第2回:プロジェクト活動による課題解決~公益財団法人東京都保健医療公社豊島病院~(2014年7月25日号)

■プロジェクトチームで経営革新に取り組む

公益財団法人東京都保健医療公社豊島病院(診療科目23科、許可病床数470床、職員508人)は、病院のビジョン(ありたい姿)とミッション(使命)を共有しながら、経営トップのリーダーシップのもと、組織横断的なプロジェクト活動によって、戦略課題に対する課題解決をはかる経営革新活動に取り組んでいる。 

明治31年に設立された同病院は、平成21年4月に東京都保健医療公社豊島病院として再出発し、24年4月には公益財団法人として認定された。区西北部保健医療圏(豊島区、北区、板橋区、練馬区)における中核病院として、地域の医療機関との連携を推進するとともに、地域住民に適切な医療を提供している。 

豊島病院の経営革新活動は、三つのフェーズで行われている。 

昨年10月から1月までの第一フェーズでは、次世代を担う13人によるプロジェクトチームが結成され、「2025年の豊島病院のありたい姿」について議論を重ねた。病院を取り巻く経営環境の検討や、外部環境の機会と脅威の分析、内部環境の強みと弱みの分析を経て、病院のビジョンとミッションの策定、2025年に向けた戦略マップの検討などが行われた。 

第二フェーズでは、先進優良病院の視察(松阪市民病院と福井県済生会病院)を行った後、同病院の存続・発展に向けての重要経営課題として、①患者満足度の向上、②連携先医療機関(開業医)の満足度向上、③従業員満足度の向上の三つを抽出、テーマごとに3チームを編成し、改善に向けてのアクションプランを検討していった。議論の結果は6月2日に院長に報告された。 

第三フェーズでは、アクションプランの実行と、風土革新の実行を進めていく。具体的には、従業員満足度の向上では、カフェのようなリラックスした雰囲気の空間で、職種や部署に関わらず共通のテーマについて話し合ってコミュニケーションの改善を図り、一体感を高める「ワールドカフェプロジェクト」を設置することなどを予定している。また、院長直轄の業務改善室(仮称)を、10月をめどに設置し、業務改善による生産性の向上もはかる。 

患者満足度と連携医満足度の向上では、すでに設置されている「サービス向上委員会」と「連携委員会」の中で実現案を検討していく。前者では、待ち時間や出入口案内の改善など、後者では、地域の開業医からの紹介率向上と開業医への逆紹介率向上の方策を検討・実施する。 

公社化以降、豊島病院の入院収益や入院単価、新入院患者数、新来患者数などは右肩上がりで増えている。医業収支(医業収入÷医業支出)は、公社化直後の平成21年度の72.3%から平成25年度は92.3%へと大きく改善されている。今後は、内視鏡室の拡大、女性外来フロアの新設なども進めていく。

■トップは明確な方向性を

(山口武兼・豊島病院院長の話)

副院長のとき、河北総合病院の河北博文理事長が、「病院の理念に従わないものは去れ」とある会合で話しているのを聞き、びっくりした。「そんなことは都立病院では言えない」と思ったが、自分がトップになってみると、「同じ方向を向いていない人を置いておく余裕はない」と考えるようになった。公的病院だから自分の好きなことができる、と思ってもらっては困る。院長になってからはできるだけ病院の理念や方向性を話すようにした。トップはあるべき方向性をきちんと示し、職員に説明することが重要だ。方向性がはっきりしていないと、職員は動けない。 

平成22年にも将来ビジョンのプロジェクトチームを自前でつくって、活動を展開しようとしたが、うまくいかず、途中で脱落者も出た。今回は、ファシリテーターとして日本生産性本部の経営コンサルタントにも加わってもらい、1回3時間の議論を繰り返したが、脱落者は出なかった。 

メンバーからは、「病院全体を考えるという機会がもらえてよかった。新鮮で面白かった。いままでは自分の殻にこもり、自分が担当している仕事をよくすることだけを考えていた」という声をよく聞いた。自発的な提案も増えてきた。 都立・公社立の職場は安定しており、与えられた仕事をやっていれば生活ができるが、反面、職員は外の世界を知らない。その意味で、松阪市民病院と福井県済生会病院の現地視察は大いに勉強になった。私も副院長になってから、経営の様々な勉強会に顔を出し、日本生産性本部のJHQC(日本版医療MB賞クオリティクラブ)にも参加した。若い人もうちでやっていることに満足せず、他の優れた病院をもっと見てもらいたい。 

医業収支の92.3% という数字は公的な病院としては、一定の水準に来ており、豊島病院は公社化が成功した例ではないかと思っている。今後は、医療の質の向上、患者満足度の向上、従業員満足度の向上のための施策の具体的な検討を図っていきたい。この三つを高めることが、中長期的には病院の経営の質を高めることにつながると信じている。 

■病院経営で重要なCSとES

(コンサルティングチームのリーダーである鈴木康雄・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

病院経営では特に、顧客(患者)満足(CS)と従業員満足(ES)を高めることが重要だ。病院はこれまで供給側の視点で運営されてきたので、これをCSの視点で見直す必要がある。また、CSを高めるにはESを高めることが求められる。従業員の能力の向上や労働条件の整備、ワークライフバランスの環境整備などでESを高めることができれば、従業員の定着率も高まり、職場のチームワークも良くなるだろう。 

一般的に、医療機関や介護施設において横断的な問題解決の役割を果たすのは「委員会」だが、実態としては横断的な「連絡会」となっている。「こういうことがあったので注意してください」で終わってしまい、問題の原因は何なのか、その問題をどうすれば解決できるのか、まで話し合いが進まない。縦割組織の病院では、他の診療科のことに口を出すことをよしとしない風土がある。今回は院長直轄のプロジェクトで、ファシリテーターも外部の人間であり、目的もはっきりしていたので、横断的に動ける状況が整っていた。 

今後の課題は、まず、プロジェクトチームや委員会におけるファシリテーションの充実だ。委員会が本来の機能を果たすために、我々がオブザーバーとして参加し、組織のヒエラルキーに揺さぶりをかける役割を果たしていきたい。既存の委員会で本来の議論ができればそれが一番良い。 

医療機関や介護施設にはビジネスモデルの優れた組織がたくさんあるので、まずはその良いモデルをまねてみることが非常に重要だ。お互いが高め合うことで、日本の医療もよりよい方向に向かうのではないか。 

高齢者が増えていることもあり、医療機関や介護施設の市場は拡大している。これまでは保険制度に守られて、それなりに経営は成り立っていたが、今後、機能分化と淘汰が始まるだろう。 

医療法では、病院経営者は医師でなければならないと定めているが、ほとんどの医師は経営のプロではない。我々は、病院経営者が自らのビジョンやミッションを具現化していくためのコンサルティングのモデルを構築し、そのモデルを他の地域中核病院にも展開していきたい。

◇記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03-3511-4060まで

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)