コロナ危機に克つ:先行テレワーク わが社の流儀

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための働き方として、多くの企業や団体がテレワークに取り組んでいる。しかし、テレワーク導入の初期段階では、これまでと違った遠隔での仕事に戸惑う従業員も少なくない。そこで、早くからテレワークの導入に踏み切り、試行錯誤しながら「わが社の流儀」を生み出した先人たちに、テレワークをうまく機能させるコツを聞いた。

味の素 2017年から「どこでもオフィス化」

味の素は、場所や事由を限定していた「テレワーク」の運用を、2017年4月から「どこでもオフィス」という名称で利用条件を大幅に緩和した。顔を合わせないと仕事ができないという既成概念を打破し、お互いを信頼し適切なコミュニケーションを取りつつ、成果につなげていく自律的な働き方を目指している。

人事部労政グループマネージャーの福永貴昭氏は「17年に経営トップが『経営戦略としての働き方改革やダイバーシティ推進』を宣言したことで、テレワークも大きく動き出した」と振り返る。

会社や、自宅、社外サテライトオフィスなど、セキュリティーが確保され集中できる場所であればどこでも勤務可能で、かつ、既存の制度である「スーパーフレックス制」や「時間単位有休」等の有効活用により、従業員が自律的に働く場所と時間を選択し、自身の生産性の最大化を目指すことができる。

社内に「先進的働き方事務局」が設置され、取り組みを主導する役割を担っている。人事・経営企画・情報・事業・営業・労働組合など、組織横断のメンバーからなる「拡大事務局」が中心となって、「どこでもオフィス」の導入から活用推進まで、一貫して取り組んできた。

福永氏は「ウィズコロナ・アフターコロナ、2025年問題も見据えて、さらに生産性高く、柔軟で多様な働き方、環境づくりを実現し、従業員一人ひとりの働きがい向上、ダイバーシティを推進していきたい」と話している。


(2020年6月26日取材)

コニカミノルタジャパン 定着作業 実は「もぐらたたき」

コニカミノルタジャパンは、2014年度の本社移転に伴い、ICTインフラの利用促進とフリーアドレス化を実施、外勤者に対しスーパーフレックス制度を導入した。

DWP事業企画統括部いいじかん設計企画部部長の牧野陽一氏は「15年夏にマイクロソフト主催のテレワークのイベントに参加したのがテレワーク推進のきっかけだ」と振り返る。

15年度には、営業職など外勤者に直行直帰を奨励するとともに、サービス拠点などをサテライトオフィスとして活用できるよう環境を整備、テレワークのトライアルも実施した。16年度は環境整備のみならず、ワークフローそのものを変革して紙や場所にとらわれないものにすべく、「保管文書ゼロ化」を実施。スーパーフレックス制度の適用範囲を広げるとともに、テレワークのトライアルの範囲を広げ実施した。

牧野氏は「18~19年度は定着と醸成というメッセージを前面に出し、積極的にテレワークを進めた。反対する声もあったが、BCP(事業継続計画)の観点からテレワークは必須であるとの声も強かった。実際に、台風や豪雨の日にテレワークは効果的で、『やっていてよかった』との賛成派が多数になった」と話す。

「働き方変革」の取り組みは、社外にも積極的に提案している。牧野氏は「テレワークの定着に向けた作業は、実際はもぐらたたきのようなもの。アンケートやメルマガなどを通じ、従業員とのコミュニケーションを図り、気運を盛り上げることが重要だ」と話す。


(2020年6月23日取材)

NECネッツエスアイ 「顔が見える」は、やはり必須

NECネッツエスアイは、2015年からテレワークを試行導入し、17年7月には全社員を対象としたテレワーク制度を導入、19年10月からはサテライトオフィス(自宅から平均30分圏内の首都圏7カ所に設置)を前提とした「分散型ワーク」に取り組んでいる。

テレワークの実施場所は、自宅、グループ会社オフィス、サテライトオフィスなど、多様な場所を認めており、利用回数や利用日数に制限はない。

コロナ禍では押印のために出社することが話題になったが、同社では今、全社的に「脱ハンコ化」を進めている。自動的にAIが電話応対を行い、本人に伝言する仕組みも構築している。同じ場所にいなくても、メンバーの体調や居場所を確認できるようにしており、当日のオフィスの在籍率や在席状況など一目でわかる。

6月30日には、新たな価値創造を目指す「ニューノーマル宣言」を公表し、ICTを活用した自社での取り組み内容などをホームページで紹介している。

テレワークを機能させるポイントについて、営業統括本部マーケティング本部長の吉田和友氏は、「今回のテレワークでは、普段通りのコミュニケーションができなかったという声をよく聞いた。テレワークにおいてもある程度、顔の見えるコミュニケーションはしっかり取る必要がある。テレワークをきっかけに、効率的な業務プロセスを再設計することや、上司と部下で業務内容や目指すアウトプットを明確にしておくことなどが重要だ」と語る。


(2020年6月30日取材)

キャスター 全スタッフ700人がテレワーク

秘書・人事・経理、WEBサイト運用業務等のオンラインアシスタントサービスを提供するキャスターは、現社長の中川祥太氏が、前職において、クラウドソーシングで人を募集していたとき、オンラインの人材市場の時給が最低賃金を割るような低賃金の単純労働しかない状態だったのを見て、「場所や時間を問わず、その人の経験やスキルを生かせる働き方はできないのかと思い、それを実現できる会社を2014年に神奈川で設立した」(取締役COOの石倉秀明氏)。

同社は「労働革命で、人をもっと自由に」をビジョンに掲げ、全スタッフ約700人がテレワークで働いている。自宅、コワーキングスペース、旅先などが職場になる。組織の階層は役員層、部長層、スタッフの3階層。雇用形態による給与や福利厚生の差はなく、同一労働同一賃金を実現している。

17年11月には、宮崎県西都市にIT企業として初進出し、昨年9月には本社を西都市に移転した。宮崎県在住のスタッフは50人ほどいる。石倉氏は、テレワークが機能する前提として、「場所を問わず、同じ業務ができること。業務フローがすべてオンライン上で完結できること」と「場所を問わず、同じ情報が入手できること」の二つを挙げる。「オフィスで行っていることをそのままテレワークで行うと、うまくいかないこともある。テレワークならではのコミュニケーションの取り方や、業務フローの構築が求められる」と助言した。


(2020年6月30日取材)

*所属・役職は取材当時。

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