コロナ危機に克つ:日本テレワーク協会・富樫 美加 主席研究員に聞く
少子高齢化による労働人口の減少に対応し、政府は働き方改革の一環としてテレワークを推奨した。「ステイホーム」を柱にした感染症対策で導入に踏み切った企業は、効果を高めるために模索を続ける。日本テレワーク協会の富樫美加主席研究員に成功の秘訣を聞いた。
ICTツールの積極活用を
――テレワーク導入の課題は
「テレワークの課題は、導入に際しての課題と、導入後に成果を上げるための課題の二つに分けられる。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、この二つの課題に同時に対処しなければならない事態が起きている」
――同時に対処することはかなりハードルが高いのか
「平常時であれば、テレワークの導入は、少人数でのトライアル、課題解決、利用拡大について、ステップを踏んで進めていくが、今回はそうはいかない。しかし、新型コロナの感染拡大を防ぐためにも、不可能だとあきらめるわけにはいかない。専門家の意見を取り入れて、課題の解決に積極的に取り組んでいくべきだ」
――テレワークの導入に関する対処法は
「テレワークを導入する際は、情報セキュリティ、ICTシステム、労務管理制度の3点についての対処が重要になる。特に、テレワークの増加に伴い、情報セキュリティに対する脅威にどう対処していくのかという課題は極めて重要になってくるだろう」
――どうすればいいのか
「テレワーク環境でも、オフィスでのセキュリティポリシーを守ることが基本だ。総務省のテレワークセキュリティガイドラインを参照してほしい。テレワーク中は、従業員に対し、行うべきこと、行ってはいけないことなどのルールを徹底しなければならない」
――ICTシステムの導入は
「これもITコーディネーターなどの専門家のアドバイスが効果的。総務省のテレワークマネージャーも利用できる。労務管理については、厚生労働省のテレワーク相談センター、東京都東京テレワーク推進センターなどの支援の活用が効果的だ。社会保険労務士も相談に応じられる。資料の電子化については、複合機メーカーなどがノウハウを持っている」
――テレワークを導入した後に成果を上げるためには
「テレワーク時の仕事の進め方に関しては、日本テレワーク協会や総務省、厚生労働省のテレワーク表彰を受けた働き方先進企業の実例が参考になる。東京都、総務省、厚生労働省などが制作したテレワーク事例集も参考になるはずだ」
――テレワークを経験した働く人たちからは、コミュニケーションが難しいという感想が多い
「コミュニケーションを円滑にするためには、オンライン会議システムやビジネスチャットのようなICTツール(サービス)を使うと効果的だ」
――企業として、どのようなルールづくりが必要か
「始業・終業連絡などのルールを決めたり、オンラインの雑談や飲み会のような、業務ではないコミュニケーションの時間を作ることも一つの方法だ。わが社のルール、わが部の独自のコミュニケーションの取り方を作り上げることができれば、仕事の効率も高まってくるはずだ」
――従業員の管理については
「テレワーク用のICTツールで、パソコンの画面や使っているアプリケーションなどを管理したり、使っている人物の顔認証などのツールで監視を強めることもできる。特定の人に見張りをつけるような運用は現実的ではないが、間接業務の不正管理や単純作業の進捗状況のチェックには有効だ」
――テレワークの導入に対し、上層部が賛成しない場合は
「中間管理職の抵抗や経営者の無理解に関しては、他社の成功例を示したり、テレワークを導入しない場合に会社が被る負の影響を示すと意識改革を促すことができるかもしれない」
――テレワークでの従業員の評価はどうすればいい
「人事評価については、成果を時間当たりの成果で比較することが適切だ。プロセスを評価するならば、自分の業務以外への貢献度を図る指標を持つことなども有効だ」
――今後、日本でテレワークの導入は進むのか
「日本は2015年、安倍政権が1億総活躍社会の実現を目指し、テレワークを一つの手段として普及に力を入れ始めた。今回の新型コロナ対策でテレワークの活用が広がり、成果を上げる企業が増えれば、働き方改革をけん引するレガシー(遺産)になるだろう」
*2020年5月1日取材。所属・役職は取材当時。