第3回:店舗事業における改善プロジェクト~生活協同組合ユーコープ~(2014年8月25日号)

■コンサルティングで人が育つ

2013年にコープかながわ・コープしずおか・市民生協やまなしが合併して誕生した生活協同組合ユーコープ(本部=横浜市)は、宅配事業「おうちCO―OP」、店舗事業、保障事業などを展開しており、14年3月末現在の組合員数は175万人、企業の売上高にあたる供給高は1794億円に達している。 

日本生産性本部では、日本生活協同組合連合会とユーコープが共同で実施していた、店舗事業におけるコスト削減プロジェクトを支援した。 

プロジェクトでは12年8月から10月にかけて、ユーコープの店舗におけるパート社員の稼働調査を実施したところ、パート社員の「手待ち時間」が多いことや、作業計画や作業割り当てが明確になっていないことなどがわかった。 

そこで、同本部からの改善案の提案を受け、ユーコープでは、13年の2月から10月にかけて末吉店(横浜市鶴見区)と竹山店(横浜市緑区)の2店舗を対象に、改善活動をスタートさせた。「総論的な、座学的な指導ではなく、具体的に店舗に入っていただき、店舗の現場の中で問題点を明らかにして、改善をはかっていく支援をお願いした」(相澤隆裕・店舗運営部部門指導課課長)という要望を受け、現場重視のアプローチを採った。 

「店舗事業における『職場ルール・管理基準の見える化』支援活動」と名付けられたコンサルティングでは、バックヤードの2S(整理・整頓)、レイアウト変更、販促ツール等の定位置管理、部門別KPI(重要業績指標)の設定、備品類の発注点管理などを行った。 

成果としては、生産性向上による作業時間が短縮したことに加え、消耗品費が末吉店、竹山店ともに30%削減。在庫削減額は、末吉店の場合、ドライ部門で週に130万円、総菜部門で週に27万円、竹山店の場合、ドライ部門で週に92万円、総菜部門で週に22万円の効果があった。 

末吉店の総菜部門では、「バイキングの品だし完了時刻」と「在庫金額」についてのKPIを設定後、品出し完了時刻が大幅に早くなった。それまでは、各自がそれぞれの持ち場で淡々と作業を行っていたが、部門目標を設定することで、他人を応援するようになり、作業スピードが速くなったという。 

レジカウンター部門では、「箸のセルフサービス化」(弁当購入時の箸を手渡しからセルフサービスに変更)や、「発注時間の短縮」(備品在庫の一元管理、発注点管理による在庫確認時間や発注時間の削減)、「備品類の集約」(備品類を一つの棚に集約したことによる備品補充に伴う歩行・手待ちの削減)などの改善が行われた。 

同プロジェクトのとりまとめを行った店舗運営部部門指導課かながわ部門指導担当の北村正明氏は、「以前からユーコープ独自で店舗の業務改善を行っていたが、なかなか2Sが定着しなかった。2Sを維持するためにどんな管理をして、どんな点検を行い、どんな評価をしていくかという仕組みが弱いことがわかった。昨年の組織変更もきっかけになり、トレーナーとスーパーバイザーがいっしょになって改善に取り組める体制ができてきた。組織として変わりつつある」と前向きに評価する。 

「鍜治田さんからは『次回までのお願い』という名の課題が毎回出て、全部で100を超える指摘項目が出されたが、まだ全部を解決できていない。具体的な指導方法を学んでいくなかで、私も成長できた。他の店舗に行くと、問題点に気がつくようになった。鍜治田さんならどうやるかを考えながら改善に取り組むようになった」(部門指導課総菜担当の小原憲司氏)、「鍜治田さんは何でも相談できる存在で、勉強になった。人を褒めるのも上手だ。今は、日々の仕事の中で人に何かを指摘したいときにも、その人の良いところを探すようにしている。『あとはここを直せばもっとよくなるね』と言えるようになった。『このくらいわかってもらえるだろう』とこちらが思っていてもうまく伝わらない。発信する際のコミュニケーションに気をつけるようになった」(店舗運営部店舗運営企画課レジ・カウンタートレーナーの原布紗氏)と、人材育成の効果もあったようだ。 

ユーコープでは現在、同プロジェクトで得たノウハウを全体で共有するために、KPIを「私たちの作業目標」という言葉に置き換え、各店舗で「私たちの作業目標」活動を展開している。「『見える化』という手法が効果がある、ということについては、当初は我々も半信半疑だったが、実際取り組んでみると、大きな効果があった。マネジメント手法の一つとして、KPIを組織に定着させていきたい。現在、新人教育や年次教育において、KPIの講義を取り入れている。受講者が増えてくれば、組織内にKPIの考え方が浸透していくだろう」(相澤氏)と今後に期待を寄せる。 

■改善が評価される組織風土の醸成を

鍛冶田良・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話)

工場における改善とサービス業における改善の違いは、工場では一般に毎日、同じ人が同じ場所で働くために改善が定着しやすいのに対し、サービス業では曜日によって人員が変わり、作業も異なる。ユーコープでも2Sがなかなか定着せず、誰か一人がやらなくなるとすぐに乱れてしまう傾向があった。職場を束ねる「チーフ」が異動すると、売り場ごとに独自のルールが運用されてきた。今回のプロジェクトでは、誰が来てもルールがわかるような職場づくりを目指している。 

現状では、私の期待した成果はまだまだ上がっていない。一方で、成果として挙げられるのは人材の育成だ。これほど短期間で人が育つとは思っていなかった。小原さんや原さんのようなトレーナーをもっと養成していけば、成果も上がっていくだろう。 

現場のパートの方は一生懸命動いてくれるが、上から目線の本部口調で伝えても動いてくれない。「大変なのはわかる」とまず現場の仕事を認め、理解することから入ることが重要だ。トレーナーは私のアプローチを横で見ていて、現場との関わり方について学んでくれたのだと思う。 私はオぺレーション・マネジメントを専門としているが、ものづくりでも営業でも店舗でも考え方は同じで、日々の日常的な業務の中でどの活動を増やすと売り上げが上がったりコストが下がったりするのかを重視して目標設定を行っている。 

一般に、日本の企業では人を褒めることが非常に少ない。当たり前のことを当たり前に続けていくことは難しいことだが、当たり前にやっていることを褒めてあげる視点が欠けているような気がする。KPIを設定し、当たり前のことを当たり前にやれば評価される職場づくりを心掛けている。 

攻めに強い人と守りに強い人の2種類の人がいるとすると、守りに強い人は評価されない傾向があり、むしろ、攻める場合の抵抗勢力にされたりしてしまう。攻める人は食い散らかして終わりということもある。特に改善活動においては、当たり前のことをやり続けることに対して、褒めて認めることが非常に重要だ。トヨタなどの長年改善活動を行っている組織では、改善活動を続けることが評価される風土がしっかり醸成されている。 

改善は現場から自発的に起こるものだと思っている人もいるが、実際には現場はなかなか自発的にはやらない。最初は多少強制的に活動を始めて、組織における改善の風土が育ってからでないと、自発的な取り組みにはならない。ユーコープでも、最初はこちらから現場への指示という形で始めた。そのうち、成果が出てくると、現場が自ら考え、他の店舗で試したりする。そういうものが積み重なると、現場力が高まってくる。 

コンサルタントから得た知識が現場の知恵に変わり、実践される。それが軌道に乗ってくると現場が自発的に動くようになる。ユーコープの取り組みはその過程にあると言えるだろう。

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