変化する雇用・労働環境と新しい課題(ウェルビーイング経営②)

「ウェルビーイング(well-being)」とは、世界保健機関(WHO)」の憲章による”健康”の定義において、”病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること”(日本WHO協会訳)として使われたことによって広まった概念となります。心身が単に健康と言うだけでなく、”幸福”であるとか”いきいき”している状況をも含んでいると考えられます。
企業の現場では、主体的に働くことや創造性を発揮して働くことのベースとして、健康やそれを超えた「ウェルビーイング」を経営に取り込むことの重要性が注目されつつあります。
ここでは、「ウェルビーイング」を経営として取り組むことの重要性を指摘した報告書「これからの健康いきいき職場づくり~“Society 5.0時代・ポストコロナ時代の健康いきいき職場づくり”に向けて~」(”健康いきいき職場づくりフォーラム、2022年2月)より、コロナ禍も含む外的変化の影響について概説しながら、「ウェルビーイング経営」とはどのような課題に対応するものであるのかを見ていきます。

近年の内外の環境変化がもたらすインパクト

Society 5.0時代への対応


近年、働き方改革や地方創生、伸び悩む生産性の向上を目指した各種支援等新たな成society5.0.png長戦略が政府から提示されています 。その中でも、2017年の未来投資戦略では、IoT、ビッグデータ、人工知能等を産業や生活に取り入れ、さまざまな社会問題を解決するソサエティ(Society)5.0の社会(以下Society 5.0)の実現を目指すとされました 。

経済団体連合会(経団連)による「Society 5.0 -ともに創造する未来」(2018)では、Society 5.0は「創造社会」と位置付けられ、「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会 」とされ、それに向けての企業、人、行政・国土、データ・技術の変革が提案されました。

このような時代を迎えるにあたり、各企業は変化スピードを加速させでいます。その結果、職場で必要とされるスキルが変容し、働き方、雇用の流動化が進みつつあります。例えば、これまではメンバーシップ型雇用に基づく流動性の低い働き方であったのが、今後は自律的にキャリアをマネジメントする人材の活躍が期待され、ジョブ型雇用に代表されるこれまでとは異なる働き方につながることが考えられます。 Society 5.0時代は、働く従業員にとっては、成長し続けるための努力がこれまで以上に求められるようになるという意味で、不確実性が増大した時代と位置付けられます。その一方で、企業側は、従業員のパフォーマンスの発揮、また生産性向上に寄与する人材の確保のために、従業員の健康の保持・増進やモチベーション向上等の、より前向きな働き方の促進に関心を持つようになりました。

SDGs等社会の持続可能性への貢献という視点

SDGS0308.pngSociety 5.0時代においては、SDGs(持続可能な開発目標)など社会の持続可能性への貢献という視点が重視されています。SDGsは、2015年に国連総会において採択されていますが、「3.すべての人に健康と福祉を」「8.働きがいも経済成長も」といった目標は、健康や職場、働き方に大いに関連するものとして位置付けられます。

このような流れを後押しする動きであるESG投資では、企業経営やそれを支える各種資源の持続可能性を重視し、例えば健康経営優良法人の認定の有無をESGの評価基準に組み入れる動きも近年見られます。また、コーポレートガバナンス・コード改訂案においては、「従業員の健康・労働環境への配慮」に関する記載が追加されるなど、投資の上での「人」に関する関心が向上しており、企業側の対応も求められる状況となっております。

これらの変化に対応する形で、働く側にも価値観の多様化という変容が起こってきています。特に若い世代においては、企業側のマインドの変化の裏表として、健康面や成長機会等も含め、「働きやすさ」「働きがい」が担保された職場が提供されるかどうかが、企業を選び、働く上での重要な判断基準になってきています。こういった状況下で企業と従業員の関係性も変わっていき、企業側としては、従業員の成長支援や健康への配慮等を行うことで、優秀な従業員をつなぎとめることへの関心が高まることにつながってきています。


