おことわり
髙木剛氏は2024年9月2日に逝去されました(80歳)。謹んで哀悼の意を表します。本連載については、筆者より寄稿頂いた原稿(全22回)を最終回まで掲載してまいります。