コロナ危機に克つ:AsMama(アズママ)「子育てシェア」

「コミュニティの再生が、日本の生産性向上の大きな力になる」と話す経営者がいる。顔見知りで頼り合う子育て支援プラットフォーム「子育てシェア」を運営するAsMama(アズママ)の甲田恵子CEOだ。安心して子供を預けられる地域の助け合いサービスは、1000人の認定サポーターや子育て支援に力を入れる地方自治体や大手デベロッパーなどの協力を得て、着実に広まっている。

地域コミュニティ再生が生産性向上のカギ握る
「子育てシェア」AsMama(アズママ) 甲田恵子CEO


《「子育てシェア」は共助型子育て支援プラットフォーム。利用者には、子育てをしながら、働きやすい環境を提供し、担い手には社会参画の機会を創出するマッチングサービスだ。プラットフォームの運営費は、協賛企業のマーケティング費用などからねん出し、利用者の負担を軽減している》


顔見知りの人たちが、気兼ねなく、安心して、子供を預けられる仕組みで、登録料も手数料もかからないのに、すべての利用者に保険が適用されているのが特徴です。

普段、子供には「知らない人についていってはダメ」と教えているのに、親の仕事の都合で、知らない場所に連れていって、ご飯を食べさせる。親は「大きな会社のシッターさんだから安心」「教育大学出身なので充実した時間を過ごせるはず」と思うけど、子供がそう思うとは限りません。3~4歳だった娘を初めてのシッターの部屋に連れていった時に、「怖い」と言われ、ハッと気づかされました。


《20~30歳代は、大手IT企業や日系金融機関に身を置く野心的なキャリア志向だった。一億総活躍時代の到来を先取りし、第一線で働く母親の姿を見せようと、子供が生まれてから、いっそう仕事のアクセルを踏み込んだ。しかし、2008年の国際金融危機が引き金となり、人生の大きな転機を迎えた》

甲田 恵子 AsMama(アズママ)CEO

リーマン・ショック後のリストラとして、勤めていた会社が9割の人員解雇を実施しました。金融機関の倒産を報じるニュースを見てもどこか他人事でしたが、自分の会社でもそうなると、大企業だから安心とか、国が何とかしてくれるとか、そういう時代ではないと実感せざるを得ませんでした。

私自身、団地で育ちましたが、両親が働いて、仕事で遅くなっても、隣の家で夕飯を食べたり、そのまま寝てしまったりと、不安に感じることはありませんでした。子供を預け合うのが普通だったからです。

親の立場に立って考えると、そういう環境があるからこそ安心して働けたのではないかとも思いました。一億総活躍時代で、大人に「働け」と言っても、このままでは子育て世帯は安心して働けません。隣近所で子供を気軽に預けられる仕組みができたら、預かる側も地域とのかかわりや社会参加の機会を持つことができます。地域で頼り合うプラットフォームをつくることが、各家庭の生産性や地域・企業の生産性を高め、ひいては日本の生産性を高める鍵になるのではないかと思います。

《「子育てシェア」のプラットフォーム運営から事業の幅を広げ、商業施設の運営会社や大型マンションの管理組合・デベロッパーなどとの連携が広がる。さらに、地方創生策として、子育て機能を高めたい地方自治体に対し、コミュニティづくりを支援するビジネスにも力を入れ始めている》

多世代交流のためのイベント開催などのノウハウを求める自治体も

単純に子供を預かる・預けるというニーズの自治体もあれば、遊休施設を活用し、さまざまな世代を交流させるためのイベントの開催などのノウハウを求める自治体もあります。

外出を控えている高齢者のために子育て世代が買い物を代行するなど、さまざまな仕掛けで地域のコミュニティ再生に協力しています。地域課題の解決と経済成長の両輪で、自治体の魅力を高めることができればと考えています。

この時、活躍してくれるのが「ママサポ」認定サポーターたちです。子供のケアだけではなく、頼り合うコミュニティの仕組みを広げるアンバサダーや、地域の人たちが出会う機会をつくるイベントオーガナイザー的な役割を担ってもらいます。

《新型コロナウイルスの感染拡大により、子育て世代も新たな課題に直面している。コロナは日本が抱えるさまざま課題を浮き彫りにし、その改革のスピードアップを迫っているが、子育て環境の整備も全く同じであるという》


医療分野や学校、スーパーマーケットなどで働くエッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちやシングルファミリーで働き手が外で働かなければならない人たちは、子供を預ける場所を失い、家に閉じ込めざるを得ない環境もあるようです。子供を地域で見守りあえる環境づくりは喫緊の課題です。

当社が連携し、重点地域と位置付けている地方自治体では、子育てケアが必要なエッセンシャルワーカーをおおむね把握しているので、公民館で子供を預かる機会を定期的に開催したり、地域のサポーターたちとの顔合わせのイベントも頻繁に行い、子供を預けやすい環境を醸成し、孤立させない取り組みを積極的に展開しています。

また、テレワークで自宅勤務していても、仕事と子育てを家の中で両立できない問題に悩む家庭も増えています。これまで、仕事は仕事、子供は預けるというワークスタイルだった人は、子育ても仕事も中途半端になり、ストレスを抱えている親も多いのです。

在宅の仕事中に気軽に頼める環境づくりは、親が仕事やプライベートの時間を確保することに役立ちますが、子供にとっても大事です。子供を家の中だけで育てると、多様性や協調性、地域性を学ぶ機会を失ってしまうからです。

学校や学習塾に預けなくても、隣近所で預け合うことによって、子供も親も社交性を保ち、地域性、社会性を学ぶことができるのです。こうした「ご近所留学」の機会をつくることが非常に重要だと思っています。

それぞれの家庭で、コロナ禍に対する向き合い方もずいぶん違います。感染対策を徹底することで安心したい家庭もあれば、マスク着用や手洗いなどで必要最低限の対策は行うが、日常生活は楽に営みたいと考える家庭もあります。考え方が違う家庭は互いに相容れません。

日本では頼る・頼られるという行為が、そう簡単ではありません。だからこそ、「価値観や考え方が一緒だ」ということが安心感につながります。価値観の多様性を持ちながら、コアな部分の価値観が同じ人たち同士をつなぐことができる器の大きいプラットフォームづくりが必要になります。

日本ではコミュニティの希薄化が進み、社交性が高い一部の家庭を除き、頼り合うことが難しい社会です。家庭を持つまではSNSなど顔の見えないつながりでもよかった人でも、子供が生まれると、地域とつながる必要性を感じます。この機会をとらえて誰かがコミュニティ形成を支援することが重要です。

最近、娘がアルバイト先を探し始め、「最低でも、雇ってくれた会社に恩返しができるようになるまで続けたい」と話していました。娘の手を引いて、協力先の会社を訪問する中で、大人の背中を見て、働くことの意味や社会的責任を感じるようになったのかとうれしく思います。

「地域に自分の居場所があり、つながっているという安心感があってこそ、自宅でも現場でも仕事ができるのだと思います。万一、コロナに感染しても、頼れる地域のつながりがあるということが大事です。企業も、売上・利益だけでなく、従業員の地域連携を支えることにも気を配っていただければありがたいと思います。

*2020年12月7日取材。所属・役職は取材当時。

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