コロナ危機に克つ:増田 寛也 日本生産性本部副会長インタビュー

東京大学大学院客員教授で日本生産性本部副会長の増田寛也氏(日本郵政代表執行役社長)は、生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う働き方の変化が、大都市と地方の不動産開発に大きな影響を与える可能性に言及した。東京一極集中の是正の動きが生まれるため、地方都市は、魅力的な「稼ぐ」場所の開発によって労働人口の受け皿をつくれるかが課題となる。

地方都市、「稼ぐ」受け皿強化 東京は過度な集中是正の動き

増田 寛也 日本生産性本部副会長/東京大学大学院客員教授・日本郵政代表執行役社長

増田氏は「コロナ禍によって人々の行動変容が進む中で、リアルの世界とオンラインの世界をどう組み立てていくのかが魅力ある都市づくりの鍵になる」と述べ、想像力を働かせ、ポストコロナの新しい世界を先取りすることが重要になるとの考えを示した。

その上で、ポストコロナへ向けて新しい都市に変化させていく原動力となるのは、「仕事や雇用などの『稼ぐ部分』である」とし、企業や従業員、労働組合などが魅力的な働き方を提供できるのかが重要になるとの考えを示した。

ビジネスの中心地である首都、東京の都市政策に関しては「過剰な集中に対する反省が相当出てくるのではないか」と述べ、コロナ禍によって、千代田区、中央区、港区、渋谷区などの中心街から、東京の周辺地域、さらに地方都市などへ労働人口が流出する可能性を示唆した。

コロナ禍に伴う働き方の変化は不動産市場にも影響を与える。「都心のビジネス街では、これまでの人と人との交わりを演出するフリーアドレス型のオフィスが、非対面・非接触を意識したものに変わっていく可能性は高い」という。

オフィススペースに人が密集するようなスタイルよりも、小さなサテライトオフィスやコワーキングスペース、あるいは自宅等でリモート作業する働き方が好まれるトレンドが当面続くとみられるからだ。

首都への過剰な集中の是正に合わせて、企業が現在借りているオフィススペースを圧縮する動きが加速すれば、都心のオフィス需要が緩むのは避けられない。

一等地の賃料引き下げ要求や開発のスピードダウンが起こった後、「『稼ぐ部分』で重要な役割を演じるビジネス強者が、東京の風景を変える鍵になる」との見通しを示した。

一方で、東京から労働人口が流出すれば、政令市や県庁所在地には活性化のチャンスとなる。増田氏は「鉄道の駅とのアクセスやICT環境の整った魅力的なオフィス機能の開発を通じ、街の中心部をレベルアップし、働き手の期待に応えなければならない」と受け皿づくりに期待感を示した。

郵便局の活用は、地方の都市機能強化の鍵を握る

日本郵政としての地方都市の受け皿づくりとして、傘下の日本郵便が持っている不動産を活用する構想があるという。増田氏は「郵便局は地方都市の駅前の一等地に不動産物件を持っているが、その容積率を十分に生かし切れていない。空きスペースに新しい働き方に応えられるオフィス機能の整備を検討したい」と述べた。

また、地方の観光関連産業はコロナ禍で厳しい経営を強いられている。増田氏は「今は時間勝負なので、持続支援のための潤沢な資金供給が必要だが、数カ月後には、ポストコロナの経営戦略をしっかりと描き、生産性の向上を実現できる企業を選んで支援することが重要になる」との考えを示した。

資金の出し手としては、政府系金融機関が中心となっているが、日本郵政グループとしても、ゆうちょ銀行を通して、企業に対する資金支援に乗り出すことを検討する。お金を出すだけでなく、投資先企業に人材を派遣するなど経営に参画する「ハンズオン支援」によって、ポストコロナでも成長力のある企業を育てていく方針だ。


(以下インタビュー詳細)

働き方、個人が主役に 行動様式、デジタル化必至

生活に欠かせない仕事

新型コロナウイルスの感染拡大は、働く現場を中心に人々の行動様式を大きく変えようとしている。

パンデミックが起こる以前から、経済のデジタル化が進み、社会全体もその方向に動いている。今後、感染拡大を防ぐために、非対面・非接触の行動を心掛けなければならない中で、デジタル化を加速させていくことは大前提だ。

その一方で、新型コロナウイルスの感染を防ぐため、世界ではロックダウンや外出禁止の措置がとられ、日本でも外出や営業の自粛が要請される中で、人々の生活維持に欠かせないリアルの現場で働くエッセンシャルワーカーの重要性が浮き彫りになった。

日本郵政グループでいうと、郵便配達などテレワークできないリアルの現場で仕事をしている人が圧倒的に多い。保健所の職員のように、合理化の名のもとに削減されてきた人材や仕事の価値も再確認された。

こうしたエッセンシャルワーカーをしっかり維持することが大事で、そのためには新しいテクノロジーを取り入れ、エッセンシャルワークのレベルアップを図り、生産性を向上していく必要がある。

東京に関しては、これまで、首都直下型地震がリアリティのあるリスクだと思っていた。しかし、実際は、首都を拠点にしたビジネスや生活を揺さぶったのは、新型コロナウイルスのパンデミックだった。

今後、東京の都市政策に関しては、過剰な集中に対する反省が相当出てくるのではないか。具体的に都市の機能を変えていくのは、仕事や雇用、つまり「稼ぐ部分」であることは間違いない。企業や従業員、労働組合などは、ポストコロナの魅力的な働き方を提供できるのか、こうした期待感に応えられる選択肢を用意できるのかが問われている。

