第4回:新規事業を創出できる人材を育成~鹿児島県~(2022年12月15日号)

新事業創出へ「集中勉強会」

 鹿児島県では、県内の中小企業を対象に、自社の抱える課題を正確に把握して、課題解決に向けた具体的なアイデアを生み出し、新規事業を推進できる人材(社内中核人材)を育成する「社内中核人材勉強会」=写真=を2019年から開催している。

「社内中核人材勉強会」は「新産業創出ネットワーク事業」の一つとして実施されている。同事業は、地域資源等を活用した新産業創出に取り組む県内中小企業に対し、事業ニーズの掘り起こしから事業化、販路拡大までの各段階に応じて、集中的かつ継続的に支援するもので、主に「事業ニーズや課題の掘り起こし、企業と研究者等のマッチング支援」「補助金による支援」「専門家による伴走支援」「セミナー等の開催」の四つから構成されている。

 「セミナー等の開催」では「ビジネスセミナー」や「社内中核人材勉強会」などが行われている。

 「社内中核人材勉強会」では、新規事業開発担当に求められるマインドおよびスキルを体系的に学ぶ。また、異業種・異職種の受講生、講師との交流を通じて、多角的な視野を習得できる。主催は鹿児島県、委託事業者はかごしま産業支援センターで、日本生産性本部は当初から「社内中核人材勉強会」の企画運営に関与している。

 今年度の勉強会は8月末から来年1月までの日程(全5回)で開催(第1回と第5回は会場開催、第2~第4回はオンライン開催)され、11社16人が参加している。

 8月の第1回「社内中核人材に必要なマインドの醸成と基礎固め」では、新規事業開発を遂行するためのマインドやスキルの解説、新規事業計画書(ビジネスプラン)の作成方法、簡単に活用できるITツールの説明などが行われた。「今までは使い方が難しいとされていたITツールが進歩し、実は低価格で簡単に使える時代になってきたということを伝えている。そうしたものを利用して、自社のビジネスをどう変えるかを投げかけている」(丹野幸敏・日本生産性本部講師)。

 9月の第2回「お客様中心でのマーケティング発想法」では、自社の事業計画を検討する際に有用な考え方を学ぶとともに、事業計画の概要についての講義が行われた。各自が作成してきたビジネスプランを発表し、講師や受講生との意見交換を行い、ビジネスプランのブラッシュアップを図った。

 10月の第3回「効果的な話法の習得と実例からの学び」では、ビジネスプランを分かりやすく魅力的に紹介・発信するためのプレゼンテーション手法を学んだ。各自が作成したビジネスプランの個別指導と相互学習も行われた。

 11月の第4回「プランの実現可能性の検証と最終調整」では、実現性の高いビジネスプランとするための財務計画の講義・演習や、最終回に向けた受講生の発表リハーサルと相互学習、ゲスト講話者による講演などが行われた。

 1月末に実施される第5回「研修結果の発表と実行・展開に向けて」では、受講生のビジネスプランの発表が行われる。発表内容には、審査員(講師・外部有識者)から評価とフィードバックが行われ、受講生はビジネスプランの更なる改善を図ることができる。


切れ目ない支援が必要~溝口俊徳・鹿児島県商工労働水産部産業立地課新産業創出室長の話

 鹿児島県における全産業の労働生産性は全国平均の8割程度となっており、労働生産性向上のための経営基盤の強化などが課題だ。

 県では、新産業の創出に向けて、かごしま産業支援センター、金融機関、大学、公設研究機関等との連携を図り、企業の「稼ぐ力」の向上を目指して、スタートアップの創出・育成や中小企業の新事業展開、中小企業のDX推進のための各種支援施策を展開している。

 県内の中小企業の成長を促進するためには、新たな産業の創出が重要だ。宇宙関連やドローン関連では今後、市場拡大が期待されている。宇宙関連では県内に二つの射場(種子島と内之浦)が立地する特性を生かし、産学官連携の研究会「鹿児島県宇宙ビジネス創出推進研究会」を6月に立ち上げ、ビジネス化に向けた課題の整理などを行っている。

 中小企業の新事業支援については、事業ニーズの掘り起こし、マッチング、事業化、販路拡大までの各段階において、切れ目ない支援が必要になる。研究開発だけ、販路拡大だけの支援では事業創出はなかなか難しい。「新産業創出ネットワーク事業」は、複数年(最大3年間)にわたって、新産業創出、新分野開拓に関して一貫した支援が受けられる事業となっており、継続的かつ包括的に県内中小企業を支援している。補助金による支援については、例年、募集件数を超える応募があり、好評だ。

 優秀な技術シーズを持つ企業で事業化にあまり積極的でない事例も見られるので、アライアンスに誘導することや、他社に事業を託すようなスキームの構築も検討課題ではないかと思っている。そうした橋渡しを通じて、県内中小企業の新事業創出を支援していきたい。

中小企業の「稼ぐ力」に寄与したい~増田成美・かごしま産業支援センター産業振興課長の話

 「社内中核人材勉強会」の特徴は大きく二つある。一つは事前課題に取り組んだうえで、各回の講義を聴講し、講師のアドバイスを受けながら、ビジネスプランの企画、作成、発表を行う演習方式であること、もう一つは受講生の事前課題やビジネスプランの作成をフォローするために、クラウドサービスを活用してオンラインの個別指導を行う体制を構築していることだ。

 受講生が所属する企業の業種や事業規模は様々だが、半年という長期間で開催されるので、受講生全員が1月の成果発表まで出席してもらうことが事業の趣旨上、大切だ。そのために、関係者間で定期的に会合を持ち、問題点の改善を図っている。

受講生がこの勉強会での学びを生かし、社内で新規事業開発のリーダーになってもらうことを期待している。また、鹿児島県内の中小企業の「稼ぐ力」の向上に寄与するような、新規事業創出の中核人材が一人でも多くここから育ってほしいと思う。

受講生の「気づき」を重視し指導~「社内中核人材勉強会」のメイン講師を務める丹野幸敏・日本生産性本部講師の話

丹野 幸敏 日本生産性本部講師

 「社内中核人材勉強会」の最大の特徴は、計5回の研修日程以外にも接点を持ち、講師陣と受講生が相談しながら、自社のビジネスプランを作り上げていくというプロセスがあることだ。各人が学んで気づいて育っていくというプロセスが新規事業創造のインキュベーションの場になっている。

 新規事業を生み出すというミッションに向かっていくこと自体が人材育成だと思っている。いずれは自分たちで新規事業をやらなければならないので、悩み方や人への相談の仕方、上司の巻き込み方など、新規事業に伴う様々な壁をこの勉強会で体験してもらい、自分でできるようになるきっかけを提供している。

 指導にあたっては、気づいてもらうことを重視している。座学はできるだけ少なくして、発表を聞いてもらって周りからフィードバックを受ける機会や、グループ討議等で他人の意見を聞く機会を増やしている。課題の指導でも、「どうしてそのように考えるのか」といった質問を投げかけ、受講生自らが気づいてもらうような、自主性を促す指導を心がけている。

 中小企業の新規事業創出においては、経営トップは、新規事業はなかなかうまくいかないことや、時間がかかることをある程度許容したうえで、先行投資として決断したら、あとは自由に担当者に任せて、人が育つのを待つことが重要だ。

新規事業には伝える力も求められる。予算を取ってくるときでも、経営陣に説明するときでも、新規事業のリーダーは、自分で説明しなければならない。働きかけによって、相手が行動を変えてくれるような説明の仕方や提案の仕方を習得しておく必要がある。

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