第2回:全てのキッカケは「見える化」

■「見える化」の価値

2021年も6月に入り、新卒社員が入社してはや3ヶ月。新卒社員は職場に馴染み、いきいきと働きはじめているだろうか?2020年度入社の新卒社員の多くは新型コロナウイルス感染症の感染拡大で出社が極めて困難な状態で入社した。「誰に何を相談すれば良いのか」すら分からず入社した新入社員たちのエンゲージメントスコアは現在に至るまでどのような変化があったのか。

エンゲージメント解析ツール『wevox(ウィボックス)(ユトレヒト大学で客員研究員経験があり、日本におけるワーク・エンゲイジメントの第一人者である慶應義塾大学島津教授の監修)の統計データでは、2019年度以前入社の新卒社員も2020年度入社の新卒社員も入社以降エンゲージメントスコアがダウントレンドという全体傾向は変わらない。一方で、中身は異なる。2020年度入社の新入社員の場合、営業職では20204-8月にかけて大幅にエンゲージメントスコアが低下後に回復、一方、ITエンジニア職ではエンゲージメントスコアが高水準を維持。

エンゲージメントスコアの「見える化」の価値は、全体を俯瞰して組織や職場の状態が分かること、そして、個別の数字を読み解きながらなぜその状態になったのかと気付き、より良い職場にするための行動変容のキッカケになることにある。

つまり、新卒社員だからと十把一絡げにしたり、全体傾向が同じだから同様のトレンドだろうと決めつけたりするのではなく、職務内容や価値観、性格特性ごとに、ワークスタイル変化の影響は多種多様であることを理解し、組織側が受け入れ体制を調整することが大切だ。

また、テレワークの常態化に伴い肌感覚で職場の雰囲気を感じとることが難しくなり、成熟度の高いマネージャーでもマネジメントの難易度が上がる。当然新任マネージャーは初めての経験ばかりでさらに大変だろう。職場状態の「見える化」はこのような課題感にも価値を発揮する。

■ワーク・エンゲイジメントとは何かを正しく知ろう

ワーク・エンゲイジメントとは、オランダのユトレヒト大学名誉教授Wilmar B. Schaufeliらが提唱(2002)した定義では、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、活力・熱意・没頭の3つが揃った状態」である。また、「特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知」である。ワーク・エンゲイジメントが高まると個人にも組織にもポジティブなアウトカム(「労働生産性、・顧客満足度等の改善」、「定着率・離職率の改善」、「働く人のストレス・疲労感の改善」など)につながる。

wevoxの研究でも「エンゲージメントが高いリーダーのいる職場は昨対比で売上伸長率が高い」、「エンゲージメントが高い営業パーソンは受注率が高い」など、同様の結果が示されている。

ワーク・エンゲイジメントが注目される時代背景として、「人手不足感の高まりなど労働市場の課題感」、「VUCAの時代」があげられる。採用が難しいからこそ、1人あたりの労働生産性の向上が必要があり、先行き不透明だからこそ、オペレーショナル・エクセレンスよりも現場のクリエイティビティを重視する局面がある。もちろん、SDGsESGという文脈の背景もあり、財務指標だけでなく、非財務指標(中でも人的資本)も重要である。大手企業では、統合報告書内に人的資本、中でもエンゲージメントに関して記述され始めている。

また、ワーク・エンゲイジメントの注目の高さは経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「健康経営銘柄」の選定要件の1つであることや、厚生労働省の「令和元年版労働経済の分析」には第3章で詳細に取り上げられていることからも見てとれる。

HRテック業界では『エンゲージメント測定ツール』の類がトレンドの1つになっているが、ワーク・エンゲイジメントが測定可能かは非常に大事なポイントであり、ツールの選定する際には留意が必要だ。

■当たり前のことを当たり前にやってみよう

ワーク・エンゲイジメントが計測可能なwevoxでは、1,900社超の組織の利用データ(4,900万件超の回答データ)から職場のエンゲージメント向上サイクルとして「①はかる→②わかる→③きづく→④かわる」の習慣化が大切であることがわかった。

また、自職場のエンゲージメントスコアを高めるプロセスとして「経営や人事からの指示型」よりも「管理職や現場の主導型」の方がスコアは高まりやすいこともわかった。

ただし、エンゲージメントを高めるためにもビジョンやミッションの浸透や経営の意思決定が必要な局面では経営陣のコミットメントが必要であり、エンゲージメントを高めるための人事制度変更が必要な局面では人事のコミットメントが必要である。自組織のエンゲージメント向上の為、各役割のコミットメントが重要だ。

自組織においてエンゲージメントを重要な要素とする場合、「エンゲージメントスコアの見える化、職場の状態理解、自職場の強みと弱みに気付き、強みはさらに伸ばし、弱みは強みに変える」のは頭の中で考えるのは容易なことだろう。

ただ、従業員の負担を出来るだけ少なくサーベイを実施し、自組織が希望するアングルでサーベイ結果を簡単に確認することが難しい現実に直面する。そして、サーベイ結果を現場の管理職やメンバーに共有しないことで、組織に関する対話や行動変容が進まないこともある。

■「やってみなはれ」の精神でできることから始めよう

エンゲージメント向上サイクルを習慣化するためにも、心理的安全性の高い職場作りは大切だ。心理的安全性の高い職場の状態、つまり、「チームメンバーに非難される不安を感じることなく、安心して自身の意見を伝えることができる状態」が実現できれば、サーベイの結果を見て対話しながら、自職場の理解を深め、変化に気づき、さらに良い職場作りへの行動に繋がる。

心理的安全性を高めるためには、自職場のメンバー間で価値観(仕事観、人生観など)の相互理解が出来ていることが大切だ。朝ミーティングでワイガヤの雑談時間を5分作るだけでも人となりの理解が深まるだろうし、価値観カードのようなワークショップツールで遊びながら価値観の理解を深めていく方法もあるだろう。自職場のメンバーに合いそうな取り組みをまずはやってみることが重要だ。

日本の多くの管理職の方々は働き方改革で労働時間が短くなり、Z世代のような価値観が多様な若手のマネジメントも求められる中、さらに自職場のエンゲージメントを高めよというミッションを抱えるのは無理だと思う方も多いだろう。

しかし、エンゲージメントは日常の習慣を少し変えるだけでも高めることが可能だ。例えば、部下にお礼を伝える時、単に「ありがとう」と伝えるだけでなく、「私はあなたの○○のおかげで助かったよ。ありがとう」と自分が感謝を感じた理由とセットで「ありがとう」を伝えよう。

また、部下に業務依頼をする時、単に「この仕事を◯◯さんに任せますね。XX日までにお願いします。」と依頼するのではなく、「この仕事を◯◯さんに任せますね。XX日までにお願いしますね。◯◯さんが以前から興味があると言ってた領域の仕事ですし、良いチャレンジになるかと思います。チームにとっても大事な施策なのでよろしくお願いします!困ったらいつでも相談して下さいね。」と部下の自己成長を考え、困った時は支援する姿勢も伝えてみよう。

どの業界でも、どの職種でも、何の役割を担っていても、エンゲージメントの高い職場作りのためには、まずは自分が出来ることからはじめてみようという気持ちが大切だ。「見える化」をキッカケに自分たちにあったやり方でエンゲージメント向上サイクルを回しだそう。


筆者略歴

中村 友也
アトラエ wevoxカスタマーエンゲージメント

大学卒業後、アトラエに入社。現在はwevoxのエンタープライズ担当として、大手企業中心に支援。慶應義塾大学「仕事とウェルビーイングコンソーシアム」事務局長を兼務。

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)