コロナ危機に克つ:旭化成労働組合の「ミッション」&「ビジョン」

「職場自治」「対話」推進 運動方針に盛り込み


旭化成労働組合は、ミッション(使命)とビジョン(中期的目標)の実現を目指し、全員で創る「職場自治」と、ひとり一人との「対話」を通じた参画の推進という具体的な取り組みを進めている。旭化成労働組合の小林竜介・中央執行委員長は「コロナ禍では、先輩たちが築いてきた二つの基盤活動を愚直に進めることが重要になってきている」との考えを示している。

旭化成労働組合は、組織の存在意義であるミッションと当面の目標やありたい姿を記したビジョンを2006年に策定し、その実現を目指して三カ年ごとに運動方針を決めている。2019年度から2021年度の運動の基本方針は「ひとり一人と共にミッション・ビジョンの実現を目指す」ことだ。

組合員ひとり一人がミッション・ビジョンの実現に向けて自ら働きかけ、ひとり一人がミッション・ビジョンを体現している状態が目標。この三カ年では、ひとり一人が知り、ひとり一人と一緒に考え、ひとり一人と一緒に創ることを通じて、組合員と旭化成労働組合がともに成長することを目指している。

こうした基本方針を達成するための具体的なプロセスとしては、全員で創る「職場自治」がある。自分たちで自分たちの職場を「強い現場」にしていくための「自治」の取り組みで、課題の整理や課題についての議論、問題提起と解決に向けた職場単位での労使協議、組合員へのフィードバックというサイクルを回す。

もう一つのプロセスが、ひとり一人との「対話」を通じた参画の推進だ。組合員の「声」やそれをつなぐ「対話」によって、新たな気づきや共感を広げ、ひとり一人が行動している状態を目指す。組合員と組合役員の対話や組合員同士の対話、職場や会社を越えた交流、組合機関紙やホームページを通じた対話などを展開する。

自分で考え、自ら積極的に関与していく自律的な社員の育成は、日本の企業の競争力強化や従業員の生産性向上にとっては重要な課題となっている。旭化成の労使では、職場単位でひとり一人の関与を促す取り組みを継続していることが特徴だ。

一方、コロナ禍ではテレワークが進み、職場の連帯感が薄れがちになっているケースも少なくない。また、対面で「対話」をする機会を設けるのも、コロナ前のように簡単にはいかないのが現状だ。

小林氏は「数年後に振り返った時に、コロナがきっかけで今の取り組みや工夫が生まれたと言えるように、継続することと変えていくべきことを検討している。コロナ禍での対処の中で、各支部や本部の知恵や工夫でうまく機能するケースも出てきた」と話す。

今後も続けていくこととしては、ミッション・ビジョンと三カ年運動方針に基づく対話活動と職場自治活動という二つの基盤活動だ。

コロナ禍の新たな工夫の例としては、対話活動については対面とリモートを併用することで、これまで接点が少なかった組合員との接点強化につながっているという。職場自治活動については、意見集約の少人数化や職場課題と対応のデータベース化による情報共有促進、職場労使ミーティングのリモート併用などに取り組んでいる。

集合研修などは、本部主催はリモート開催、支部主催はリモートと集合の組み合わせを行う一方で、交流イベントやセミナーはウェブ化を行うことで、時間や場所の障壁が下がり、参加者層の拡大や支部を跨いだ相互参加が可能になるなどの効果も出てきているという。

タテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーション大事
旭化成労働組合 小林竜介中央執行委員長に聞く


旭化成労働組合の小林竜介・中央執行委員長に、コロナ禍で工夫した労働組合活動を踏まえ、今後の取り組みや課題などを聞いた。

小林竜介 旭化成労働組合中央執行委員長

――今後の取り組みについての考え方は

「旭化成流の働き方改革である『人財と組織の活力と成長』の実現に向けた取り組みに、組合としても力を入れる。旭化成は2017年に『働き方に関する労使専門委員会』を設置し、人と組織がいきいきと働き、成長し続ける会社であり続けることを目指している。そのために、社員全員が活躍できる『環境づくり(働きやすさ)』と、人と組織が成長する『組織づくり(働きがい)』の二つの軸で取り組み中だ。組合としては、将来につなぐべき旭化成のDNAや強みが何で、そのために何をするべきなのか、短期から長期の視点で、地に足の着いた検討や取り組みをしていきたい」


――そのために、組合は何をすべきと考えるのか

「これらを進める上でキーになるのはコミュニケーションだ。観点は、ひとり一人のつながりによる安心感や一体感だけでなく、安全やコンプライアンスのベースとして、あるいはコロナを機にしたイノベーション創出やビジネスモデル変革など、様々な基盤として重要になる。特に旭化成は事業が多様なので、タテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーションが大事であり、それもあって昔から『さん付け』の文化が浸透している。組合は、社内や社外をつなぐネットワークを仕組みとして持っているのが強み。社内においては現場から経営というタテの軸(各層経営懇談会など)と、事業・地区をまたぐヨコの軸(支部間情報共有や連携)、それらを組み合わせたナナメの軸のほか、社外においては産別組織(UAゼンセン)や、事業分野別の組合ネットワーク(化学や医療)などもある。これらのネットワークを有機的につなぎ、コミュニケーションの架け橋の役目を果たしたい」

――今三カ年運動で取り組む「ひとり一人と共に」の活動方針の進捗は

「組合の役割として、ひとり一人が会社以外のことにも目を向ける手助けをすることが、これまで以上により重要になると考えている。社会的にはサステナビリティの要請があり、個別的には働きがいや生きがいの多様化への対応も求められている。組合としては、その重要性についてはこれまでも言及しており、地域や政治とのパイプなどの手段も持っていることから、貢献できることは多いと認識している。今、次期三カ年運動方針の策定に向けた議論が始まっている。三年に一回のこの時期に合わせて、組合員の意識調査を行ったが、その結果、組合員の関与意識があまり変わっていないことがわかった。アンケートは昨年10月に行われたもので、コロナ禍の影響はあると考えられるが、それでも、意識改革には粘り強く取り組み続けることが必要だと改めて実感した。ここ数年、新入社員やキャリア採用も増えているので、組合のことをよく知らない社員が増えている。しかも、コロナ禍で接点が減ってしまっているので、維持するだけでも大変だ。しかし、目標は高く掲げたい。『ひとり一人と共に』というコンセプトは大事で、引き続き追求していきたい。コンセプトは同じでも、やり方の工夫は目一杯やろうと考えている。あいさつや雑談を含めたコミュニケーションができる環境や雰囲気づくりを積極的に働きかけていく。コロナ禍でオンラインでのイベントが普及し、支部間での相互乗り入れや共有が進んでいる。この仕組みをうまく活用すれば、支部の壁を越えて、組合員同士が交流しやすくなる。さらに、社会に目を向ける働きかけもしたい。旭化成労組の先輩たちのように、社会問題に積極的に関与し、労使で解決できないような課題について主体的に社会に働きかけられるような意識を醸成できればと考えている」

*2021年3月26日取材。所属・役職は取材当時。

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