コロナ危機に克つ:難波 淳介 運輸労連中央執行委員長インタビュー

全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)の難波淳介中央執行委員長は生産性新聞のインタビューに応じ、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、トラックドライバーやその家族を含めて差別的な扱いや誹謗中傷を受けるケースが目立つ」との報告を示し、遺憾の意を表明した。そのうえで、感染の再拡大に備えて、「物流崩壊」による経済や国民生活の破綻を守るために使命感を持って働くトラック運輸産業に対する国民の理解と協力を求めた。

「物流止めぬ」使命感に理解を 偏見なくなる発信願う

難波 淳介 運輸労連中央執行委員長

難波氏は「トラックドライバーは、コロナ禍でも使命感を持って物流の責務を担っているにもかかわらず、複数の都道府県をまたいでの輸送に取り組むために新型コロナウイルスへの感染リスクが高い、といった誤った認識で、家族を含めて差別を受けている」と話す。

運輸労連加盟社の現場からの報告によると、新型コロナウイルスの感染拡大による組合員や職場への影響については「宅配便の配達業務において、お客様から感染者扱いされ、アルコール消毒液をかけられて精神的なダメージを受けた」とか、「予約した医療機関への検診のために訪問するも、職業を聞かれ長距離ドライバーであることを伝えると、検診を拒否された」といった差別的な扱いを受けたケースがあった。

また、サービスエリアの休憩時に県外ナンバーのトラックドライバーを見つけた見ず知らずの人が、「コロナを運んでくるな」などの暴言を浴びせることもあった。さらに、トラックドライバーの家族に対しても、登校の自粛要請や病院での診療の拒否などの扱いがあったという。

こうした事態を受け、運輸労連は6月、運輸労連政策推進議員懇談会の赤松広隆会長に、トラック運輸産業に対する国民の理解と協力を求めることなど4項目に関する要望書を提出し、政府に働きかけるよう申し入れている。

運輸労連によると、トラック輸送は、国内物流の9割を担う社会インフラであり、欧米諸国では「エッセンシャルワーカー」として称賛されている状況があるという。難波氏は「日本でも、新型コロナウイルスの感染に脅威を感じているのは、一般市民もトラック運輸産業に従事する労働者も同じである」として、関係機関に対し、国民の理解が深まるよう情報発信を要請している。

要望では、このほか、「マスク・消毒液などの衛生用品の確保および感染予防などについて」「トラック運輸産業に従事する労働者の雇用の安定について」「輸送にかかる環境整備について」の三つの項目も改善を申し入れている。

陸運業界は、コロナ流行前から、人手不足に見舞われており、人手不足を原因とした倒産も珍しくはない。今回のコロナ禍で起きたドライバーやその家族に対する敬意を欠いた言動や差別的な扱いが、担い手不足に拍車がかかることを懸念する声が強まっている。

難波氏は「『物流を止めてはならない』という使命感に燃えたドライバーでも、通りすがりにひどい言葉を投げかけられると、心が折れてしまうのではないかと心配だ。一方で、感謝の言葉や応援メッセージをSNSなどで寄せていただき、それを励みにしているドライバーもいる。誤った認識や偏見が払拭されるような情報発信をお願いしたい」と話している。

(以下インタビュー詳細)

非接触物流加速へ 「隊列走行」も議論が必要

「県外出たくない」心情吐露


新型コロナウイルスの感染に脅威を感じているのは、国民もトラック運輸産業に従事している労働者も同じだ。にもかかわらず、「首都圏や関西地域など、県境をまたいで輸送しているドライバーは感染リスクが高い」といった誤った認識から、その家族を含めて、差別や誹謗中傷を受けているとの報告がある。

長距離ドライバーの中には、「県外に出たくない」「もう仕事を辞めたい」といった悩みを口に出す者もいるようだ。ドライバー不足が深刻になる中で、会社側はどうやって引き留めるのか、苦慮している話も聞く。

これまでも、組合は事業者団体とタッグを組んで、貨物事業者運送事業法の改正や、荷主との関係の改善、運賃の引き上げなどに力を尽くしてきた。ドライバーの担い手不足を解消するには、ドライバーの待遇改善が最も重要だと考えるからだ。

世の中は、Eコマースや食事の宅配サービスで家庭までのラストワンマイルを担うギグワーカーたちが増えている。しかし、ギグワーカーの人たちに物流を依存してしまうと、ワーカーたちが他の条件の良い仕事に移ったときに物流システムが瓦解してしまうかもしれない。安定した物流システムを構築するには、担い手の人材を確保しておくことが何よりも重要になる。

新卒の採用に関しては、自動車や電機など、これまでけん引してきた業界が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う業績低迷で採用に消極的になっている。採用を増やす動きは5G(第5世代移動通信システム)や陸運などごくわずかだ。

トラックドライバーだけではなく、倉庫の内部作業や経理などの事務、安全担当、営業担当など、陸運業界そのものが人手不足で、今は採用の好機かもしれない。賃金など待遇の向上が重要になる。

歳暮の繁忙期がずっと続く

政府の「ステイ・ホーム」の要請に伴い、宅配サービスの貨物量は増えた。歳暮の商戦期には、普段の3~4倍の貨物量になるのだが、昨年の年末の忙しさがずっと続いた状態だったと聞いている。

