2023年 年頭会長所感

『改革実践の一年に~日本社会と民主主義の持続可能性に向けて』

新型コロナウイルスが世界を席巻して3年、ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経とうとしている。 疫病と戦争という二つの大きな危機により、戦後の経済成長を支えてきたグローバル化、そして「法の支配」の下での国際秩序が揺らいでいる。 世界では、極端で扇情的な主張や迎合的な意見が世論を煽る風潮が散見され、欧米諸国で民主主義の危機が叫ばれている。日本も課題解決の先送りが続けば決して例外ではない。


我が国は急激な人口減少・少子高齢化や巨額な財政赤字などの諸課題を抱え、国民の将来不安を解消できないまま、経済の長期停滞から脱却できずにいる。 また、原材料価格の上昇や急激な円安を背景に物価高が進行し、経済活動や国民生活に深刻な影響を与えている。

ウクライナ危機などを契機に、日本の安全保障のあり方も根本から問われている。 食料・資源エネルギー供給体制の脆弱さも改めて顕在化した。南海トラフ地震や首都直下地震等の発生確率も高まっている。 食料・資源エネルギーの安定確保や大規模自然災害への備えは、国の安全保障に直結する喫緊の課題である。

岸田政権には、転換期にある我が国の国家ビジョンを明らかにし、説明責任を果たしつつ、先送りされてきた諸課題の解決に向けて腰を据えて取り組む一年とすることを望む。 また、5月には、日本が議長国を務めるG7 広島サミットが予定されている。 岸田首相には、自由、民主主義、人権など普遍的価値と国際ルールに基づく新たな時代の秩序づくりに向けて力強いリーダーシップを発揮することを期待する。

われわれ日本生産性本部も、先送りされてきた積年の改革課題に取り組むため、昨年6月に令和国民会議(通称:令和臨調)を発足させた。 「統治構造」「財政・社会保障」「国土構想」等を軸に、立場や党派を超えて取り組まねば解決困難な課題に取り組む。本格的に世論喚起や合意形成に踏み出す一年とする。

昨年末、日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較」によると、2021年のわが国の時間当たり労働生産性の順位は27位(OECD加盟38カ国中)と後退を続けており、 もはやわが国の水準は先進国とは言えない。生産性改革は、まさに官民を挙げて取り組むべき最重要課題である。 今こそ、「成長と分配の好循環」を実現するために、労使が協力して生産性向上に取り組むべきである。

ことに、経済成長の主役である企業は、イノベーション(革新)とディファレンシエーション(差異化)によって新たな需要を創造し、付加価値の増大に取り組むことが肝要である。 経営者はリスクを恐れず、将来の成長を見据え新規事業の開発や新たな市場の開拓をはじめ、デジタル化、研究開発、人材育成等へ積極的に投資すべきである。

また、商品やサービスの価値に見合う価格を形成することにより、企業は収益を高め、従業員や株主をはじめとするステークホルダーに分配することで新たな成長に繋げなくてはならない。

一方、個々の企業による努力は当然であるが、経済の新陳代謝を促し、生産性の高い企業へ資本や労働力を移動させることにより、経済全体の活力を生み出していかなければならない。 その際には、労働市場の整備など、セーフティネットを強化することが不可欠である。


2023年度は、第二次中期運動目標「日本の改革と生産性運動の新展開~基盤整備の3年から改革実践の3年へ」の最終年度となる。 生産性運動三原則を基軸として、①生産性のハブ・プラットフォームとしての発信と実践展開、②社会経済システム改革にむけた合意形成活動の推進、 ③日本の人材戦略の再構築と中核人材の育成、④付加価値増大を軸とした生産性改革と「成長と分配の好循環」の創出、⑤国際連携活動の強化、の5本柱を中心に、ポストコロナ時代を見据え、 持続可能な経済社会の構築に向けた活動を一段と加速させる「改革実践の一年」とする。

2023年1月6日
公益財団法人日本生産性本部
会長 茂木 友三郎