コロナ危機に克つ:千葉興業銀行 苦境の県産品を応援

2019年の台風・大雨の相次ぐ襲来に加え、新型コロナウイルスの感染拡大の防止に伴う人の往来の停滞によって、千葉県の産業界が苦境に陥っている。とりわけ、観光産業やそれに付随する千葉県産品の販売不振は深刻だ。政府の「Go To キャンペーン」の効果で一息つきそうな勢いだが、インバウンド需要の不在や感染再拡大の懸念もあり、先行きに対する警戒感は強まっている。

行員ら消費推進運動 地域金融機関としてできることを


千葉興業銀行はコロナ禍で苦戦を強いられている千葉県産品の消費拡大に向けて、県内企業の応援を目的に、従業員による県産品の消費推進運動を展開している。

従業員が購買した県産品について、写真や感想のコメントを行内のイントラネットに掲示することで、従業員同士の情報共有を図り、さらなる消費につなげる狙い。

また、銀行の顧客にも情報を活用してもらえるように、銀行のホームページ内に、千葉県ホームページ「教えてちばの恵み」「千葉県産農林水産物のお取り寄せに関する情報」、千葉県観光物産協会(飯沼喜市郎会長)が運営する千葉県公式観光物産サイト「まるごとe!ちば」へのリンクを設け、県内の観光・物産情報、農林水産業、グルメ情報などを提供する。営業店の店頭でも、県産品消費を応援する取り組みを展開する。

緊急事態宣言に伴う経済活動の停止により、観光産業に産品を卸している業者から、支店などに多くのSOSが寄せられていた。千葉興業銀行の梅田仁司頭取が「10万円の給付金から従業員それぞれが産品を購入し、その感想を情報発信することで、産品応援の輪が広がっていくのではないか」と消費推進運動を発案した。

店頭に飾られたフラワーアレンジメント

これに先立ち、千葉県などは、コロナ禍で需要が減退している花きの活用拡大の取り組みを支援する「公共施設等における花きの活用拡大支援事業」を展開。千葉県花き振興協議会などでは、県産花きを活用した公共施設や商業施設などでのディスプレイの設置や花壇づくりコンテストの開催などを行う。千葉興業銀行もこの取り組みに賛同し、県内全店舗の店頭に県産花きを活用したフラワーアレンジメントを飾っている。

千葉県では昨年の台風・大雨で壊れた建造物やインフラについて、修理・復旧が進んでいないところも少なくない。ホテルや旅館などの施設は先に修理が進んでいるが、屋根にブルーシートがかかったままの民家も残っているという。

その背景には、修理を手掛ける人手の不足がある。県内の職人が不足していて、それを補うために全国から職人を手配したところに、新型コロナウイルスのパンデミックが発生。緊急事態宣言によって県をまたぐ移動が制限され、事業者を確保することが難しくなった。屋根の修理にまだ2~3年かかるとの見方もある。

緊急事態宣言が解除され、「Go To キャンペーン」も実施されるなど、県内の観光産業には持ち直しの兆しもみられる。千葉興業銀行経営企画部部長代理兼広報室長の弓家健一氏は「顧客企業の経営者からは『売上高の戻りは遅いが、景況感は回復してきている』との声も聞く」という。

その一方、景況感の改善をもたらしている「Go To キャンペーン」の負の効果で、感染の再拡大を懸念する声も根強い。さらに、日本の空の玄関口である成田空港は、国内線こそLCC(格安航空会社)を中心に利用客が戻りつつあるが、国際線の人の流れは、ほとんど止まったままだ。

千葉県は、成田空港に降り立った多くの外国人観光客を千葉県内の観光地に回遊させることが長年の課題だ。このため、インバウンド需要が消失した影響をダイレクトに受ける地域は多くない。

しかし、これまで成田空港から都心などへのインバウンド客の輸送を担った観光バスや鉄道などは、大きな打撃を受けており、回復へのきっかけすらつかめていない状況だ。

弓家氏は「5~6月の無担保無利子融資の申し込みは過去にない伸び率を記録したが、念のために手元資金を厚めに確保しておくという動機が強かった。経済活動再開後、売上が回復しない会社は、今後正念場を迎える可能性もある」と警戒感を示すとともに「地元企業を支えていくこれからが地域金融機関としての手腕の発揮どころ」と力を込めた。

「リスクは毎年」対応策を構築
千葉興業銀行経営企画部部長代理兼広報室長 弓家健一氏に聞く

千葉興業銀行は、感染拡大により影響を受けた顧客の融資や返済に関する相談を受け付ける一方で、来店客や行員の安全確保の対策にも力を入れている。経営企画部部長代理兼広報室長の弓家健一氏に聞いた。

弓家 健一
千葉興業銀行経営企画部部長代理兼広報室長

――取引先支援の取り組みは

「生活環境や事業環境が急激に変化していることを踏まえ、事業資金や各種ローンなどに係る相談に迅速に対応するため、全営業店やローンプラザなどに相談窓口を設置している」


――感染防止対策はどうか

「安心して銀行の窓口を利用していただくために、店頭窓口のカウンターにアクリル製の飛沫防止スクリーンを設置し、記帳台・ATMなどは除菌剤での清掃を行っている。行員のマスク着用、手洗いやうがい、アルコール消毒など衛生保持を徹底している」

――在宅勤務などの導入は

「昨年より業務に使用するPCのモバイル化移行を進めていたことが功を奏し、比較的スムーズにテレワークが導入できている。今期は本部行員を中心に2割を目標にテレワークのローテーションを組み、5営業日に1日の割合で在宅勤務をしている」

――業務効率は上がっているか

「自宅でもできる作業と、出勤した時にやっておくべき業務をそれぞれが意識して計画的に行うことで、能率は上がっているという声が多い。誰が出勤し、誰が自宅勤務なのかを把握し、スケジュールを立てて打ち合わせを組み込むなど各自が工夫している。トータル的には労働時間の削減につながっている」

――営業店舗の在宅勤務も進めるのか

「来店客を迎える営業店舗の在宅勤務導入はそう簡単にはいかない。しかし、4月16日から、臨時で昼時間窓口休業を実施しており、一部行員は在宅勤務や時差出勤を実施している。会議や集合研修については、テレビ会議システムを通じて行っている。店舗でも在宅勤務を取り入れることで、万一感染のリスクが高まった場合も、全員が感染することを避けられる。今後はさらなるデジタル化を進め、店舗の業務効率化を加速させていきたい」

――昨年は9月、10月に発生した台風・大雨により、千葉県は甚大な被害を受けた

「地球温暖化の影響により、台風や大雨の発生数は増加傾向にある。これからは、毎年台風の被害があっても不思議ではなく、BCP(事業継続計画)の訓練などに取り組んでいる」

――自然災害や感染症パンデミックなど危機が続く

「行内には、緊張感を持ってリスクに対応する意識が高まっている。BCPが大事なことは言うまでもないが、まずは顧客と自分たちの命の安全を第一に考えるように研修などで徹底している。自分を感染から守ることが、来店客の安全を守ることにもつながる。ウィズ・コロナはしばらく続くとの前提で、また、台風・大雨が毎年襲来すると考えて、リスクへの対応策を構築している」


*2020年10月7日取材。所属・役職は取材当時。

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