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コロナ禍がもたらしたもの

テレワークの功罪

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2020年初頭から始まったコロナ禍は、テレワーク等働き方の大きな変化をもたらし、ワーク・ライフ・バランス、ひいては生活への満足度等にも大きな影響を及ぼしました 。

その中で最も注目されるのは、オンラインを活用してのコミュニケーションの拡大により、職場でのコミュニケーションが対面前提ではなくなった点です。

テレワークでは、オンラインコミュニケーションを駆使することで、ワーク・ライフ・バランスの質と量の向上、煩雑なコミュニケーションからの解放によるストレスの軽減等のメリットを享受できます。一方で、コミュニケーションの質・量の不足、孤立感・孤独感、運動不足、の業務内容が見えないことによるストレス、切れ目がなくなることでの過重労働等のデメリットも発生しています。
(右図:テレワークの主なメリット・デメリット 出典・厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」 第1回資料より抜粋の上改変)

コロナ禍により、働く一人ひとりが分散した場所で、自立して、自律して働くことが要請されるようになったと言えます。このような変化は多くの企業で、コロナ禍終息後も不可逆的なものとして位置付けられます

「自律」「分散」「協働」の働き方へ

JBK.pngコロナ禍の状況も鑑みると、企業としては、Society 5.0時代を見据えつつ、分散して働く従業員をつなぎとめ、かつ心身の健康を増進させるとともに高いパフォーマンスを発揮してもらうことがより重要となります。

そのためにも、従業員の自立と自律を支援しつつ、他者との関係性への欲求に配慮することで孤立を防止し、職場として成果を上げるため適宜協働を促すことで、自律・分散して働いていてもなお職場に求心力が働くようにすることが、これまで以上に必要となってきます。

また、ミドル・マネージャーは、目の前にいないメンバーの孤立を防ぎ、その成長を支援し、仕事の上でも成果を上げるという、これまで経験したことのない課題に向き合うことが求められるようになったと捉えられます。



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従業員の健康と企業経営を巡る新たな課題

「健康管理」から「健康経営」「ウェルビーイング経営」へ


健康経営優良法人への申請数の急増等に表れているように、生産年齢人口の減少や、イノベーションを起こせる人材確保の必要性が高まったこと、近年の人的資本投資重視の流れ等があり、従業員の健康やそれに繋がる職場環境、マネジメント、働き方等に働きかけることで、会社と従業員双方の成長を見据える動きは、近年加速してきました。
さらには、コロナ禍による在宅勤務等の普及により、働き方や職場のあり方が大きく変化する中で、経営における健康への関心は高まりました。
しかし、既存の健康管理部門中心の「健康管理」と、健康づくりを経営へ統合し、企業のミッション及び従業員のウェルビーイング実現を図ることを重視する健康経営(ウェルビーイング経営)の相違が理解されていないきらいもあります 。
大企業では、健康管理部門の「健康経営」が、人事や経営企画部門と十分に連携をとれず、結果として経営活動にインパクトを持てないことも多く見受けられます。また、健康経営を進めても、その目的や達成度を示す経営視点での成果基準が明確でなく、メリットを示せないことも多々あるようです。
一方、中小企業では、人的リソースの限界もあり健康管理すら十分でないケースもあり、形式的な取り組みに留まることが依然あります。



サプライチェーンも含めた人権デューデリジェンスへの関心の高まり

jinkend.pngこのような動きは大企業中心であり中小企業まで浸透しているとはいえない状況にあります。しかし、近年欧州を中心に事業内容、財務、法務等に加え、人権尊重を求める「人権デューデリジェンス」の機運が高まり、今後企業は、サプライチェーンに関与する企業等にも、従業員の健康管理を含め人権への配慮を行っているか把握し、必要に応じこれを支援することも求められるようになる可能性があります 。

従業員の健康づくりを企業・組織の活性化につなげる活動(ウェルビーイング経営)の重要性はこれまで以上に増したと言えます。一方、それを経営活動と統合し、企業と従業員の持続的な成長にまでつなげる活動として浸透させ、さらに企業や地域の別なく導入してもらう道筋は決して容易なものではありません。



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