第2回:アクションラーニングによる「次世代リーダー塾」~ダイセル~(2022年9月25日号)

「次世代リーダー塾」を開催

 ダイセル(本社=大阪市北区)は、人材育成の基本的な考え方として、「人の成長こそが会社の成長である」「『人』を信頼し、大切にする会社風土をベースに、全社員がそれぞれの立場で役割と責任を認識して人財育成に取り組む」を掲げ、新入社員研修、モノづくり研修、キャリア研修、専門能力開発、技術者人材育成プログラムなど、多彩な人材育成プログラムを設けている。

 昨年度からは、優秀な人材が適材適所でリーダーシップを発揮し、早期に部門を率いるリーダーに成長していくことを期待して、若手管理職層を対象とした「次世代リーダー塾」を開催している。

 同社が2020年6月に公表した中期戦略「Accelerate2025」では、めざすことの一つとして「働く人がやりがいを実感できる」ことを挙げ、その中で「変革のリーダーは大胆な権限委譲と抜擢で発掘する」ことにふれている。

 「2019年までは部門長向けに同様の研修を実施していたが、『もっと早い時期に受講したかった』という卒業生からの意見が多く見られた。当社の管理職は30代後半から40代前半でなるが、将来の経営幹部候補者を育てていくにはこの層からではないかと考えた。中期戦略を自分の業務の課題にしっかり落とし込んで『自分事化』していくことを期待している」(絹田一平・ダイセル事業支援本部人事グループ人財開発・労政チームチームリーダー)。

 今年度は7月から来年3月までの日程で、全12回をすべてオンラインで実施する。7月8日に行われた1回目の研修では、全体ガイダンス(趣旨や目的の確認)や自己紹介、役員講話、「アクションラーニング」(自社課題討議)の問題意識の共有などが行われた。

 10人の受講生は、経営戦略、論理構成力、マーケティング、デザイン思考、財務、新規事業計画、組織論などの分野において、講義や演習、ケーススタディなどを受講するとともに、「アクションラーニング」においては、問題意識の共有⇒全社的課題の整理⇒各自の課題案の共有⇒取り組み課題発表の各段階を経ながら、課題に取り組み、3月の「最終報告会」につなげる。「最終報告会」では取り組み課題をどう実践したのか、までが問われる。

 今年度は、研修期間を5カ月から9カ月に延ばした。「アクションラーニング」は、昨年度は個人課題の発表だけだったが、今年度は個人課題の発表に加え、グループ単位での課題発表も行い、「コーディネーター面談」と「メンター面談」の回数を増やしている。「アクションラーニング」の検討に不可欠な、経営戦略や論理構成力のコマは早めに実施するようにカリキュラムを見直した。

 「アクションラーニング」の取り組みを支援する仕組みとして、「コーディネーター面談」(1人あたり期間中に3回開催。1回あたり1時間から1時間半)と「メンター面談」(1人あたり期間中に4回開催。1回あたり30分から1時間)を実施していることが「次世代リーダー塾」の大きな特徴だ。

 メンターには受講生とは異なる部門の部門長クラスが就き、そのメンターが受講生の個人課題の相談を受ける。受講生は自分が部門長になったと仮定して、個人課題の設定を行い、取り組み内容を発表する。

 12月の「取り組み課題発表」と3月の「最終報告会」には、人事担当役員、受講生が所属する部門の役員、メンターが参加し、発表のフィードバックも行われる。

 今後は、「受講生のフォローなどを通じて、社内における次世代リーダー塾の評判を高め、よりいっそう受講生が切磋琢磨し、優れた課題解決案が出てくることを支援していきたい」(絹田氏)としている。


一体感の醸成を心がけて~絹田一平・ダイセル事業支援本部人事グループ人財開発・労政チームチームリーダーの話

 今年度、新たにグループ課題を導入したのは、受講生同士の横のつながりを強化したかったからだ。リアルの研修では、研修終了後に飲みに行って、コミュニケーションを深めることがよくあるが、オンラインの研修だと、一緒に研修を受けたという一体感が薄いといった意見もあり、グループ課題を討議することを通して、横のつながりの強化を図っている。

 また、中期戦略を自分の業務の課題に落とし込んで「自分事化」するのは、個人課題では少し荷が重い。そこで、今年度のグループ課題のテーマは中期戦略のサステナブル経営方針で掲げている、3つのキーワード(図参照)のそれぞれを3グループのテーマとすることで、全社視点で自社の課題を考える機会としている。

 メンターは、受講生が所属する事業とは別の事業部から選んでいる。事業部の課題を自分だけで掘り下げると専門的になりすぎる傾向があり、メンター面談を通じて、他の事業部から見た視点を個人課題に反映させていく。メンターと受講生は職種も違う組み合わせにしている。「コーディネーター面談」は、受講生にとって、非常に貴重な機会になっている。
 成果はこれから出てくると思うが、会社としても今後、サクセッションプランの導入を検討しているので、そこに卒業生がどんどん登録されていくことを期待している。

事実に即した原因の究明が重要~コーディネーターを務める筒井健太・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話


 「アクションラーニング」を成功させるためには、「コンテンツ」(取り組んでいる業務の具体的な内容そのもの)と、「プロセス」(業務を進める過程において必要となる原理・原則。戦略思考や論理思考、マネジメント等の知識・スキル)の「ブリッジング」(橋渡し)がとても重要になる。
 受講生は、「プロセス」を踏まえて、実際の業務を考えることや、「コンテンツ」での体験・経験を「プロセス」の枠組みで考えて整理することで、アクションラーニングの質が上がっていく。

 「メンター」は主に「コンテンツ」側から、「コーディネーター」は主に「プロセス」側から、受講生をブリッジングするという大きな役割を持っている。「次世代リーダー塾」では、「メンター面談」や「コーディネーター面談」を通じて、このブリッジングの機能がよく効いている。

 受講生は、目の前の自分の業務を進めることには長けているが、普段は日常の業務に縛られている。研修というトレーニングの場で、そうした制約を取り除き、全社の視点、部門長の視点で考えてみることで、視野や視座を高めることができる。

 個人課題もグループ課題も問題解決を進めていくプロセスは同じだ。①現状レビュー(あるべき姿と現状とのギャップを把握する)、②現状を生み出した原因の提示(それを生み出していく原因を明確にすること)、③課題の構造(原因がどう組み合わさって、現状を生み出しているのかを明確にする)、④解決案の提示、⑤実行計画の五つについて、手順を踏んで考えてほしいという指導を行っている。

 事実に即した原因を究明しないまま、すぐに解決策に取り掛かってしまうというのが問題解決の典型的な失敗パターンだ。それでは本当の原因はつぶせない。原因は何となく認識されていても、はっきりとは認識されていないことが多い。特に、事実に即した原因の究明をきちんと行うことが重要だ。

 「コーディネーター面談」においては、①高い目線のテーマを選んでいるか、②「なぜその課題が重要なのか」という「課題のWHY」を認識しているか、③現状や原因に対して事実ベースで捉えているかの三つを軸に、自身でしっかりと考えることを促すよう意識している。

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