コロナ危機に克つ:村上 輝康 サービス産業生産性協議会(SPRING)幹事インタビュー

サービス産業生産性協議会(SPRING)幹事で産業戦略研究所代表の村上輝康氏は生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済危機を契機に日本の産業構造を3密回避型に変革し、難局を突破すべきとの考えを示した。第一次オイルショックが引き起こした経済危機をバネに省エネルギー型産業構造への変革を実現し、1980年代以降の日本経済の黄金時代を築いた歴史から学ぶべきだと提言する。

「3密回避型産業構造」確立を 「非接触」「遠隔」「超臨場」を提案

村上 輝康
サービス産業生産性協議会(SPRING)幹事/産業戦略研究所代表

村上氏の提案は、ポストコロナの社会経済の目標像として、3密回避型産業構造の実現を目指す。「密接」「密集」「密閉」の3密を回避することを社会経済変革の目標に据え、 ICT(情報通信技術)を活用し、「非接触」「遠隔」「超臨場」の技術革新とサービスイノベーションを実現すべきだとする。

コロナ禍では、顧客接点、企業活動一般、社会経済システムの三つのチャネルで経済的なインパクトが波及しているという。村上氏は「企業にとって、自助努力で対応できる顧客接点の場面で、3密回避実現のイノベーションを目指すことが最大のミッションとなる」と話す。

具体的には、「非接触(コンタクトレス)」の技術・サービス提供により、「密接」の回避を目指す。この分野ではキャッシュレス決済が進展しているが、さらに、飲食サービスでの注文やエンターテインメント施設や宿泊施設などでのチケット発券、サービスロボットによる配膳といったサービスのデジタル化に取り組み、経済効果の有効性が保たれる範囲内ぎりぎりまで「非接触」技術を実現する。

「密集」回避を実現する「遠隔(リモート)」の技術・サービスは、Eコマースが代表的。すでに「無人店舗」も国内には出現しており、社会実験から社会実装へとステップを進め、流通から飲食、宿泊、金融などへと適用業種の幅を広げる。また、「遠隔医療」や「遠隔製造」「ドローン利用の遠隔工事」なども、緊急時だけでなく、平時の対応を進める。

「密閉」回避を実現する「超臨場(メタ・リアリティ)」の技術・サービスは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)などの最新テクノロジーを認知科学で進化させる。音楽やスポーツなどの超臨場ライブは、現場の模様を一方的に中継するだけでなく、応援や観客席側の臨場感も加え、リアリティを超えるリアリティを目指す。

超臨場感会議は、コロナ禍で、Zoomなどクラウドコンピューティングを使ったウェブ会議サービスなどで実用化が進んでいる。村上氏は「現在のウェブ会議は一つのディスプレイを出席者全員が直視し、それぞれを常時観察し合う不自然なもので、まだまだ臨場感が足りない」と話す。

今後は「営業の会議であれば、部長が先頭に立って全員に気合を入れるときや、人事評価の2人だけの話し合いなどの、臨場感が伝わるような技術を開発する」など、日本的な会議や新しい価値を生み出す創造的なブレーンストーミングを可能にする超臨場の技術が求められるという。

日本経済は第一次オイルショックの影響で戦後初のマイナス成長に落ち込んだ。しかし、オイルショックに強い経済体質を作るために取り組んだ省エネルギー型産業は、マイクロエレクトロニクスや燃費に優れた小型自動車など、世界を凌駕する技術を生み出した。

村上氏は「危機感を持ち続けなければ、コロナショックを教訓にした新たな経済発展の道はない。政府と産業界が一体となり、3密回避型の技術・サービス立国を目指す産業戦略を推進するべきだ」と話している。

(以下インタビュー詳細)

3密回避 実現へICT活用 医療資源備蓄にも注力を

戦後最大の経済危機へ

新型コロナウイルスの感染拡大に伴うコロナショックに直面し、すぐに思い出したのが1973年に起こった第一次オイルショックだ。

日本経済は高度成長期が終わって、成長屈折が起こり、戦後初のマイナス成長に落ち込んだ。今回のコロナショックも、オイルショックと同様に「社会システム危機」であり、日本経済に大打撃を与えることは間違いない。

しかし、この二つの危機を経済的・産業的に冷静に分析してみると、双方とも、実際に起こった危機のインパクトに対する評価は違ってくる。

第一次オイルショックの時、日本には67日分の石油備蓄しかなかったが、それでも十分にカバーできる程度の供給危機であったことが後になってから明らかになった。

一方、コロナショックも、感染症だけの経済的影響に限定して日本の現実を見ると、それほど深刻ではないとの評価もできる。死亡者数、有症感染者数とも、毎年のインフルエンザの感染者や死亡者数を大きく下回っている。コロナの有症感染者数は完全失業者数の約1%に過ぎない。休職期間も限定的である。

それでも、都知事の「オーバーシュート」発言や専門家の「42万人死亡」発言をきっかけに、国民がパニックに陥り、政府も、緊急事態宣言や全国緊急事態宣言を出して、経済活動を止める対応にまで追い込まれた。コロナクライシスがコロナパニックへと発展したのである。

コロナパニックは、①消費者の感染②労働者の感染③外出自粛④県や国をまたぐ越境移動自粛⑤休業要請⑥休校要請⑦アリーナや公園などの施設使用制限⑧テレワーク推奨⑨必須労働従事者出勤要請⑩必須労働従事者感染の10の主要な経済的インパクトをもたらした。

