コロナ危機に克つ:帝人グループ「ニュー・ノーマル」という働き方改革

業務改革へ五つの課題


帝人グループの人事・総務管掌補佐日本地域人事・総務統括で、業務変革推進室長を兼務する唐澤利武理事は、生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大防止を図りながら、業務改革を進める「ニュー・ノーマル推進タスクフォース」の活動について語った。コロナ禍で浮き彫りになった課題の解決と、ポスト・コロナに向けた安心・安全で快適な働き方と効率・生産性の両立に向けた取り組みを加速させる方針を明らかにした。

帝人グループは「未来の社会を支える会社」を長期ビジョンに掲げ、継続的なイノベーションの創出を追求している。イノベーティブな風土を社内に育てるには、人材の多様化と働き方の多様化が不可欠との考えを示している。

唐澤氏は「これまでもテレワークなど多様で柔軟な働き方の施策を進めてきたが、社員のマインドセットを変えるのは容易ではなかった」と話す。しかし、コロナ禍がきっかけとなってテレワークが常態化すると、課題も明らかになったものの「意外とできる」という確信も生まれたという。

そこで、柔軟な働き方への流れを加速させるために設置したのが「ニュー・ノーマル推進タスクフォース」だ。コロナ禍以前から、業務改革推進の旗振り役だった唐澤氏を責任者に据え、コロナ禍によって浮き彫りになった課題の解決を図り、業務改革の推進にアクセルを踏む狙いだ。

ニュー・ノーマル推進タスクフォースは、2020年4~5月の緊急事態宣言が終了した後に、ウィズ・コロナで対処すべき、業務改革における課題の解決を目指して立ち上がった。「ペーパレス」「仕事の可視化」「コミュニケーション」「リモートワークするにあたっての人事制度」「オフィススペースの活用」という五つのワーキンググループ(WG)から構成されている。

タスクフォースの議論の中で、コロナ禍においてテレワークの導入は予想以上にスムーズに進んだが、在宅勤務が続く中でコミュニケーションをどう保つのか、また、部下の仕事の進捗状況をどのようにして把握するのかが、重要な課題として浮かびあがっているという。

唐澤氏は「以前は部下が上司の目の前で仕事をしていたので、顔を合わせたときに仕事の進捗状況を聞くことができた。在宅勤務の割合が増える中で進捗状況を把握するためには、デジタルツールを使って業務を可視化することが必要だ。すでにツールを導入している部署もあるので、改善を繰り返しながら進めていきたい」と話す。

産業界では、ワクチン接種が進めばコロナ以前の働き方に戻るという考え方から、ポスト・コロナでも以前の働き方には戻らず、ニュー・ノーマルが一気に進むという考え方まで幅広いが、帝人グループでは当面、ポスト・コロナでは出社率50%程度を想定し、どちらに振れても対応できる体制を整える方針だ。テレワークが常態化した場合は、本社ビルの移転も視野に入るという。

唐澤氏は「コロナ禍により社員が危機感を共有することで、業務改革が一気に進む兆しが生まれた。この波を一気に進めたい。改革の果実を享受できることが大事で、まずはペーパレスを突破口に改革を進めたい」と話している。

取り組み、コロナ禍前から
帝人グループ 唐澤利武理事に聞く


帝人グループの唐澤利武理事に、感染防止対策とポスト・コロナの業務改革について聞いた。

唐澤利武 帝人グループ理事

――業務改革への取り組みがコロナ禍で加速した

「コロナ禍で進めている業務改革のほとんどが、パンデミックが起こる前から取り組み始めていた内容だ。もし、コロナ禍がなければ、もっと草の根を張るような取り組みをしなければならなかったと思う。コロナ禍で危機感を共有し、業務改革と働き方改革の道筋は一本であるとの自覚が広まり、社員の背中を押している」


――WGが取り組む五つの課題の中で、進捗が期待できる分野は

「業務改革を進めるには、その効果を実感してもらうことが重要で、ペーパレスの進捗がカギを握る。まずは、書類にハンコを押すための出社をゼロにし、そのうえで必要な目的のために出社をするという形にしたい。汎用型の業務フローをつくったが、各職場で導入が進むに伴い、押印のための出社はどんどん減っている。紙の書類を見なければできない仕事も、書類を電子化し、デジタルのストレージに収納し、どこでも閲覧できるようになっている。今後は、単に紙をなくすだけではなく、デジタライゼーションによって、業務を見える化、効率化することが重要で、その手立てを用意していく」

――リモートにおける課題は

「テレワークが進む中で、浮き彫りになった課題が社員間のコミュニケーションと、業務進捗の把握の問題だ。ウェブミーティングは仕事だけのつながりになりがちで、仕事に関係ない話が次のアイデアに結びついたり、顔を合わせたときに思いついたことを話すといった社員同士の交流が難しい。タスクフォースとしては、サーベイによる職場ごとの現状把握と、課題解決のための支援の実施というサイクルを定期的に回していく」


――仕事の可視化はどうか

「在宅勤務になると、上司が部下の仕事の進捗状況を把握するのも大変だ。リアルでは何とかごまかしていたことも、リモートではほころびが目立ってしまう。タスクフォースの会議において、業務進捗を把握する仕組みを試験的に導入してみると、案外スムーズに仕事が回るとの声が多い。始める前は大変だが、いざやってみると意識改革にもつながる。こうした仕組みは、マニュアル化されていない仕事に導入すると効果が高い。本来はマニュアル化されるべき業務でも、実はマニュアルがないものがあぶり出される効果もある。業務を見える化すると、個人によって繁閑に差があるような状況を是正し、標準化を進めることができる。人事評価に必要な定量的評価に活用できるかどうかはまだわからないが、うまくいけば参考資料にはなるだろう」


――働き方改革の課題は

「19年3月から12月と、20年の同期間の労働時間を比較すると、年間の実労働時間はわずかではあるが増えてしまっていた。コロナ禍で旅行や帰省ができず、年次有給休暇の取得が減っているためだ。また在宅勤務では、役所の手続や通院などのちょっとした用事は、1時間ほど勤務時間を調整すれば手軽にできる。これまでは休まなければならない用事がある時にだけ有給休暇を取得していたが、今後は在宅勤務で学んだ新しい時間の使い方の作法を身に付け、単に心身を休めるためだけでも有給休暇を取るようにマインドセットを変えていく必要がある。また感染状況が沈静化し、ポスト・コロナになれば、在宅勤務と出社勤務のバランスをどう取るかが課題になってくる。現段階では難しいが、将来的には職場のコミュニケーションを活性化するために、定期的に出社日を決めて、互いに顔を合わせるような取り組みも必要になってくるのではないか」

*2021年3月24日取材。所属・役職は取材当時。

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