コロナ危機に克つ:味の素労働組合 コロナ禍での試行錯誤
新たな対話のあり方模索 親近感の醸成に腐心
新型コロナウイルスの感染拡大で、労働組合は3密を避けるためオンラインでの活動を余儀なくされている。コロナ禍の前から、働き方改革の一環としてテレワーク導入に積極的だった味の素労働組合も、組合活動全般や執行部対応、労使関連対応などさまざまな領域で、オンラインの活用に取り組んでいる。前田修平・中央執行委員長は「あの手この手で試行錯誤している」と話す。
組合活動全般については、コロナ禍前でも一部で実施していたオンラインによる職場討議や、オンライン座談会・ヒアリング、ウェブを活用したアンケートによる情報収集、意見交換などを実施している。
それでも、すべての組合員とのコミュニケーションは難しいため、広報やアンケートなど間接的な対話の頻度を上げることも心掛けている。
「顔が見える組合活動」により、少しでも親近感を持ってもらおうと、新入社員や組合員、支部執行委員向けに委員長による動画メッセージの発信に取り組むほか、委員長による全国の組合員との少人数座談会を順次実施している。
また、社会貢献の活動に関しても、3密回避を徹底しながら取り組んでいる。味の素グループ労働組合として医療従事者向けのカンパや寄付を実施したほか、これまで訪問していたカンボジア学校建設・遊具寄贈セレモニーにもオンラインで参加した。児童養護施設とのイベントは、メッセージ動画とプレゼント贈呈という形で代替実施した。
新入社員と先輩社員とのオンライン交流会を従業員有志とともに5月の大型連休中に開催したが「多くの参加者があり、好評だった」という。組合では、オンライン懇親会の経費を補助する活動も行っている。
一方、執行部でも、リモートによる執行委員会開催や三役による定期・不定期での専従者との個別対話を行い、コロナの状況が比較的落ち着いていた時期は対面、それ以外はオンラインで行った。
オンラインによる三役からの支部執行部向け教育および対話も、従来、全支部一斉に集合していた内容の代替として、支部ごとに実施。オンライン会議による「専従者の部屋」を常設し、バーチャルオフィスとして活用している。
通常の会議体とは別に、自由に話し合うことを目的とした場をオンラインで定期的に設定。従来は、集合した際の休憩時間や懇親会時に行っていた「ざっくばらんな対話」によって、一体感の醸成を目指している。
このほか、労使関連対応では、基本的には対面で実施していた労使の会議や打ち合わせや事務折衝などはオンラインで代替したほか、労使協議会もオンラインで開催した。
コロナ禍に伴う一部制度の柔軟な運用も行われた。例えば、育休者の復職延長や在宅勤務ルールの緩和、ストック有休使用事由の拡大、子ども看護休暇上限の撤廃、一部首都圏でのマイカー通勤許可などだ。コロナによる影響や会社としての対応について都度労使で確認した。
意識的な+αの対話を
味の素労働組合 前田修平中央執行委員長に聞く
味の素労働組合の前田修平・中央執行委員長に、オンラインでの組合活動の難しさや工夫などを聞いた。
――コロナ禍での1年間の組合活動を振り返ると
「コロナ禍の前から始めていたテレワークなど柔軟な働き方への取り組みで、オンラインでのコミュニケーションがある程度ノーマルになっていたので、仕事も組合活動も比較的スムーズに移行することができた。組合活動でいうと、以前から関係性を構築できている人達とのコミュニケーションは支障なくできている。ただ、課題も見つかっているので、ウィズ・コロナが当面続く前提で、改善に向けて試行錯誤を繰り返していきたい」
――組合員からの要望や不安の声にどのような変化があったか
「当初は、漠然とした不安を訴える人がほとんどだったが、会社としても、組合としても、さまざまな試行錯誤をする中で、オンラインでできること、オンラインでは難しいことなどが整理され、不安・不満のポイントを明確化していった。執行部の検討事項や、労使間の議論に関しても、時間とともに論点が明確化してきた」
――オンラインでのコミュニケーションの難しさは
「オンラインでは、会話をするときのタイムラグや表情・空気感を読み取れないために、発言をためらうことがどうしてもある。その場だけではなかなか聞きたい本音が引き出せていないと感じている。メールやチャット、SNSなどさまざまなツールを使ったコミュニケーションを試しており、どれが正解かわからない中で、もがいているという感覚だ。また、直接、当事者とのやり取りが難しい場合も、日々、業務の接点の多い人から間接的に情報を得るなどの動きも行っている。例えば、ある支部では、月1回、簡単なアンケートを実施しているが、その回答に関する話題をきっかけにして、チャットによるコミュニケーションを2~3往復繰り返し、本人の様子や周辺の様子を聞き、それらの情報をつなぎ合わせるような取り組みも行っている」
――新入社員へのケアは
「私は入社式であいさつする機会があったので、執行部の中では唯一、新入社員たちと対面による接点を持った。その後、まもなく緊急事態宣言に入ったので、地方に実家のある新入社員は早めに戻り、その後はオンラインでのコミュニケーションになり、全く集合せずに研修を終え、配属も1カ月延びた。私たちは、新入社員の声を聞くことしかできないので、組合も話し相手のひとつであると認識してもらうための活動に取り組んでいる。今年も新入社員が入ってくるが、顔の見える活動にしていくために、執行部紹介の動画配信や、経歴を紹介して親近感を持ってもらうなどの工夫をして、新入社員たちの心理的なハードルを下げることができないかと考えている。また、組合が主導したわけではないが、昨年の大型連休に開いた先輩社員とのオンラインの交流イベントは参加者が多かったので、こういう場所に来てもらうことも大事だ」
――働き方改革に先進的でホワイト企業のイメージが強い
「組合としては、若手社員が入社前に抱くイメージと、実際の現場とのギャップで悩むケースが増えないように留意している。例えば、テレワークは制度上全員が実施できるが、営業はお客様次第になってしまうのが現実だ。また、実際の業務においては泥臭い面もまだまだあり、正しい実態を若手がイメージできるように伝えることが重要。同時に、お客様にも柔軟な働き方について理解してもらえるよう努力し続けることも必要であり、現状の改善によりギャップをつくらないよう工夫していくことが大事になる」
――ウィズ・コロナは当面続きそうだが
「オンラインの活動が中心となっているために、組合活動では、より現場の状況がつかみにくくなっているのは間違いない。悩み事を抱え、周りに十分に相談できずに休業や退職に至り、事前に組合がその悩みを把握することができず悔やまれたケースもいくつかあった。ウィズ・コロナの状況が2~3年続いても、社内外から働きやすい・働きがいのある会社として評価してもらうことができるのか危機感を持って対応に当たっている。一方で、オンライン会議の5分前にログインして対話をしたり、休憩中もつなぎっぱなしにして意識的に雑談を取り入れるなど、職場で様々な工夫を施している事例も多くあるため、それらの工夫を有効に横展開して、コミュニケーションを円滑化し、問題があれば早期に把握できる神経のような組織・環境をつくっていくことが大事だと考えている」
*2021年3月8日取材。所属・役職は取材当時。