第5回:工場現場の課題解決型研修~前澤化成工業~(2017年12月5日号)
■工場主導の課題解決型研修を実施
前澤化成工業(本社=東京都中央区日本橋)は、工場現場の課題解決ができる人材の育成を2014年度から開始した。本社主導ではなく、工場現場が主導して研修を企画・実施しているのが特徴。2017年は若手社員、中堅社員、リーダーの3階層で研修を実施している。
同社は、生活に不可欠な水分野に特化した「水のマエザワ」として、「人々をゆたかにする心と技術をはぐくみ、社会のために幸せを創造する」という経営理念のもと、水環境の整備・向上に寄与する多彩な製品の開発・製造・販売を行っている。
長谷川正夫・同社製造本部事務管理部副部長は、「人材の育成という面で考えると、今はまだいいが、10年後、20年後が心配だという危機感を持っていた。社内の各部署に講師をお願いして自前で研修を実施していたが、うまくいかなかったので、外部の力を借りようと考えた」と研修の背景を語る。
参加者は、同社の製造拠点がある熊谷第一工場と同第二工場の社員で、研修は第二工場で開催している。
若手社員(入社1年目から3年目の社員)については、1月から3月にかけて「技術基礎研修I」(全4回)を開催し、約30人が参加した。安全と改善をテーマとして、1回90分の研修を実施した。3回目には午後半日を使い、他社の工場見学を行った。最終回の4回目には、今後、各自が自分の職場で実施することについての「行動宣言」を発表した。
安全については、「知っている」というレベルから、「できる」「やっている」というレベルに上げることを目標とした。また、なぜ、安全や改善を行わなければならないのかをグループで議論し、仕事やルールの意味を考えることで、ルールを守る意識づけを行った。
10月からは、品質とコストをテーマとした「技術基礎研修Ⅱ」をスタートさせた。「原価の構成を知る」「品質の重要性を考える」「ムダの着眼点を知る」「人の生産性を考える」「設備の生産性を考える。設備メンテナンスの重要性を知る」「学んだことを横展開する。教えることで学びを深くする」の6回シリーズ(月1回、各回90分)を開催している。
中堅社員(入社6年目から10年目の社員)については、8月から11月にかけて「コミュニケーション力向上研修」(全6回、各回90分)を開催し、20人が参加した。工場ならではのコミュニケーションの課題に注力し、ファシリテーションの方法や、職場におけるコミュニケーションで起こっている問題、コミュニケーションの種類や特徴、コーチングの基本などを学んだ。最終回では各自がコミュニケーションにおける課題を一つ選び、現場で実施した改善の結果を発表した。
リーダー(職場リーダー層)については、「リーダー研修」を1~3月に開催し、13人が参加した。職場リーダーに求められる「仕事と人のマネジメント」と「コミュニケーション」の基礎について学習した。8~11月に行われたフォローアップ研修では、研修で学んだ内容を適用した「重要業務課題」を各自が設定した上で、具体的に何を実施し、結果はどうだったのか、今後どうすべきかを発表した。
「若手社員、中堅社員、リーダーと3階層の研修の柱ができたので、しっかりとこれらを定着させていきたい。これらの研修の参加者から、課長になる人が出てくるだろう。将来的には会社を背負って立つ人が1人でも2人でも出てきてほしい」(長谷川氏)と期待している。
■成長の機会をつくりたい
(長谷川正夫・前澤化成工業製造本部事務管理部副部長の話)
今回の研修では特に、若手社員に勉強のくせをつけさせることと、将来の管理職の予備軍であるリーダー層の強化を図ることをねらいとした。
若手社員の研修では、安全や品質、コストなど、工場内で課題になっているものを研修テーマに選んだ。「技術基礎研修I」の参加者アンケートを読むと、他社の工場見学は好評だったようで、自社のことを考えるよいきっかけになったようだ。
リーダー層にはこれまでは段階的に社員教育を行ってこなかった。今後は、各種研修を受講させた上で、本当にできる人間が管理職になるような仕組みをつくっていきたい。
リーダー研修の参加者からは、「自分の部署をこうしたい」「若手を育てたい」といった積極的な意見が出てきており、手ごたえを感じている。「自分がやらなければいけない」という自覚が生まれている。今までも考えていたのかもしれないが、研修がきっかけとなって、意見が出てきたのではないかと思う。
従来、課長が中心だった期間限定のプロジェクトチームのリーダーに、研修に参加した社員を入れたところ、原価低減などで大きな成果を上げてくれた。他のプロジェクトチームのリーダーにも若い社員を登用している。研修以外のそうした成長の機会をこれからもどんどんつくっていきたい。 今後は、階層別の研修以外に、新製品開発をテーマとした研修を予定している。研究開発の技術者を対象に、アイデアを考えるきっかけになればと考えている。自ら積極的に課題に取り組む人材の育成も課題だ。
■仕事の意味をしっかり伝えることを重視
(若手・中堅向けの研修を指導する鍜治田良・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話)
若手社員の研修では、仕事の意味をしっかり伝えることを重視している。なぜ朝礼をしているのか、なぜ安全が大事なのか、今あるものがなぜそうなっているのか、それを大切にすればどういうメリットがあるのかということを丁寧に説明している。
コミュニケーション力向上研修でも、朝礼やあいさつなど、工場で普段行っているコミュニケーションを題材とした。コミュニケーションは、相手があることだから、話し方や聞き方などの理屈を受講しただけでは変わらない。それよりも朝礼で大きな声であいさつした方が組織としては変わっていく。
1回90分という限られた研修時間なので、研修で説明したことを現場に持ち帰って適用できるようにすることや、必ず宿題を出して自分の職場だったら何ができるかといった「自分事」としてとらえてもらうこと、事例を入れて極力具体的な内容にすることなどを意識している。
社員教育は子育てと同じで、投資をしたからといってすぐにリターンを期待してはいけないと思う。どこでどういうアウトプットが出てくるのかは予想できないが、研修内容の何かに興味がわき、それが何かのきっかけで社員が伸びることがある。いい企業というのはそういうことがわかっているから、継続して社員に投資し続けるのではないか。やはり、教育しないと人は成長できないということだろう。
また、社員教育は、最初はある程度強制的にやらないとだめだ。キーワードは「規律と自由」。例えば、「行動宣言」を発表してもらうのは規律だが、その中身は自由にしている。まずは成功体験をつくることをねらいとしているので質は問わないが、やはりアウトプットがないとまじめに勉強しない。全部規律にしてしまうとぎすぎすしてしまうし、全部自由だと誰もやらない。「規律と自由」は現場力を高める上でも重要だ。改善も軌道に乗るまでは、一定の件数はこなさなければならないという規律を設けつつ、改善の中身は自由とするような設計が必要だろう。小さな成功体験が次の成長につながる。
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