第5回:組織力強化を目指す人事制度改定~綜研化学~ (2014年11月15日号)

■人事諸制度の改定で組織力を強化

粘着剤や微粉体などの工業製品材料の製造・販売を行う綜研化学(本社=東京・豊島区高田)では、2011年度から人事制度を刷新した。 

刷新とはいっても、それまでの制度を全面否定しているわけではなく、思想や良い面については踏襲しながらの改定となっている。その概要は「人事制度要綱」としてまとめられ、全社員がいつでも確認できる。 

「旧制度は『マルチトラックシステム』という、複線型の管理体系をとっていた。この制度には現在も参考にすべき思想が多分に盛り込まれていたが、システムの運用が複雑で、賃金決定では定率を用いたために、若年層の賃金水準の低下、同等級での滞留年数による昇給不均衡を招くなど、不具合も発生していた。また、少ない等級のため、昇格の壁が厚くなる一方、実際の昇給額は低額で、成果は個人の業績賞与でしか実感できない状況となり、自身のステップアップも感じにくくなっていたのではないかと思う。そのため、個の部分に目が向きすぎ、組織という感覚が薄れてしまってきているように感じた。本来目指した方向とはズレが生じていた。その結果から、『成果は組織として生み出す』もの、『自己の成長を実感すること』が必要だと考えた」(泉浦伸行・綜研化学執行役員総務人事部長)。 

また、新制度では「何のための人事制度なのか」という理念を重視した。「制度の理念や考え方については結構時間をかけて検討した。経営理念に示された『働く喜びの実現』を目指す際の、会社側と従業員側から見たあるべき姿を明記した。旧制度では、その意図が十分に伝えられなかったのではないかとの反省の下に立ってのことだ」(泉浦氏)。(「人事制度の考え方」参照) 人事制度の改定は、コース制度、役割等級制度、目標管理制度、人事評価制度、自己申告制度、能力開発制度に及んだ。 

コース制度では、それまでの複線型体系も踏まえ、基本的な勤務条件の異なる雇用区分として、「総合職」「技能職」「事務職」の三区分を設定した。転勤、海外出向、長期出張の有無により区分したが、「技能職は勤務地を制限する会社が多い中、当社は今後の事業構造の変化を見越し、海外子会社に対して指導的立場を担ってもらえるよう、転勤、海外出向、長期出張ともありとした」(泉浦氏)。管理職層には、職務の違いによりマネジメント・スペシャリスト・エキスパートの3系統を設けている。 

目標管理制度にも改定の狙いが表れている。組織としての取り組みを強化する仕掛けとして、複数名でチームとして取り組む目標を設定(該当者名を明記)することができるようにし、その目標については、チームとして達成度を評価し、各メンバーの達成度は同一の評価となる。 

人事制度の導入の前後で、従業員を対象としたES(従業員満足)調査を行っているのも同社の特徴の一つだ。人事側が考えている問題点と、従業員側が考えている問題点がどう違うのかを見ることや、どんな点を制度設計に反映すべきかを確認することなどを狙いとして実施している。昨年実施したES調査では、給与面での評価は導入前に比べて格段に良くなり、昇給の問題やステップアップするまでの時間の長さなども解消された。 

制度導入後3年が経過したが、泉浦氏は、「ところどころでチームという意識が出てきたことが大きく変わった点だ。これまでは、チームや組織の観点よりも個の観点が強すぎた。新制度では、一定レベル以上の等級については、部下や後輩の面倒を見ることを期待しており、組織力やチーム力の強化に目が向くようになった。大卒で3~4年になると、『自分が下の面倒を見る』と、後輩を指導するという意識が出てきた。指導層になると、その上の幹部職層を意識するような行動が増えてきた。スペシャリスト系やエキスパート系を目指すにしても、自分一人で動くのではなく、プロジェクトやチームをまとめる能力が要求されるということが理解されるようになってきた」と導入の成果を語る。 

同社ではここ数年、海外駐在者、定年再雇用者、非正規社員の各種処遇制度見直し、メンタルヘルス対策など、矢継ぎ早に対策をとってきている。 

「昨年のES調査では、組織上の連携や仕事への満足度の点数が低かったが、私はそれでもいいと思っている。点数の低さは改善への期待でもあり、現状に満足しない意識の高さの表れの両面があると思う。楽観するつもりはないが、3年前と比べて、『もっとできる』という意見が増えたのだとすれば、これからが楽しみだ。『まだまだできていない』と、従業員同士がせめぎ合うことが組織を強くする。従業員の問題意識が上がれば、組織のレベルも上がる」(泉浦氏)。

■人事にも求められる改善の積み重ね

須江豊彦・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

綜研化学の人事のすごいところは、「新制度を導入したら終了」ではなく、「運用してみて問題を発見し改善を継続」しているところだ。導入はゴールでなくスタート地点だ。当たり前のようで、実際にはなかなかできない。 

問題発見の一つの方法として、定期的にES調査(意識調査)を実施している。定期健康診断のようなものだ。導入・改定した制度が、経営的にどのような成果を生んだのか、従業員の心情や行動にどういう影響を与えたのかを見る。制度は目的ではなく、手段である。従業員の心情・行動の変化を「見える化」する方法として、ES調査はとても良い方法だ。 

私は、人事制度を大幅に導入・改定する会社には、その前後にES調査を行うことを勧めている。自分達がやったことの成果を数字で確認できるとうれしいし、やりがいにつながる。 綜研化学の改定前後2回の調査結果を比較すると、等級制度、コース制度、賃金制度など、改定した主要制度についてはほぼすべて満足度が大幅に高まった。 

しかし、仕事満足(働きがい)、評価の納得感、上司の行動については高まらなかったので、まだ十分な成果が出たとは言えない。人事制度は道具。制度を改定したことで、現場を動かすマネジャーの行動が変わり、その結果、従業員の上司に対する満足度や仕事のやりがいが高まるのが理想だが、まだそこまでは至っていない。 

仕事満足を高めるには仕事自体を変えることが有効だが、それはなかなか難しい。上司が仕事や目標の意味や価値について語ることや仕事自体を改善して達成感を味わうことができれば、仕事が変わらなくても部下の仕事満足は高まる。 

今年度、同社では従業員の仕事満足を高めるため、目標設定と上司の日常マネジメント(部下への関わり方)について重点的に取り組んでいる。管理職層を対象に半日程度の研修を実施している。長い目でみると、管理職の位置づけや人材の選び方、若いときからの育成方法、さらに採用のあり方までさかのぼった検討も必要と思われる。

◇記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03-3511-4060まで

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)