「ウェルビーイング経営」推進のための3つの視点(ウェルビーイング経営③)

ここまで見てきたように「Society 5.0時代・ポストコロナ時代」という、これまでとは異なり、より複雑さを増していった社会環境下において「企業・組織と従業員がともに健康で、いきいきと活動し、お互いに成長する」状態、すなわち『ウェルビーイング経営』を実現するには、何が求められるのでしょうか。“これから”の取り組みには、これまでの健康やいきいきに対する取り組みのあり方を基盤にしつつ、質的にはさらに高次のものを目指すことが要請されます。具体的には、以下の3点の「取り組みの視点の拡大」がポイントになると考えます。

①ウェルビーイングの実現を目標とした、個人・職場・企業・社会それぞれのレベルでの働きかけ(取り組みの「アウトカム」の拡大)
②企業・組織を超えた活動(取り組みの「場」の拡大)
③関係者全てが主体的に参画できる活動(取り組みの「主体」の拡大)

ここでは、それぞれの項目に関して概観し、最後にこれを実現するために各企業内のアクターがどのように活動することが必要となるのかにも触れていきます。

ウェルビーイングの実現を目標とした、個人・職場・企業・社会それぞれのレベルでの働きかけ(取り組みの「アウトカム」の拡大)

経営課題としての”ウェルビーイング”への注目

従業員の成長や自己実現等、健康づくりにおけるアウトカムの拡大について考えるキーワードになるのが、“ウェルビーイング”です。

“ウェルビーイング”は、近年産業保健はもとより幅広い分野で注目を集めています。その背景は、社会的には、SDGsの浸透による健康や働くことに関する持続可能性への意識の向上 、企業側から見れば、少子高齢化ならびに激しい環境変化の中で、イノベーションを達成するためにエンゲージメントの高い従業員を確保する必要性や、投資視点での人的資本への注目が高まったことが挙げられます。

従業員側においても、「働きやすさ」「働きがい」等の健康いきいき職場づくりに連なる経済利得以外の価値が、特に近年高まってきたことが挙げられます。

そして、ウェルビーイングを経営の基軸に置く「ウェルビーイング経営」 という概念も提起され、実際にそれを経営計画に盛り込む企業も出始めています。

”ウェルビーイング経営”の各レベルでの取組

WB2.png企業でのウェルビーイングの実現に向けて、まず個人レベルでは、心身の健康確保を前提として、個々人の自己選択を重視することが大切となります。主体的な姿勢が喚起され、ワーク・エンゲイジメントの向上や自身の成長・能力開花等にもつながると考えられます。また個人のウェルビーイング実現には、職場や企業レベルでの支援も不可欠です。

職場レベルでの取り組みとしては、多様性を尊重しつつ、従業員個々人の自己選択と組織目標をすり合わせるマネジメントを機能させることが重要となります。このことを通し、職場の一体感や、帰属意識が高まり、個々人が知恵を持ち寄ることによる創発・イノベーションが生まれ、生産性向上につながることも期待されます。

企業レベルの取り組みでは、個々人の健康増進や自己選択を支援し、上述したような職場マネジメントを後押しすることを通じて従業員のウェルビーイングが実現することとなります。これらを通し、エンゲイジメント向上、アブセンティーズム、プレゼンティーズムの減少、離職率低下、さらには業績、生産性向上等が見込まれます。 また、多様な労働者・価値観を包摂するように努めることが新たな気づきをもたらし、職場や企業そのものの成長に寄与する側面もあると考えられます。

最後に、社会レベルでは、社会的な要素を勘案した製品・サービスが企業から提供されることにより、社会にプラスの効果が生まれることが挙げられます。企業活動により社会貢献を目指す企業の方向性は、「パーパス経営」と呼ばれこれに共感する株主、投資家、取引先、地域、エンドユーザー等の社外のステークホルダーに支持されています。


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企業・組織を超えた活動(取り組みの「場」の拡大)

