第4回:全社的な業務改革~はせがわ~(2014年10月15日号)

■全社的な業務改革に挑む

仏壇・墓石の販売などを行う「はせがわ」(東京本社=文京区後楽)では、顧客ニーズの多様化・高度化などに伴い、今までも関係部門で様々な改善を行ってきた。
 

しかし、それ以上に業務自体が増え、複雑化したため、営業店や本社・間接部門などの事務作業量が増加する傾向にあった。間接部門においては、部門ごとに固有の業務マニュアルはあるが、統一された全社共通の業務マニュアルはなく、異動などで他部署から来た担当者が、業務の仕方に戸惑ったり、時間がかかったりすることもあった。 

そこで2012年度から日本生産性本部の経営コンサルタントを招き、全社的な業務改革プロジェクトをスタートさせた。 

コンサルティングはまず、本社業務の棚卸、間接部門の全社共通の業務マニュアルの整備から入った。「担当の小林コンサルからは、『業務マニュアルをつくったら本社の仕事が見えてくる。見えてきた本社の仕事と営業店の仕事は必ずつながっているから、そのつなぎのところをシームレスにすることが重要だ』と指摘された」(豊永誠・はせがわ業務改革部長)という。
 

業務マニュアルには、業務名、業務概要、業務の目的、関連する部署・チーム名、サイクル、回数、期間、業務のポイント、業務に関して気になる点、作業時間、業務のフローチャートなどを記入していった。紙ではなく、データで作成し、社内Webに保存しているので、誰でも見ることができる。作成された業務マニュアルは約800本にも及んだ。この業務マニュアルによって、部門ごとの業務本数や、業務ごとの所要時間、関係者間における時間を要している箇所などが見えるようになった。 

12年度の下期には、業務マニュアルの整備の過程で浮かび上がった課題を解決するために、全社的な業務改善活動をスタートさせた。効果が大きくて重要な課題を8項目、17テーマ選定し、全間接部門で一斉に活動を開始した。見込み客管理の一元化や、商品マスタの整備、聖石業務の見直し、決算業務の効率化、組織機構に合った規程の見直し、文書の管理体制の構築などを行った。業務改善活動では、目標値やスケジュールなどを記述した計画書を作成し、定期的に進捗管理を行い、活動結果を得ることができた。 

13年度には営業店の業務改革に取り組んだ。5月に2週間、営業店3店において業務内容を15分単位で記録する業務実態調査を行った結果、顧客と接している時間が少ないことや、販売の見積もり作成や商品の納品作業などに時間を要していることなどがわかった。店舗運営の業務マニュアルも実態に合わせて修正した。 

また、営業部や商品部など各部門にまたがる業務を改善するには、個別部門のみでは限界があるため、営業部門の店舗統括マネジャーなど複数部門をメンバーとする業務改革のクロスファンクションチームを設置し、改革を加速化させた。 

メンバーは毎週、定期的に集まり、例えば、位牌の受注手続きの見直しでは、位牌文字のエビデンス保管と重要事項説明の徹底や、転記ミスを予防するためのしくみづくりなどに取り組み、再確認などで顧客に迷惑をかけることがないようになってきた。 

13年4月には業務改革部の中に、全社的な事務処理を行う「業務サポートチーム」を新たに設置して、人事の給与計算や経理の支払い関係の業務などの定型的な業務を集中させることで、業務品質を上げ、より効率的な工数配分の検討もできるようになっている。 

情報システムと業務改革の関係について豊永氏は、「昔はキーマンとなる人から話を聞いて、主にスピードや効率化を中心に考えて、情報システムを開発すればよかったが、今はそうではない。判断できるような仕組みと、分析できる仕組み、セキュリティや内部統制、ネットとの接続など、様々な要素を考えなければならず、複雑になってきている。従来は、ありたい姿に向かって、一直線にシステムを構築すればよかったが、今は第1次、第2次と段階的にシステムを構築する必要がある。経営環境が激変し、ありたい姿が日々高度化している。着実に少しずつ、構築していくことが重要だ」と語る。 

業務改革が成功している背景には、経営トップの関与が大きいことも挙げられる。業務改革部や業務サポートチームなどの組織を新たに設置したり、会長と社長が毎月、業務改革の進捗報告を受けて、軌道修正がある場合には指示を出したりしている。 

今後は、「手書き書類の運用からシステムの活用への変更に伴う業務の効率化や標準化に力を入れていきたい。シンプルな業務やシステムを構築し、誰が作業をしても、同じ品質と時間で、ミスなく同じ結果が出せる仕組みを目指していきたい。2年半の取り組みで、改革の土壌はだいぶ整ってきた。経営陣や関係部署と密なコミュニケーションを取り、環境の変化に柔軟に対応した業務改革を推進していく」(豊永氏)としている。

■「業務」と「情報」には密接な関係がある

小林定夫・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

業務改善を進めるには、経営活動に必要な業務情報と結果情報、状況情報の三つの情報が重要で、その情報の流れをイメージしながら取り組むべきだ。 


業務情報とは、業務活動を遂行する上で必要となるもので、自部門でPDCAを回すものや、他部門・関係者等への作業指示のために使われる情報である。管理する側は、業務結果が目標と比べて達成したのかどうかを評価するために結果情報を収集し、意思決定する側は、業務活動を軌道修正するための判断に状況を知る必要がある、これが状況情報である。 


具体的にいうと、生産計画部門が製造部門に対して、工程作業指示を出す。これが業務情報である。次に、出された工程作業指示に対して、作業結果がどうだったのかを製造部門が報告するのが結果情報である。もし生産計画部門に営業部門からの飛び込みの緊急依頼がきて、対応できるかを検討することになれば、製造部門の工程の空きや部品在庫の状況などを確認して、対応可能かを判断することになるが、これが状況情報である。 


環境が変化すれば、当然、業務と情報も変わることになる。当初、業務の仕方と情報システムが適合していても、環境変化で十分に適合できない部分が出てくると、その部分を各部門が個別に業務活動の中で対応することになる。環境変化のスピードが早ければ早いほど、情報システムの改修が追いつかないからだ。 


はせがわの場合も、業務の仕方と情報システムが適合できなくなってきた部分を、随時、情報システムを改修してきており、現場で表計算ソフトなどを活用して補ってきたりしていた。全社共通の業務マニュアル作成によって、時間がかかっている業務箇所なども見えてきたので、業務と情報の適合性を再確認しながら、業務改革を進めている。 


業務の効果を上げるには、業務自体を見直す仕組みの改善と、従業員の業務遂行能力を向上させる人の改善の二つに取り組むことが望ましい。いくら業務遂行能力が高い人たちがいても、業務の仕組みが重ければ、人の能力が十分に活かされない。また、いくら良い業務の仕組みをつくっても、それを扱う人の業務遂行能力が向上しなければ、うまく仕組みを使いきれない。 


これから業務改善に取り組む企業等へのアドバイスとしては、「御社では何本の業務本数がありますか、業務ごとの標準時間は何時間ですか」という問いに答えることができなければ、まず現状把握をすることが必要だ。また、経営トップが関わり、推進担当を設けて、業務本数の削減や時間軽減などの目標値を意識しながら、業務改善を進めるべきであり、ステップを分けて取り組むことも必要だ。改善効果を出すには同社のように継続が重要だといえる。

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