コロナ危機に克つ:金丸 恭文 フューチャー代表取締役会長兼社長グループCEOインタビュー

フューチャー代表取締役会長兼社長グループCEOの金丸恭文氏は生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染終息後を見据え、ウィズ・コロナ下の今こそ、企業は思い切った経営改革を断行すべきとの考えを示した。多くの企業がコロナ禍で遅れを痛感したデジタルトランスフォーメーション(DX)について、その推進役となる優秀なデジタル人材の確保に向けて、大幅な人事戦略の見直しを訴える。さらに、フューチャー自身も、コロナ後を見据え、大胆な破壊と創造の構造改革を断行する考えを表明した。

DX実現へ今こそ破壊と創造 デジタル人材とタスクフォース

金丸 恭文 フューチャー代表取締役会長兼社長グループCEO

金丸氏は「2011年3月の東日本大震災の後、企業はデジタル改革を断行し、社内の構造改革を進めておくべきだったのに多くの企業でそれができていなかった。今回のコロナ禍で経営改革とIT改革の両輪でビジネス構造を変えていく必要性を痛感したはずだ」と話す。

その際に必要となるのが、デジタル改革を推し進めるデジタル人材だ。

金丸氏は「企業経営者は口をそろえてデジタル人材を採用したいと言う。フューチャーはデジタル人材カンパニーだが、優秀なデジタル人材を集めることはそう簡単なことではない。表層的な経営メッセージで改革に取り組めば、また、方向性を見誤るのではないか」と警鐘を鳴らす。

企業がデジタル人材の採用に苦心しているのは、国内の労働市場における絶対的な理系人材の不足が背景にある。日本の大学・大学院卒業生の中には、理系人材がそもそも少ない。「日本社会の理系率はざっと3割程度で、7割~8割が理系人材である中国とは真逆だ。しかも、工学部の中でコンピューターサイエンスを学んだ学生も限られている」(金丸氏)。

さらに、多くの企業がデジタル人材の採用に力を入れているが、うまく活躍の場を提供できない現状がある。「日本の企業の中では、デジタル人材が入社した時の力をさらに伸ばす機会に乏しい。最先端の仕事をやり続ける機会に恵まれない環境では、世界と競うための『デジタル筋肉(能力)』を維持することはかなり難しい」(金丸氏)。

また、デジタル人材に関しては、一握りの超一流のハードウエアエンジニアを除けば、ソフトウエアのエンジニアが大事になる。それなのに、IT業界ではハードウエアの売上高にこだわる企業がまだ多いという。

デジタル化を加速するには人材への投資が鍵を握る=渋谷リバーストリート

金丸氏の提言は、企業がそもそも数が限られている優秀なデジタル人材の採用を目指す人事戦略を見直し、重要プロジェクトごとに質的補完と量的補完とに切り分けた上で、長期的なパートナーシップの契約締結を目指すことだ。世界のIT業界では一般化しているタスクフォース型の働き方への転換で、それぞれの分野での一流人材を集め、プロジェクトの目的の達成を目指す。

タスクフォース型の働き方を機能させるためには、正規社員と比べて安い報酬で外部委託をしてきた従来のやり方も変える必要がある。金丸氏は「自社の人事制度に基づいた人件費で換算すると、一定期間の業務委託契約のデジタル人材への報酬が、社長の報酬を上回ることも当然ある。それを辞さない覚悟でないと、優秀な人材は集まらない」と指摘する。

フューチャー自身も、コロナ後を見据えて、ゼロベースで会社をつくり直す方針だ。金丸氏は「コロナ禍で、今創業するなら、どんな企業にするかを考えてみた。変えるべきところ、変えないところをリストアップしている。ビフォー・コロナとアフター・コロナでフューチャーをガラッと変えるつもりだ」と意欲を示している。

(以下インタビュー詳細)

2~3年は「覚悟」の年 教育と人材に積極投資を

政府だけに頼れない現実

ダイヤモンド・プリンセス号内で新型コロナウイルス感染症の集団感染が発生し、世界中の注目を集めた。パンデミックが本格化する前の2月、隔離された船内で起こった出来事を、日本政府や企業経営者、個人が船外から眺め、何を感じ、どう備えたのか。

危機がすぐ目の前に迫っている状況を目撃し、次に備える時間があったにもかかわらず、何もできなかったことは残念でならない。この時間を使って、日本が抱える問題、つまり、縦割り行政や硬直化した法制度がもたらす行動や思考の制約を取り払い、横断的に分析をすべきではなかったか。

「デジタル化の遅れ」や「対面」「紙面」「原本」といった旧来型のしがらみでがんじがらめになり、本来役割を果たすべき司令塔の組織も分断された状況では、見えないウイルスと対峙するにはあまりにも無防備だ。科学的なベースがない状態で、意思決定を行えば、誰が意思決定してもクオリティーが低下する。

私は企業経営者であり、企業や社員、社員の家族を守る義務を負う。コロナ禍で、何をすべきかを自問自答した結果、思い知らされたのは「政府だけには頼れない」ということだ。「組織や個人の自主性を発揮し、困難を乗り越えるしかない」という覚悟を持った。

