コロナ危機に克つ:kay me(ケイミー)が地方都市の百貨店に出店
オンラインサービスが好調
スタイリッシュで楽に着られるストレッチ性の高いジャージーワンピースなどを展開するアパレルブランド「kay me(ケイミー)」は、新型コロナウイルスの感染拡大という厳しい経営環境を成長のチャンスに変えている。D2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)モデルのオンラインサービスに加え、百貨店への出店を加速し、新規顧客の開拓を拡大している。
ケイミーは当初は、東京・銀座本店、ラウンジ併設の新宿店など商業ビル内にリアル店舗を構えるケースが多かったが、ECなど新しい流通チャネルの台頭でビジネス環境が厳しさを増す百貨店からのオファーが増えているという。
ファウンダーの毛見純子社長は「ケイミーのファンは、管理職クラスの働く女性が多く、百貨店の客層と一致している」と話し、首都圏や地方都市の百貨店への出店に意欲を示す。
東京・有楽町店はマルイに、小田急新宿店は小田急百貨店新宿店、横浜店はそごう横浜店、京都店はジェイアール京都伊勢丹に入居。大阪・梅田店は大規模商業施設ブリーゼブリーゼ、羽田空港店はイセタンハネダストアに入居しているが、2月24日オープン予定の名古屋栄店は名古屋栄三越、3月3日オープン予定の福岡店は福岡三越、3月10日オープン予定の阪神梅田店は阪神梅田本店に入居する。
毛見社長は「地方の中核都市に店を構える百貨店への出店は、新規顧客との出会いの場として魅力的だ。百貨店に訪れたお客様に気に入ってもらい、その後はオンラインサービスの便利さを体感してもらえるはず」と話す。
忙しい女性に喜ばれるオンラインサービスは、コロナ禍で、利用者がさらに増えているという。「試着便」サービスは、気になったアイテムを30万円分まで決済する前に届けて、気に入ったものを買ってもらうサービス。オンライン「カルテ診断」は、必要なシーンや体型、肌や髪の色などから専属スタイリストが「診断書」として提案を即答する。
毛見社長は「東日本大震災の年に起業したケイミーにとって、コロナ禍は初めてのピンチだが、それをバネに、当社のミッションである『挑戦する人を応援する』サービスを充実させたい」と話している。
10年先の未来を予測し、それに向かって準備を
kay me(ケイミー) 毛見純子社長に聞く
ケイミーの毛見純子社長に起業のきっかけや将来の構想、コロナ禍における対応などを聞いた。
――起業する前は、経営コンサルティングを手掛けていた
「小さな呉服屋を切り盛りする祖母の背中を見て育ちました。自分もいつかは起業したいと思っていたのですが、どんなビジネスにするか思い浮かばず、それを探すためにコンサルティング業を始めました」
――起業のきっかけは
「東日本大震災が発生した日、出張先で顧客企業に経営コンサルティングのプレゼンをしていました。震源地と離れていましたが、顧客企業は危機対応に追われ、コンサルティングどころではなくなりました。ホテルに帰って、リラックスできる服装に着替え、天井をぼんやり眺めながら、『志ある人を応援する300年たっても色褪せない事業』を思案し、日本製の仕事服ブランドで働く女性を応援するビジネスモデルをひらめいたのです」
――ケイミーブランドの原点は
「働いている時間に、女性らしくラクでいられる、発想が豊かになるような仕事服を体現しているのが今も主力商品であるジャージーワンピースです。一つのピースでできているのでコーディネートがラクで、上質で自分を華やかに見せることができます」
――その後、商品群を広げた
「ストレッチ性の素材でつくるスーツやアンサンブルにとどまらず、出張や旅のリラクゼーションウェアや、ウィークエンドウェア、さらにビジネス用バッグラインなどを、素材やデザインから社内工房で創り上げています」
――セールをしない理由は
「定価で買った洋服が、後日、セールで店頭に並んでいるのを見たとき、なんともいえない気持ちになるはずです。最近ではセール期間が通常の商品の旬のシーズンにどんどん食い込むという現象が常態化しつつあります。セールの時期を早めることにより、当然セール価格で販売される比率が増加します。セール価格で販売されている商品からも利益を確保しようとするため、同じ定価でもどんどん原価を下げざるをえず、お客様は次第に『定価と品質』の乖離を感じます。素材の原価とともに、職人の工賃である裁断や縫製価格にも影響し、理不尽な値下げ交渉により縫製工場は死活問題にさらされます。ケイミーが『セールをしない』ことを掲げるのは、『いつ購入しても同じ適正な価格で、持続的に商品をお客様に提供したい』という思いとともに、『工場に持続的にその技術を継承してほしい』という思いもあるのです」
――「衣料廃棄ゼロ」を目指している
「お客様のご意見やご要望を直接お聞きする需要予測オンラインサーベイを定期的に実施しています。サーベイ回答を分析し、アイテム生産数を決定することで作りすぎを防ぎます。アパレル業界では、『大量生産・大量消費・大量廃棄』が問題提起されています。衣料の焼却によって発生するCO2が地球温暖化に大きく影響を及ぼすことから、各メゾンブランドや世界的なアパレルブランドの大量廃棄をなくすための新しいアクションが続々と始まっています。大切なことは、生産数を見極め、実際の需要に当てていくことです。最近では、人工知能(AI)を使った需要予測に取り組む企業も出てきているようですが、ケイミーでは、スマホからお客様に投票をしてもらい一緒に生産量を決めます。サーベイの結果によっては、『作らない』と決断するものもあります」
――ケイミーの今後の展開は
「働く女性が、自分を取り巻く環境ではなく、意志や思いによって自己実現していくことをサポートしていきたいです。アパレルによる応援はさらに力を入れていきますが、それ以外のことについても構想を練っています。こうした新しい事業と既存のアパレルがシナジーを生み出せるように工夫したいです。具体的には、ナレッジや経験をオンライン上で共有し、生産性の向上を実現できるようなプラットフォームづくりを考えています。次の10年については時間単位で才能が切り売りされ、知り合いたい人とダイレクトに知り合える世の中になると考えます。人材マーケットでも中間マージンが一掃され、転職ではない新しい働き方が生まれます。その時に、女性に求められる要素は何かについてフォーカスし、グローバルに才能が交換できる仕組みをつくりたいです」
――コロナ禍で悩む人たちにメッセージを
「マスメディアの報道は暗い情報ばかりです。でも、明けない夜はないので、明けていく未来に思いを巡らせれば、幸せな自分に出会えるはずです。気持ちがふさいだ時は、意識して、これから起こる未来の分析に時間を使い、その分析結果を信じて、アクションを起こしていくことをお勧めします」
*2021年1月28日取材。所属・役職は取材当時。