第5回:マーケティングの戦略策定から人材育成までを支援~アイランド食品~(2023年2月15日号)

「銘店伝説」シリーズがヒット

 生ラーメンの製造・販売を行う食品メーカーのアイランド食品(本社=香川県綾歌郡綾川町)は、有名ラーメン店の味を再現する「銘店伝説」シリーズを展開し、成長を続けている。

 1986年に設立され、1998年に生ラーメンの製造を開始した。2006年にはラーメン専用の新工場社屋を建設、本社も現在の場所に移転した。2012年には本社工場を増設、2016年にはスープの生産強化・拡充のために羽床工場を建設して、2017年には業務用・添付スープの製造および販売を開始した。

現在、同社では、土産物屋、サービスエリア、道の駅などで販売している土産用の銘店箱入りラーメンと、スーパー向けの銘店チルドラーメンを販売しているが、成長の転機となったのが「銘店伝説」だ。

 「銘店伝説」は、「行列ができる店、わざわざ足を運びたい店、名物店主がいる店。その味わいを再現し、銘店の一杯を気軽に味わっていただきたい」という想いで発売された。

  開発の期限を設けずに、店主が納得したものしか作らないというポリシーを貫いており、スーパーにおける高価格チルドラーメンの主力メーカーの一つになっている。

 札幌の「桑名」、横浜の「吉村家」、名古屋の「萬珍軒」、博多の「だるま」など、全国各地の有名ラーメン店112店の商品を販売(2022年12月現在)している(写真参照)。2020年には「銘店伝説オンラインショップ」も開設した。

 しかし、「銘店伝説」も、立ち上げ後の数年間は、売り上げが伸び悩み、販売エリアの縮小や営業の人員削減が行われた。

 その後、再度挑戦するタイミングで、日本生産性本部が2009年にコンサルティングを開始した。

「商品の作り込みはできていたが、それをしっかり流通に載せていなかった。チャネル戦略を見直し、中堅や地方の雄のスーパーに特化した。商談ストーリーやセールストークも見直した。定期商談の時期に間に合うよう、商品開発のスケジュールを管理した。品質専門コンサルタントを紹介し、品質の改善も図った」(太田昌宏・日本生産性本部主席経営コンサルタント)。

 2016年からは毎年、調査会社による消費者調査を実施している。様々な指標をモニタリングしながら、大手競合との差別化を図り、自社の強みを明確化している。調査結果は販売戦略の立案にも活用している。

 「今後は、営業強化のための中途採用を充実させていきたい。最近、仙台と福岡に営業の人間を在宅勤務で着任させた。コロナ下で在宅勤務の環境が整い、パソコンとプリンターさえあれば、営業所を持たずに、打ち合わせや会議ができるようになった。名古屋など、他の地域でもそうした拠点を増やしていきたい。商品には自信があるので、まだまだ成長できる」(久保田健夫・アイランド食品代表取締役社長)。


「小回り効く」が強味 久保田健夫・アイランド食品代表取締役社長の話

 「銘店伝説」の売り上げは2009年比で約10倍になった。会社全体の売り上げも1.6倍になった。

 有名ラーメン店の味を再現する「再現力」には自信がある。自社でラーメンのスープを作っているので小回りが効き、「香りが違うから〇〇の醤油を使ってくれ。醤油を少なくして塩味を増やしてくれ」といったラーメン店主の細かい要求にも対応できる。

 開発の期限は特に設けていない。コストも事実上、度外視している。営業の人間を挟まずに、開発の人間が直接、店主とやりとりして味を決めていく。「もうそろそろ味を決めてほしい」といった営業サイドからのプレッシャーはなく、「2年経ってもできない。何をやっているのか」という経営幹部からのプレッシャーもない。それがうちの基本的な文化だ。3年でできないと開発は仕切り直しという一応の期限はあるが、開発に2~3年かかる商品は結構ある。

 制約がなく、自由度があって、店主の言うことをしっかりと聞き、それをフィードバックして、再現していくというサイクルがうまく回っている。これまでの経験をベースに科学的な味づくりを行っても95%はできると思うが、あとの5%を達成するには2~3年という開発の年月がどうしてもかかる。じっくりと時間をかけて商品を作りあげていくという企業風土ができあがっているのかもしれない。

 太田コンサルには、主に営業指導、マーケティング戦略の策定、二世教育の三つをお願いしている。営業・マーケティング担当の久保田啓介専務をサポートし、月1回の営業会議に出席してもらうとともに、マンツーマンで経営者教育を行ってもらっている。わが社にはなくてはならない存在だ。

 当社のラーメンは地元香川での売り上げの割合は小さい。売り上げでみると東京が1位、大阪が2位で、浅く広く全国のスーパーなどに行き渡っている。人口の多い地域への販売を重視する「地の利を生かさない」商品企画、商売の方法を徹底してきた。それができたのも、小回りを効かせながら、自社でスープを開発しているという商品力があるからだと思っている。

当たり前のことをコツコツが重要~太田昌宏・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話

 2009年の秋からコンサルティングを行っている。当初は商品開発とブランド戦略を支援していたが、現在は、商品開発のシステム化、営業戦略支援、商談支援、市場調査、生産体制強化、広告・広報戦略、社員教育、二世教育など、マーケティング全般と人材育成を支援している。

 同社の事例は、中小企業が強みを生かして、大手企業に対抗している成功事例といえる。銘店系の商品は競合も出てきているが、これまでは独り勝ちだった。同業他社が銘店の味を再現する場合、スープを他社に頼むことが多いが、それでは味の「再現度」は劣る。20年以上のノウハウがあること、店主のOKが出るまで期限を設けずに商品開発を行っていること、麺とスープを自社で製造していることが大きな強みだ。

 コンサルティングでは、営業会議の場で成功事例の積極的な承認と振り返りを行っている。成功した場合でも「うまくいってよかった」で終わらせずに、「なぜよかったのか」を考えてもらうことが次の成功につながる。

商談相手となるスーパーは大手企業が多く、当初は営業はなかなか話もできなかった。そこで短い商談時間で言いたいことが伝わるプレゼン資料を作成した。実績が伴ってくると、商談時間も徐々に長くなり、プレゼン資料も充実してきた。今では多くの営業の人間がマーケティング戦略を理解できるようになり、データを用いた営業活動が定着している。

 会議では、しつこいコミュニケーションと自由闊達な場づくりを心掛けている。中小企業の会議では、幹部が好き勝手に話すだけで、会議の体を成していないことが多い。そうならないように、当初は、新入社員や若手・中堅社員の人材育成のお手伝いもしてきた。当時、研修を受けた社員が今では営業や生産部門の幹部になっている。

 一般に、中小企業のマーケティングでは、基本に忠実に、当たり前のことをコツコツとやり切ることが重要だ。基本とは、ターゲットを明確にしたうえで、そのターゲットに対して優位性のある商品を提案し、深掘りしていくということにつきる。ターゲットがあいまいだと、きちんとした対策が打てない。


 

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