働き方に関して言えば、個人をベースにしたものに変わっていく。そして、個人の仕事ぶりをどう評価するかも大きく変化していくだろう。

決められた時間にオフィスに出勤し、夕方まで仕事をして、家に帰るという従来の働き方では、チームを同じ方向に向けていくときに統率力を発揮したり、その人がいるだけで場が和むといったムードメーカー的な要素が、スキルや成果以外の評価の軸にあった。

しかし、コロナ禍でワークスタイルは変化を余儀なくされ、これからは、自宅からテレワークしたり、コワーキングスペースで仕事をする人が増える。個人単位で閉じられた空間で働くことになり、職場の雰囲気を盛り上げる能力はあまり必要ではなくなっていくだろう。

オンラインでの仕事は「熱量が伝わらない」というデメリットを指摘する声もある。しかし、オフィスで働く場合と比べ、隣の人の目を気にせずに済み、上司の顔色をうかがう必要もない。会議でも、ミッションの実現のために必要な意見を述べればいい。上下関係や場の空気を読むといった日本的な無言のビジネス慣習に左右されることなく、本来やるべき仕事に集中できるようになる。

このように、仕事の「不要不急」な部分を削いでいき、大事なところにフォーカスすると、労働時間は短縮され、移動時間や仕事の場所の柔軟性も高まり、副業や兼業のチャンスが増えることになる。

雇用保険の手続きなどもあり、何かを本業と位置付ける必要はあるが、作業場所を問わず、移動の時間も減るとなれば、普段は地方に本拠を置き、本業である都心の仕事を地方に居ながらできるような働き方も出てくる。本業と副業のウエートが変わるかもしれない。

コロナ禍をきっかけに働き方や雇用のあり方が変わっていく中で、一人一人の生活を守る上でどのような労使関係を再構築すべきか、うまく調整していくことが課題になる。

インバウンド戦略修正必要

地方都市にとっては、工夫次第で、東京との格差を埋められるチャンスとなる。

東京に働く場所を求めて、地元を離れていった人たちが、ポストコロナの働き方を見据え、戻ってきたくなるような魅力を提供できるかが問われる。

デジタル世代は、居酒屋で飲み会ができなくても、オンライン飲み会でも十分に満足できる。ただ、人と会いたい、交流したいという欲求はなくならないし、文化・エンターテインメントも必要だ。「非対面・非接触」のコミュニティをどう実現するのか。仕事以外の充実感の提供も重要な課題だ。

一方で、新型コロナウイルスのパンデミックで世界中の旅行需要が消失したことは、地方都市にとっては痛手となる。日本国内の観光産業にぶら下がっている宿泊や飲食、土産物販売などのビジネスは、インバウンド頼みの戦略の修正を迫られる。

最も影響を受けるのは、今まで日本の国内需要を取り込めていなかった事業者だ。観光資源のマーケティングに苦戦し、増大していたインバウンド需要に安易に飛びついたビジネスは軒並み苦境に陥っている。

欧米、東南アジア、中国などエリア別に事情が違い、観光の受け入れを再開しやすいところと、期待薄のところに分かれる。早期の回復は難しく、影響は数年続くだろう。

観光関連産業は事業存続をかけた時間勝負になる。地方の資金需要は蒸発しており、政府・日銀などによる潤沢な資金供給が当面は必要になる。

マイナンバー活用に答えを

パンデミックによる危機対策は、日本は100年ぶりで、当時、危機対策を担当した経験世代はもういない。誰がリーダーであっても、同じようなやり方を取らざるを得なかっただろう。

政府の対策に対する批判は当然あってもいい。確かに「アクションが遅い」という感想を持つが、日本の政治風土からいうと、今の制度下で強硬な措置をとることは事実上できない。

海外が実施したロックダウンのような強力な措置は、日本国民のマインドに適するのかどうかも疑問だ。「自粛」に従う国民性や、政府なのか自治体なのか誰が責任を負うのか曖昧模糊とした政治土壌は、日本国民がこれまでの投票行動によって築き上げてきたものである。

危機に直面し、政府が急に目覚ましいリーダーシップを奮うことを期待してはいけない。政府批判は必ず自分に返ってくるということを自覚しておく必要がある。

国民への特別定額給付金の交付は、マイナンバー制度が金融機関の口座に紐づいていれば、シンプルな仕組みで、様々な選択肢を持って、早く届けることができたはずだ。

しかし、マイナンバー導入までの議論で、「社会保障の給付には使えない」「個人情報を守りたいから口座への紐づけは避けたい」などの反対の声が強く、マイナンバーカードの普及も進んでいない。今からでも、マイナンバーの活用法をめぐる議論に答えを出すことが大事だ。

また、社会保障制度のひずみも浮き彫りになり、閉鎖に追い込まれた介護事業所もあるなど、弱者へのしわ寄せが生じている。誰かが手を差し伸べ、体を動かしてサービスを提供しなければならない支援もあり、金銭だけでは解決が難しいものも少なくない。

他の先進国に比べ、医療体制が不十分であったことも気になった。リアルの世界を感染症の時にも対応できる体制に整備する必要がある。平常時の議論や投票行動の積み重ねが、危機時の対策にも反映される。

今回の緊急事態宣言をめぐり、大阪府知事ら地方自治体の首長のリーダーシップが評価された。危機管理の時は、強引なくらいのトップダウン型のガバナンスが役立つが、政策や判断の中身に関する評価は、もう少し時間を置いた方がいいだろう。

緊急事態宣言が解除されても、どれだけ「自粛」的な行動を持続させることができるかは、個人の判断に委ねられる。政府から言われたからやるという受け身的な姿勢ではなく、やるかやらないかを自分で主体的に判断するしかない。一人一人があるべき「行動変容」を常日頃から心掛けることが肝要だ。


*2020年5月21日取材。所属・役職は取材当時。

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