感染防止対策に関して言えば、フューチャー社内でタスクフォースを立ち上げて、横断的にリアルタイムに情報が上がる仕組みを構築した。社員の健康状態を把握して懸念があれば早期に産業医への相談や保健所への誘導をできるようにした。また、健康診断を実施していただいている病院と連携し、体調が悪い社員が速やかに受診できるようにした。

使えないマイナンバーカード

緊急事態宣言が出された後は、給付金や補助金の交付をめぐり、デジタル化の遅れがもたらす惨状を嫌と言うほど見せつけられた。

10万円の特別定額給付金については、国民全員に一律に給付金を届けるためには大量の事務を一気にさばく必要があった。通常の地方自治体には発生するはずがない量の事務作業だ。本来、生産性と品質を担保し、ソリューションとして備わっているものがデジタルなシステムだが、日本の縦割り行政のシステムは全体設計がなく、部分を継ぎ接ぎしながら凌いでいるためだ。

マイナンバーカードを使えば、特別定額給付金は本来迅速に配られるはずだと思われていた。しかし、国民が目撃したのは、マイナンバーカードを用いたオンライン申請は、未完成部分も多く、実は人海戦術で支えられたことだ。

便利であるべきマイナンバーカードの最大の問題は、実際はカードを持っていても、使う場面がないということだ。そもそも、マイナンバーカードは「日本政府のカード」ではなく、地方自治体によってオーソライズされた「現住所カード」だ。

若い世代は、学生、就職、転勤と住所を変える機会も多く、マイナンバーカードが「現住所カード」である限りは使い勝手が悪い。また、生年月日が和暦になっていて、年齢はもちろんのこと、ローマ字表記もないので、日本人同士しかわからない。

ようやく、政府もマイナンバーカードの問題点に気付き、根本的な解決に向けて動き出したようだ。しかし、今回のコロナ禍で、政府が抱えた宿題はマイナンバーカード以外にもたくさんある。課題を列挙し、反省しながら、着実に改善していかなければならない。

また、私たち一人ひとりも、無力感に苛まれた。家族を新型コロナの感染から守るべき立場にあるにもかかわらず、PCR検査を受けるだけでも、大変な苦労を強いられる。保健所の職員と交渉しても、結局、「100人待ち」という厳しい現実を突き付けられる。

どうしようもない状態が一定期間続いた。日本国民が感じたこの無力感をバネに、個人、企業、行政、政治家が、それぞれの立場で何をすべきかを考え、行動しなければならない。

今回のコロナ禍で、今のところ日本が受けたダメージは欧米に比べて大きくはない。

ダーウィンの進化論によると、危機を乗り越えた生物は、その危機から学んでさらに進化する。多くの被害を出した国々は、コロナ禍を教訓に進化するだろう。他国との競争に負けないためには、日本国民一人ひとりが、相当な覚悟で、パワーアップを図る必要がある。

モノを言う「労働組合」へ

もっとも、日本には他国に引けを取らない潜在能力はある。しかし、政府や法律がその能力を引き出すことを邪魔している。世界レベルで見た場合、本来退出すべき企業を、政府が税金を使って救済して、雇用を守っているように見えても、実際は、将来性がある強い企業で働いているほうが、労働者の安定性は増すはずだ。

労働組合は、賃上げの要求にこだわらず、どうすれば競争力が増すのかも考え、もっと積極的に提言してもらいたい。労使が知恵を絞れば、もっと強い会社に変革できるのではないか。

何なら、ヤドカリのように労働組合が会社という貝殻の宿を変えてもいい。労働組合が「経営者としてふさわしい人物」を発表するだけでも、外部主体の指名報酬委員会、株主やその他のステークホルダー(利害関係者)にも、大きなインパクトを与えるのではないだろうか。

一方、企業経営者にとっては少子高齢化で市場が縮小していく中で、ウィズ・コロナで消費が低迷していくという厳しい経営環境下でのかじ取りは免れない。この局面で重要なのは、減収減益の決算を強いられる中で、損益計算書(PL)に対する過剰な意識を捨てることだ。

PLは期間損益を示すもので、ウィズ・コロナの中で数字を維持しようとしても無理が生じる。ゴルフで言えば、アゲインストの風の中で、ドライバーを振り回すようなものだ。

今こそ、将来の進化の礎を築くために、内部留保のキャッシュを有効活用すべきだ。

世界の賢者たちとの競争に打ち勝つためには、人材に投資することが重要になる。2~3年損益が改善しないことを覚悟し、教育投資や人材への投資を進める一方、デジタル化、ロボットなどのハイテク投資を進め、生産性向上に励むべきだ。

また、コロナ禍の教訓で明らかになったサプライチェーン寸断のリスクを軽減するため、これまで付加価値が低いとして重要視してこなかった物品も含めた企業内備蓄・業界内備蓄なども再検討すべきだ。また、業種を超えた工場のシェアリングも有効になるだろう。

コロナ後の日本社会と企業の競争力強化について考える舞台としては、経営者と労働組合の幹部が集まり、健全な社会の構築の実現に向けて取り組んでいる日本生産性本部が今こそふさわしい。大いに議論してもらいたい。


*2020年6月30日取材。所属・役職は取材当時。

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