コロナ危機に克つ:キリンビール横浜工場の取り組み

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下で、食品メーカーの多くは供給責任を担った。キリンビール横浜工場でも、従業員の感染防止対策を徹底しながら、工場の操業に取り組んだ。不要不急の外出自粛が求められた影響で、外食産業向けの需要が落ち込む一方、オンライン飲み会などの新しい需要の拡大で、家庭内での需要が増大した。

缶ビール需要が急増 オンラインなど「家飲み」増え
キリンビール横浜工場の取り組み

キリンビール横浜工場(キリンビール提供)

京急生麦駅から徒歩約10分にあるキリンビール横浜工場は、工場見学ツアーやビールづくり体験教室、レストランなどがあり、家族連れなどに人気のスポットだ。しかし、新型コロナの感染拡大の懸念が高まり、3月1日から、見学施設・ショップなどは当面の間休止になった(6月9日からレストランは営業再開)。

キリンビール常務執行役員横浜工場長の九鬼理宏氏は「緊急事態宣言が出た後でも、飲料については製造を継続した。工場の従業員や家族、お取引先などのステークホルダーの皆様への感染リスクを軽減し、供給責任を果たしていくことに最も神経を使っている」と話す。

感染防止対策はキリンビール本社・工場で対策本部を設置し、情報共有しながら連携して対応した。また、手洗いや咳エチケット、体温検査などの体調管理などを徹底した。

食品メーカーでは、食品衛生に関しては普段から厳しいルールがあり、インフルエンザや食中毒など季節ごとに注意喚起が行われている。しかし、正体がわからない新型コロナへの対応だけに、緊張感を持って、少しでも感染リスクがあれば即座に対応する態勢を維持している。操業にかかわる人は出勤したが、事務所の操業系以外の従業員などはテレワークの在宅勤務を行う態勢を敷いた。

キリンビール横浜工場では、キリン一番搾り生ビールなどのビールや、淡麗グリーンラベルなどの発泡酒、本麒麟などの新ジャンル、氷結などのチューハイのほか、クラフトビールも製造。仕込みから発酵・貯蔵、パッケージングまでの工程を一貫して行っている。

新型コロナの感染拡大に伴う外出自粛の影響で、飲食店に出かけられない人が増え、店舗向けに出荷している樽や壜の製造が減る一方で、オンラインの飲み会など家飲みが増えて、缶の製造が増大した。九鬼氏は「天候による需要の変化はよくあるが、今回のような需要の変化は初めての経験だった」と話す。

パッケージングの作業では、缶列、壜列、樽列の充填機の操作がそれぞれ専門性を必要とするため、簡単に人員をシフトできない。作業に余裕のできた他列の経験者を缶列に配置するなどで需要増大に対応した。

横浜工場では、さまざまな設備を動かせる人材の養成を目指し、育成プログラムを作成済みだ。工場の稼働が落ち着く1~2月の期間を活用した人材教育を今年から始めた直後のコロナ禍で対応を迫られた。

九鬼氏は「何とか製造の要請に応えることができているが、今回のコロナ禍でマルチ対応のスキルを身に付けてもらうことの必要性を改めて痛感した。育成のスピードを上げ、もっとダイナミックに進めていきたい」と話している。

危機下での気づきを好機に
キリンビール常務執行役員横浜工場長 九鬼 理宏氏に聞く

キリンビール横浜工場では、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する対策として、操業系以外の従業員のテレワークや時差通勤などを実施した。現場を重要視する製造業として、テレワークをどう活用するのか。キリンビール常務執行役員横浜工場長の九鬼理宏氏に聞いた。

九鬼 理宏
キリンビール常務執行役員横浜工場長

――感染拡大防止で気を使ったことは

「従業員は食品製造を担う者として、普段から衛生に関しては高い意識をもって取り組んでいる。しかし、新型コロナは未知のウイルスなので、従業員の不安も大きい。会社としては心的ストレスを少しでも和らげるように配慮した。常に何が必要であるかを考え、思いついたことはすぐに実行するようにしている」


――具体的には

「工場への通勤は原則公共交通機関を利用するが、混雑のピークを避け、感染を防ぐために時差出勤を推奨した。また、施設内の駐車場のスペースの範囲内で、マイカー通勤も許可した」


――テレワークの導入は

「操業系以外の従業員に対しては、在宅勤務でテレワークしてもらっている。対面の重要性を感じながらも、上司とコミュニケーションをとっていれば、オンラインでも十分に仕事ができると感じているようだ」

――コロナ禍の教訓は

「コロナ禍はピンチであったが、ここから得られた気づきをチャンスと捉えたい。変えるべきもの、変えないものをしっかり判断したい。テレワークなど、いいなと思ったことは製造現場でも積極的に取り入れていきたい」

――ものづくりとして、テレワークは難しい面もある

「実際に現場で現物を観察して、現実を認識した上で、問題の解決を図る『三現主義』が、ものづくりの基本であることは変わらない。その一方で、IoT(モノのインターネット)などの最新技術を活用すれば、時間の使い方はもっと効率化できるはずだ。自宅からカメラで確認し、目視すべきものは現場に行って短時間で確認することもできるだろう。それによって余裕ができたら、クリエーティブに時間を使える。大麦、ホップ、酵母など生き物を扱っているので、現物にはこだわるが、働き方はもっと自由にして、生産性を上げていく」

――工場の自動化は

「今後、少子高齢化が進み、労働人口も減る。少ない人数でオペレーションできる態勢を整備するため、自動化技術の開発は積極的にやるべきだ。現在も試験的にカメラなどを取り入れているが、加速していきたい」

――今後、やるべきことは

「働き方や考え方、ライフスタイルが変わっており、不確実なことが今後も起こるだろう。事業構造を見直し、柔軟な態勢を整えることが必要だ。今は、家飲み需要の拡大で、低価格商品である新ジャンル「本麒麟」や健康志向が高まり糖質オフ系発泡酒の「淡麗グリーンラベル」、ノンアルコールビールなどが好調だ。その一方で、『やっぱりお店で、おいしい料理と合わせて、生ビールが飲みたい』というニーズも強い。お客様の嗜好やニーズにしっかりと対応していきたい」

――地域貢献にも積極的だ

「横浜工場は長らくこの地で操業を続けており、地域のために何かできないかと考え、工場見学用の菓子をフードバンクに寄付し、備蓄していた医療用のN95マスクを近くの病院に寄付した。これからも貢献できることを探していく」


*2020年6月30日取材。所属・役職は取材当時。

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