コロナ危機に克つ:鹿島建設「スマート生産」を推進

3密回避を“先取り” ロボット化・遠隔操作・デジタル化


新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎながら、経済活動の再開を加速するため、大手ゼネコンなどの建設業界は、現場のデジタル化の早期実現という課題に直面している。ICTやロボットを活用し、現場の作業負荷を軽減して、生産性向上を可能にするとともに、3密回避の効果も高めるためだ。

鹿島は2018年11月、建設就業者不足への対応や、働き方改革の実現に向け、建築工事にかかわるあらゆる生産プロセスの変革を推進し、生産性向上を目指す「鹿島スタート生産ビジョン」を策定した。コアコンセプトのひとつは、「作業の半分はロボットと」だ。資材運搬などの単純作業や耐火被覆吹付などの苦渋な作業は機械化を進める一方、特殊な部材の施工や複雑な調整を必要とする作業はこれまで通り人が行う。

二つ目は「管理の半分は遠隔で」だ。現物確認と遠隔管理の組み合わせで、現場管理者の働き方改革を図る。作業進捗状況などの単純な確認業務は、工場事務所や現場外からの遠隔管理にシフトし、協力会社や資材メーカーとリアルタイムな情報共有を推進する。

三つ目は「すべてのプロセスをデジタルに」で、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を基軸とし、あらゆるプロセスをデジタル化して、生産性の向上を図る。

各種ロボットやアシストマシン、モニタリングシステム、ドローン自動巡回システム、ウェアラブルカメラなど18項目を実証。社外のパートナー企業とのオープンイノベーションを推進し、全国の現場に積極的に展開する。

ビジョンの実現は2025年を目標にしているが、「新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、当社が進めている鹿島スマート生産を加速させる必要がある」(鹿島建設専務執行役員横浜支店長の野村高男氏)という。

予測つかない2年後の業界
鹿島建設専務執行役員横浜支店長 野村高男氏に聞く

野村 高男 鹿島建設専務執行役員横浜支店長

――4月の緊急事態宣言下で一時、工事を止めた

「4月23日から5月6日までの2週間は、完全に工事を休んだ。一部の顧客からは『工事を続けたほうがいいのではないか』という声もあったが、大多数は『工期に遅れがないのならば、鹿島に任せる』と言っていただいた」


――5月7日からは再開に踏み切っている

「政府の緊急事態宣言が延長されたタイミングで工事を再開するかどうかについては社内で議論したが、最終的には『再開』の決断をした。もし、2週間ではなく、2カ月間工事を止めてしまうと、協力会社の経営に大きな影響を与えてしまうからだ。例えば、協力会社の中には、最初に材料などを手配し、人件費も込みで仕事を請け負っていることも少なくない。協力会社の職人が、業者の経営不振でいったん散らばってしまうと、再編するのは極めて難しい」

――工事再開後は感染対策を徹底している

「密閉・密集・密接の3密を避ける取り組みに神経を使っている。オフィスワーカーのテレワークや時差出勤はもちろん、現場でも、マスクの着用や入場時の体温も遠隔で測定できる装置を設置した。体調不良の職人には仕事を休んでもらうなど、マニュアルの順守を徹底している。朝礼を分散型にしたほか、協力会社との打ち合わせも出席者を絞り込むなど、3密回避に配慮している」

――工期に影響はなかったか

「現場の努力で影響は回避できた。横浜駅至近で、横浜駅からみなとみらい21への玄関口となる広さ約9300平方㍍の敷地に、研究開発施設などにも対応する高機能な賃貸オフィスやオフィスとの親和性が高い、にぎわい施設等を中心とした複合ビルを建設する『横濱ゲートタワープロジェクト』や、収容客数1万人規模の大型コンサートアリーナを建設する『みなとみらい38街区』、富士屋ホテルの耐震補強・改修工事、Kアリーナプロジェクトなどの大型プロジェクトも順調に進んでいる」

――コロナ禍の工事の難しさは

「大型マンションの工事などでは、内装が仕上がった部屋をシールド・ロックして誰も入らないようにする。職人が新型コロナウイルスに感染した場合に備え、どの職人がどの部屋で作業したのかを把握し、記録を取ってエビデンスとして残す必要がある。万一、発症した場合は、必要な場所を消毒しなければならないからで、こうした現場の作業は大変神経を使う」

――ウィズ・コロナやコロナ後の工事はどう変化するか

「ICT(情報通信技術)やロボットなどを活用したスマート生産を前倒しで進めていく必要がある。あらゆるプロセスをデジタル化し、人とロボットによる協働を進め、遠隔・非接触の作業の実現を早めていくことが安心・安全の工事として求められるだろう」

――スマート生産の実現までにも、現場の3密回避を図る必要がある

「オフィスでの仕事はテレワークが進み、時差出勤などで3密の回避ができる。実際に、テレワークを進めていくと子育て世代の仕事復帰を促すなど働き方改革にも効果をもたらしそうだ。しかし、工事現場はそう簡単にはいかない。特に夏の暑い時期には、熱中症対策とコロナ対策を両立させることに大変苦労した。屋外での作業中はマウスシールドを着用し、人が集まる休憩場所ではマスクに変えるなど、工夫する必要がある。休憩所は冷房で体を冷やし、熱中症を防ぐために重要で、本来なら分散して設置すべきだが、仮設工事のコストが必要以上にかかってしまう。業者や作業班ごとに時間差を設けて休憩を取るなど、効果的なソーシャルディスタンスの確保にも知恵を絞っている」

――業績の先行きに不安は

「建設業界は、手持ちの工事があるので、世の中の景気が悪くなっても、すぐに影響を受けることはない。しかし、すでに多額の工事計画が凍結される事態になっており、新規の案件の契約を積み上げられなければ、2年後は厳しい局面を迎えることは避けられない」

――東京五輪の開催も不透明で、首都圏の大規模プロジェクトにも影響が出そうか

「横浜市内の再開発などのプロジェクトも、コロナの影響で見通しが大きく変わってきそうだ。景気が後退すれば、給与所得が減り、マンションのローンを組むのも二の足を踏む。購買力は間違いなく落ちるだろう。オフィスビルも、コロナ後の人々の行動変容をにらむと、これまでの延長線上と言うわけにはいかない。テレワークの普及で、オフィスの賃料が下がり、建設費も連動して下がっていくかもしれない。テナントも、3密を避けた店づくりをすると、単価を上げることができなければ、売り上げが落ちるのは必然だ」

――経済の見通しは

「現状では、全く予測がつかないというのが本音だ。日本は貿易立国で、海外と交流して、付加価値をつけて外に出すことで稼ぐ力を養ってきた。外国との交流がいつ本格的に再開できるのかが鍵を握っている。コロナ禍で社会の状況は一変したが、国際競争力を高めるために企業が生産性を向上しなければならないという課題は変わらない。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボティクスなどのテクノロジーを駆使し、デジタルトランスフォーメーションを進めることが企業の喫緊の課題だ」


*2020年7月16日取材。所属・役職は取材当時。

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