サプライチェーンや地域を巻き込んだ展開


WB_scope.pngウェルビーイングの実現は特定の企業・組織内で完結する話ではありません。特に、ビジネスにおいて接点を持つステークホルダーをも視野に入れた形でスコープを拡大した活動が展開されることが、社会全体でのウェルビーイング実現の上でも有益です。例えば、サプライチェーンの上流・下流工程や、地域企業との関係性を人権デューデリジェンス重視の視点で見直して一ことなどが挙げられます。
「健康経営」においても、優良法人認定のための健康経営度調査において、パートナーシップ構築宣言等を通じたサプライチェーンの健康経営の取り組み支援の有無や、自社製品・サービスを通じた社会全体の健康増進を問う設問が設定されるに至っています

同様に、地域の活性化や、近隣地域に所在する中小企業の取り組み支援への企業としての貢献も進んでいます。「健康経営」では、「健康経営優良法人の中でも優れた企業」かつ「地域において健康経営の発信を行っている企業」を「ブライト500」として認定するようになりました。

ウェルビーイング経営の浸透と今後への期待

ただし、これらの動きはまだ端緒についたばかりです。
従って、今後リソースがない中で取り組みを浸透させることや、限りあるリソースを有効活用すること、ウェルビーイングの実現のように、より広範囲の健康定義の下で経営活動に組み込まれた形で取り組みが展開されること、とかく後回しにされがちな障碍者やマイノリティ等にも配慮された形で取り組みが展開されること等によって、取り組みの質と量が担保されることが期待されます。

そしてその先には、これらの取り組みが、国内にとどまらず国際的な発信がなされ、取り組み企業のブランディングに寄与することで海外からの投資につながることや、概念やノウハウの輸出等といったことも視野に入ることが期待されます 。



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関係者全てが主体的に参画できる活動を(取り組みの「主体」の拡大)

当事者意識が成果に結びつく


最後に、取り組みの「主体」の拡大についてです。ウェルビーイング実現を目標とした個人、職場、企業、社会といった各レベルでの働きかけは、企業・組織内において、従業員を含めた関係者全員が当事者として関与し、それぞれのレベルでウェルビーイングの実現に向けて活動することが求められます。

関係者全員が当事者感を持って参加することで、やらされ感の軽減や、取り組みを通じた職場の求心力の回復等の効果が期待されます。 多様化、複雑化が進行する中で、従業員の置かれた環境を考慮しつつ主体性を喚起し、個人の志向を組織単位に束ね、イノベーションに昇華させるためには、組織開発的なアプローチでの職場対話が重要となります。

”心理的に柔軟な個人”の集合としての”心理的に安全な職場”の実現

psw.pngまた、主体的な自己選択をいかに企業として後押ししていくのかも求められます。
人間はどうしても失敗への恐れや、周囲の目への意識等があるため、職場で自分の考えや気持ちを気兼ねなく発言でき、受容される、心理的安全性 の担保が重要となります。

心理的安全性の高い職場環境を構築する上でのキーパーソンは現場のミドル・マネージャーです。従来型のヒエラルキーに基づくマネージャー像では、メンバーの心理的安全性や主体性は高まりません。
そのため、メンバーに安心感とチャレンジ意欲をもたらすセキュアベース・リーダーシップ や、メンバーに仕事の意義を伝えつつ、自律性を重視するエンパワリング・リーダーシップ 等の新たなマネジメントスタイルが重要となります。
またそれぞれが、自分のこだわりや固定観念に向き合いつつ、変化に柔軟に対応し、行動するための心理的柔軟性を高めることが要請されます。

さらには、現場に近い立ち位置で、個人の成長や自己実現を支援しつつ、強い組織を作るための対話を行う労働組合の活動は、心理的安全性を高める上で非常に重要と言えます。労使がし、協働して従業員のウェルビーイングを高める活動に取り組むことが望まれます。



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