経済はすべて、サービスで動くと考える「サービスドミナント・ロジック」では、「コンテンツ」と「チャネル」という二つのルートを通じて、価値が共創される。提供者と利用者が出会う「顧客接点(店舗)」「企業活動一般」「社会経済システム」の三つのチャネルのうち、企業が対応できたのは「顧客接点」だけだった。

一方、「企業活動一般」と「社会経済システム」のチャネルに関しては、企業は何もすることはできず、その影響は今後、本格化するだろう。コロナパニックがコロナショックへと移行し、経済的な打撃が表面化するのはこれからだ。

第一次オイルショックでは経済成長率はマイナス0.5%、2008年のリーマン・ショックではマイナス3.4%であったが、コロナショックはそれらを大きく上回る戦後最大のショックになると予測されている。

「3密」回避の技術革新

第一次オイルショックを受けて、日本政府は「90日間の石油備蓄」「省エネルギー型産業構造」「代替エネルギー開発」の三つの政策を打ち出した。代替エネルギーの開発は途上だが、石油備蓄は今も有効である。そして何より、「省エネ型の産業構造」への転換は、マイクロエレクトロニクスや燃費に優れた小型自動車などの技術を生み出し、1980年代の日本経済の黄金時代を築く原動力になった。

新型コロナ危機は、不測事態が起こり、その影響が個別部門に限定されず、社会システム全体に波及する「社会システム危機」と規定すべきであるが、そこでは、クライシスがパニックに発展し、それが経済的なショックに移行してしまい、最終的にニューノーマル(新常態)で新しい均衡が生まれる。

第一次オイルショック後の産業構造の転換が成功した歴史を教訓に、今こそ、ポスト・コロナに向けて、日本の産業構造を大きく変えていくべきではないか。その答えは、自発的に3密回避型の産業構造を選択すべきであるということだ。

「密接」「密集」「密閉」の3密を回避しよう、という政府の呼びかけは、日本の感染症対策の最大の功績といえる。新型コロナの感染拡大のために必要な行動変容の姿を極めて的確に表現したからだ。

企業にとっては、顧客接点でイノベーションを起こし、3密回避を実現することが最大のミッションとなる。

社会経済変革の基本目標である3密回避をICTの活用によって実現する。具体的には、「密接」回避には「非接触」によるサービス提供、「密集」回避には「遠隔」によるサービス提供、「密閉」回避には「超臨場」によるサービス提供の実現を目指すべきだ。

一つ目の「非接触」は、キャッシュレス決済が代表的なサービスで、さらにチケットのやり取りや注文も非接触にする取り組みもある。サービスロボットによる配膳なども進んでいる。非接触サービスが可能な領域を探す動きも進むだろう。

二つ目の「遠隔」は、Eコマースが代表的なサービスだが、遠隔医療や遠隔製造、遠隔工事、無人店舗などの領域で、社会実験から社会実装への動きを進める必要がある。

最後の「超臨場」のメタ・リアリティの分野では、インターネットでのライブ配信や、オンラインの会議などが萌芽的に始まっている。しかし、私に言わせれば、今実現している技術はまだまだ「おもちゃ」みたいなものだ。今後、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)などのテクノロジーを、認知科学やサービソロジー(サービス学)などで進化させる。プロスポーツの試合や音楽コンサートのほか、リモートワークの会議などの臨場感も高める。

日本のICT産業やエレクトロニクス産業などは、世界に先駆けて、3密回避型の産業構造の実現を目指す取り組みを進めるべきだ。この分野には広大なフロンティアが広がっている。

医療備蓄や重症治療割付け

3密が破られて、感染症が拡大してしまった時の備えにも万全を期する必要がある。

まずは、厚生労働省が新型コロナウイルス感染症対策テックチームと連携して開発した新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)のような「接触追跡」技術の普及は不可欠だ。

さらに識別された感染者を確実に治療するためには、オイルショック後の90日間石油備蓄で効果をあげたように、期間を明確にした医療資源の備蓄制度を確立する。マスクや、防護服、さらにはECMO(体外式膜型人工肺)などを、専門家の判断に従って期間を定め、計画的に備蓄する。備蓄品は、一定期間ごとに市場を見ながら入れ替える。

日本の病床数はOECD(経済協力開発機構)加盟国中最大だが、重症者がどの病院で治療を受けているのかが見えず、今回のコロナ禍で混乱した。

日本の病院の中で、重症、中等症、軽症、非感染の区分を平時から割付けしておき、専門家が定める期間の輪番制でローテーションする。期をまたぐ調整さえできれば、感染を恐れて、新型コロナに感染していない患者が治療を敬遠する心配もなくなり、病院経営も安定するはずだ。

こうした備えが間に合えば、第二波の感染が起こっても、日本ではコロナパニックの発生を抑えることができよう。パニックが起きなければ、コロナショックを回避できるはずだ。

3密回避型産業構造の構築や医療資源備蓄などの備えは、政府がイニシアティブを取って成長戦略に位置付け、産業界を巻き込んで資源を集中するような取り組みが必要だ。省エネ産業の構築で成功したときのように、テクノロジー・制度・ビジネスが一体になって、イノベーションの実現を目指すべきだ。


*2020年6月22日取材。所属・役職は取材当時。

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