Eコマースの貨物が増えているのはもちろん、トイレットペーパーなどの日用品が店頭から消えた時期も、それらの貨物を扱っているトラックは忙しかった。年末の歳暮商戦期にコロナやインフルエンザの流行などで外出自粛ムードが再来すれば、大変なことになるだろう。

陸運業界では、背負っている荷物によって、仕事の量が全く違う。自動車関係や、電子部品、鉄、エレクトロニクス関連などは生産を止めたり、海外への輸出入が止まった影響を受けて、貨物量が激減した。

食品業界もスーパーマーケット向けや冷凍・レトルトなどの食品を扱っている加工工場向けの仕事は忙しかった。一方で、小中学校の休校により、学校給食の仕事は「ゼロ」になったほか、ファミリーレストランチェーンや居酒屋チェーン向けも激減した。同じ食品でも、荷種によって全く異なる状況だ。

陸運業界全体では、増えたものと減ったものを相殺すると、2割減だった。重厚長大の貨物から軽薄短小の貨物まですべてを扱っている会社は忙しい業務にドライバーを寄せることができたが、ある業務の荷種に特化している会社は打つ手がない。

もともと人手不足倒産は多い業界だが、幸いにもコロナによる倒産は加盟団体からは出ていない。海外との輸出入が復活すれば、仕事は戻ってくると期待している。ヒトの流れが止まるとバス・タクシーや鉄道など公共交通機関である人流は苦しい。まだ物流全体でみれば恵まれているようにも見えるが、個別事業者ごとに見ていけば、苦しさは人流と同じだ。

マスクなど衛生用品の確保を


それぞれ状況が違うので、労働組合として意見を集約するのは大変だったが、各社に共通する事項に絞って、関係個所への協力を要請した。

マスクや消毒液などの衛生用品についても当初は手に入りにくかった。一時期に比べて入手しやすい状況になっているが、今後も、新たな感染の波が来た場合に再び入手が困難になることが危惧されている。

そうした場合に、医療関係者などが最優先に供給される仕組みが構築されることは大事である。また、トラックドライバーもエッセンシャルワーカーであり、ライフラインの一つである物流を止めないためにも、優先的に供給されることが重要だ。

感染予防についても、新型インフルエンザ等対策特別措置法では、「特定接種」(国民生活・国民経済安定分野)の対象者として、道路貨物運送業が含まれているが、ワクチン数に限りがあり、ワクチン接種が保障されるものではないとされている。

医療分野をはじめとする特定接種の対象となっている全業種に対する十分なワクチンの備蓄がされることが重要だ。厚生労働省への登録申請においても、産業医の選任や業務継続計画の作成が要件となっているが、事業者の99%は中小企業であり、要件の緩和も要請していく。

輸出入貨物や学校給食を取り扱う業者は、自治体からの要請がなくても休業を余儀なくされるなど、経営危機に陥る企業も少なくない。離職者の増加や企業倒産に歯止めをかける取り組みも必要になる。

雇用調整助成金については、給付要件の緩和や、給付率10割(自治体からの休業要請がない場合の休業なども含む)、支給日数限度の延長などについて、再び感染が拡大し、緊急事態宣言などが発出された場合の制度になるように働きかけていく。

中小企業には、雇用調整助成金の申請は複雑で、社会保険労務士に依頼すると費用負担が重い。申請の簡便化を図るとともに、事業継続に向けた資金援助にも対応していただきたい。

重要度増した「置き配」


コロナ禍ではリモートワークの頻度が多くなり、自宅で仕事をする人が増えて在宅率が高まったので、宅配サービスの持ち戻りが減った。宅配業者にとって、持ち戻り・再配達というのは労働負荷が高い。せっかく現場に行ったのに持ち帰ると、次々と荷物が増えて生産性が低下するからだ。

緊急事態宣言が解除され、外出の機会が増えると、持ち戻しの負担も元に戻る可能性がある。今後は、宅配ボックスがない場所でも玄関先に荷物を置いておく「置き配」を進めていくことが重要になる。

物流は人の手から手へと荷物を渡すものだが、コロナ禍で人々は接触を避ける習慣がついている。今後は、置き配のような非接触の物流を構築していく必要があるだろう。

例えば、「隊列走行」もそのひとつだ。複数のトラックが連なり、走行状態を通信によってリアルタイムに共有し、自動で車間距離を保って走行する「隊列走行」は、安全性や運行効率を高め、ドライバー雇用環境の改善につながる技術であると期待されている。

ただ、高速道路上の「隊列走行」が他の自動車の運転の妨げになったり、渋滞を引き起こすことがないのか、道路行政の見直しが必要になるなら、国民的な議論として進めていく必要があるだろう。

このほかにも、倉庫内作業の機械化・ロボット化によって倉庫内作業の効率が上がり、物流の非接触化は進む。テクノロジーを活用した生産性の向上は必要なことだが、注意しなければならないのは、陸運業界で働く労働者の働く場所や機会が失われていくかどうかである。

ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの物流は変わっていかなければならないが、適正な方向に向かうように議論していきたい。


*2020年7月8日取材。所属・役職は取材当時。

関連するコラム・寄稿