イベント

2025年度第2回生産性シンポジウムを開催しました

2025年10月17日

経営者が率先して変革を

日本生産性本部は2025年10月17日、第2回生産性シンポジウムをオンラインで開催しました。このシンポジウムは、同本部の「経営アカデミー」が創設60周年を迎えることを記念して開催したもので、元INCJ(産業革新機構)会長の志賀俊之氏が「これからの日本の企業経営と経営者のあり方」をテーマに基調講演しました。志賀氏は、日本の国際競争力が低迷した要因を指摘したうえで、大変革期における日本企業の変化について見解を述べました。

競争力低下の要因

冒頭、志賀氏は日本の競争力低下の実態について指摘しました。日本は、1991年には世界競争力ランキング1位でしたが、現在は38位にまで後退しています。また、液晶パネルや半導体など日本がかつて強みを持った産業でも、世界シェアが大きく低下しています。その背景について志賀氏は、バブル崩壊以降の「3つの過剰」(生産能力、債務、人員)への対応として、企業が設備・開発・人的投資を強く抑制し続けたと指摘。コスト削減を優先し、リスクを避ける安全志向が長く組織文化として刷り込まれた結果、「企業がリスクを取らない」「新しい事業が育たない」構造が固定化したと述べました。
さらに、経営者の多くが社内昇格で選ばれ、平均就任年齢も60歳超と高い点を挙げ「変革型リーダーが生まれにくい」と説明。多様な人材が意思決定に入りづらい組織は、新しい挑戦を阻む温床になっていると語りました。

日本企業の強みと課題

また、志賀氏は日本企業が本来持つ強みとして、「モノづくり」「ヒトづくり」「おもてなし」の3点を挙げ、これらが70~80年代に日本の競争力の源泉だったと指摘をしました。しかし、不確実性が増す大変革の時代にはこれだけでは国際競争に勝てず、既存の強みに「多様性」「オープンイノベーション」「アントレプレナーシップ」を掛け合わせる必要があると強調しました。


日本企業の強みと弱み

無形資産で企業も人生も豊かに…

日本企業の前向きな変化

講演する志賀俊之氏

一方で、志賀氏は、現在の日本企業には変化の兆しが現れていると語りました。バブル崩壊後に若手時代を過ごした経営層がトップに就き始め、従来型のコスト志向とは異なる発想を示していると述べました。
「開発投資や人的投資を増やさないと未来はない」「M&Aや事業ポートフォリオ改革が必要だ」と考える経営者が増えており、「これは明るい兆しだ」と評価しました。 また、スタートアップ支援の広がりや、優秀な若手が自ら起業に挑戦する動きも活発化していると紹介しました。志賀氏はINCJでの経験から、大企業とスタートアップの協業が進まない構造的課題も語りましたが、「挑戦者を応援する機運は確実に高まっている」としました。
大変革の時代に必要な経営として、志賀氏は「現場改善の積み上げと、トップダウンの変革力の融合」について指摘しました。これまでのような大量生産・大量消費の時代は終わり、未来を読み、新しい価値を創り出す力が問われると強調しました。

多様性が組織を活性化

講演する学習院大学名誉教授内野崇氏

講演後には、参加者からの質疑応答が行われました。ファシリテーターは学習院大学名誉教授の内野崇氏が務めました。
参加者から、イノベーションが生まれている具体的な成功例について問われた志賀氏は、日産自動車での経験を挙げました。1999年にカルロス・ゴーン氏が就任したことで会議の空気が一変。役員が全員日本人男性だった組織に、外国人幹部が一人入っただけで「それまでの日産の常識が通じなくなり、会議がまったく別物になった」と述懐しました。
志賀氏は「面倒だと感じる場面も多かったが、異質な視点が加わることで思考が揺さぶられ、結果として組織のイノベーションが促された」と振り返り、多様性が成果につながる原体験になったと語りました。
また、人材投資の重要性についても参加者から質問が寄せられました。志賀氏は、従来の日本企業には「言われたことだけをこなす『静かな退職』が増えている現状があり、多様な価値観をもつ人材のモチベーションを十分に引き出せていない」と課題を述べました。そのうえで、「旧来型のエリート偏重では組織が活性化しない。企業は多様なキャリアやスキルを持つ人に成長機会を提供し、挑戦を歓迎する文化をつくるべきだ」と強調しました。国の制度が企業を守りすぎている側面もあると指摘し、「経営者こそ自ら学び、率先して改革に向き合わなければならない」と述べました。


登壇者

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元INCJ(旧産業革新機構)会長 志賀 俊之 氏

和歌山市生まれ、大阪府立大学卒業後、1976年日産自動車に入社。主にアジア営業を担当し、1991年から約6年インドネシアに駐在。1999年ルノーとのアライアンス締結に関わり、企画室長及びアライアンス推進室長を兼務。現場とのパイプ役として、日産リバイバルプランの立案・実行に参画し、200046歳で常務執行役員に抜擢された。
新興市場、特に中国進出で成果を上げ、20054月から201311月代表取締役副会長に就任するまで、最高執行責任者(COO)を務めた。
20156月官民ファンド株式会社産業革新機構(現INCJ)代表取締役会長に就任し、20256月、INCJの業務がほぼ完了したことに伴い退任した。INCJでは、産業再編や海外投資に積極的に取り組む一方、新しい技術やビジネスモデルを提案するスタートアップ企業を幅広く支援し、オープンイノベーションを通じて、新しい産業の創出・育成を目指した。
退任後は、主にINCJ出身者が起業したスタートアップ数社の社外取締役やアドバイザーを務め、若い経営者の育成・支援に励んでいる。

内野先生trim231×277.jpg

学習院大学 名誉教授 内野 崇 氏

1982年 3月 東京大学 大学院経済学研究科 前・後期博士課程単位取得
1982年 4月 学習院大学 経済学部 専任講師
1984年 4月 学習院大学 経済学部 助教授
1989年 4月 学習院大学 経済学部 教授
2019年 4月 退官後、学習院大学名誉教授(現任)
 
2013年10月より 一般社団法人 経営研究所 代表理事(現任)
2013年7月より 株式会社関電工 取締役(2023年6月まで)
2023年7月より 三井住友建設株式会社 取締役(2025年6月まで) 

<研究分野>

現代の企業経営、企業組織および人事管理に関する研究
<主要著書等>
『新版 変革のマネジメント-組織と人をめぐる理論・政策・実践』生産性出版2015年
「組織風土」 『経営組織』(基本経営学全集)八千代出版 1985年
「企業文化・業績と強い関係」(共同論文) 『日本経済新聞』1988年9月2日
「組織の経時的分析」 『経済論集』 Vol.25, No.3,1989年
「戦略論と組織論の融合をめざして」経済研究 2009年3月
  その他論文等多数