第3回:働きがい高める「共感の会議術」
■年1回の調査分析は活かせるのか
エンゲージメント調査や社員満足度調査といった、自らを振り返る調査を導入している組織も多いだろう。だが、年1回程度の調査だとしたら、現場のマネジメントサイクルにはあわないはずだ。「1年間まとめてどうだった?」と聞かれても、回答者は思い出せないし、直近のイメージで答えるだけだろう。
さらに、その結果が現場のマネジャーにフィードバックされたとしても、年1回の頻度では、部下のサポートも間に合わない。人事部が集計しマクロ的な活用はできるのだろうが、それはあくまで大きな施策を決めるような情報としてではないだろうか。
■パルス調査なら活用できるのか
このした背景から、最近は「パルス調査形式」(月1回や四半期に1回といった頻度の高い調査)をとる組織が増えている。
これまで費用がかかった調査も、今はクラウドを使うと低価格でできる。となると、やらない理由は二つだ。
一つは「本音を聞くのが怖いから」
これは昔からそうだが、社員の声を聞くのが怖い経営者もいるし、私もその気持ちはわかる。しかし、これは乗り越えなければならない壁である。
もう一つは「調査をしても活用方法がわからないから」という理由だ。
これまで調査を現場にフィードバックしていなかった組織においては、現場のマネジャーも、結果をどう活用していいかわからない。
では、どうするか。マネジャーが「フィードバック会議」を開けるようにすればいいのである。
■会議をしっかり開いているか
このときに問題になるのが、そもそも、普段から、部門会議をしっかり開いているのかということである。
単なる業績報告会議、上司からのダメ出し指導、あとは連絡事項という会議しか開いていなかったとしたら、フィードバック会議もどうしていいかわからない。最悪のケースでは、調査結果をマネジャーが分析して、メンバー一人一人を叱咤激励するということにもなりかねない。
隣の職場と比較して、スコアが悪ければ、「なぜ悪いのか」とメンバーを問いただすだけで、これでは明らかに逆効果だ。
■会議の定義を見直そう
さすがに、ここまでひどいマネジャーはいないと思うが、やはり、会議の原理原則から確認しておきたい。
「会議とは何か?」ということである。
私は、会議の主催者にいつも次のように問うている。
「この会議の目的は何ですか」。
すると、
「部内の情報共有です」という答えが返ってくる。たしかに、それはそうなのだが、続けて
「情報共有して、どうするのですか」と聞くと言葉につまってしまう人がいる。
これでは、ダメなのである。
こんなマネジャーは、せっかく、エンゲージメント調査の結果が共有されても、その先を考えない。調査して終わりである。
そこで再び「会議とは何か?」である。
私は、こう会議を定義することをおすすめしている。
「会議とは、問題解決の喜びを分かち合う場」である。
■二つの意味
この定義には二つの意味がある。
一つめは「会議は問題解決の場だ」ということである。
調査結果を分析して、実態はどうなのか、なぜそうなっているのか、これからどうしたらいいかについて解決策を見つけていきたい。
そのためには、マネジャーは分析結果を整理し、事前にメンバーに配信し各自に考えてきてもらわなければならない。
いきなり当日、職場のエンゲージメントスコアを見みせられても、部下は自分の結果しか知らなかったとしたら、その場で発する意見は思いつきの域を出ないからである。
一人一人が意見を持ち寄るところから、当日の会議を始めよう。
二つめは「解決を喜び合うことが重要」ということだ。
たとえば働きやすさの項目について、スコアが下がっているとしよう。つけた本人は、それほど感じていなかったがどうやら他のメンバーがスコアを下げているようだ。こういった状況では、まず各自が、現状認識を語る。その上で、原因を探ったり、対策案を考えたりする。
■「貢献の喜び」につなげる
このような進行は、マネジャーの手腕にかかっている。いかに、話しやすい雰囲気をつくり、実際、話し始めたら、どれだけ興味関心をもって聴き続けられるかが勝負だ。 その上で、他の人にも、まんべんなく振りながら意見をやりとりさせていく。コーチングやファシリテーションのスキルをフル活用しよう。何らかの対応策が生まれたらそれは「解決の喜び」となる。
とはいえ、その対応策の影響が、直接自分に関係ないこともあるだろう。そんな場合でも、その場の議論に加わりアイデアを出すことは「貢献の喜び」につながるはずだ。
さらに、その対応策をマネジャーが決定し、さっそく実行しはじめたら、次の調査結果とフィードバック会議が楽しみになるはずだ。こうなれば、組織の改善サイクルは回りはじめる。
これらの会議方法を、私は「共感の会議術」と呼んでいる。問題解決を通じて、お互いが信頼関係を強くし、働きがいを高めていく。それが職場のエンゲージメントをさらに向上させ、マネジャー自身の影響力を育んでいくのである。
コンサルタント紹介

寺沢 俊哉
慶応義塾大学理工学部管理工学科卒業後、株式会社パルコにて、新規事業開発・マーケティング等に従事
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導、リーダーシップ、エグゼクティブコーチング、モチベーションアップなどのテーマで人材育成の任にあたる。
(1961年生)
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