企業経営の新視点~生産性の日米独ベンチマーキングからの学び⑬

第13回 コロナ禍 乱高下する労働生産性 研究開発領域にも人材多様性を

これまでの回でも触れてきたように、経済成長と発展の基盤は生産性にある。ただ、足もとをみると、コロナ禍に伴う経済的な混乱を受けて労働生産性が乱高下する国が多くなっている。実際、日本生産性本部がOECDデータベースをもとに計測した労働生産性は、2020年4~6月期に多くの国で1年前より大きく落ち込んだ。2020年10~12月期の労働生産性をみても、米国は1年前より4%近く高い水準で推移しており、日本もほぼ前年水準にまで回復してきているが、英仏では経済が停滞する中で、雇用維持を図ったため、依然として1年前の水準を4~7%下回る状況にある(図1参照)。


今後、労働生産性を向上させるには、こうした状況にも対応しながら、長期的な視野に立った取り組みが欠かせない。日本生産性本部による支援のもとで米国ブルッキングス研究所が行った研究では、人材・研究開発・設備への持続的な投資が極めて重要であり、日本の場合、特に研究開発(R&D)の品質改善の余地があると指摘している。


グローバルなコラボレーションの少なさが課題


日本のR&Dをめぐっては、研究開発活動におけるグローバルなコラボレーションが米国やドイツより少ないことが課題となっている。例えば、R&Dの成果である特許には、国内特許と国際的な研究開発にもとづく国際共同特許(GCP)があり、一般にGCPはイノベーションの成果としての質が高いと評価されることが多い。実際、「特許の質」指標をみても、全ての指標でGCPの平均的な品質は、国内特許より大幅に高くなっている(図2参照)。

日本のGCPは、1970年代初頭に全特許の約0.4%に過ぎなかったものの、近年のシェアをみると3%以上まで上昇している。しかし、米国ではGCPが全特許の約10%を占め、ドイツでもほぼ25%を占めている。両国と比較すると、まだ約3%に過ぎない日本のGCPシェアは、非常に低いといわざるを得ない。そればかりか、中国(18%)や韓国(4.5%)といった近隣諸国よりも低く、単に地理的な要因だけでは説明することができないことを示している。

つまり、日本の場合、グローバルな研究開発活動の成果の一つといえる質の高い特許(GCP)の割合が米国やドイツより大幅に低くなっていることが、特許全体の品質で米独に後れを取る要因の一つにもなっているのだ。

投資促進機関の積極的な活用を


こうした状況を打開するには、日本の発明家がこれまで以上にグローバルに活動できる環境を整えることが重要だ。そのためには、既に連携ができている国とのコラボレーションを深め、発明者間でより多くの相互作用を促進する仕組みの構築が欠かせない。

また、日本の発明家が国際的な協力・交流を自由に行うことを妨げる障害を取り除く必要がある。国境を越える経済活動は、より多くの費用がかかる。例えば、国境を越えた貿易や投資は情報が非対称的であることから、監視・調整に追加的なコストがかかりがちだ。同様のことは、多国間で研究開発を行うときにも当てはまる。こうした制約を緩和するため、様々な政策的な支援やインセンティブを検討する必要があるだろう。

主要国は国家戦略としてイノベーションを奨励するにあたって、直接的な補助金や助成金にリソースを割り当て、生産性や技術力の高い外国企業や専門的な人材の誘致に力を注いでいる。国際的な活動には多大なコストや時間がかかることを考えれば、国内に誘致してしまった方が結果的に効率的で効果も見込みやすい。しかし、こうした取り組みが日本で他国以上にできているかというと心もとないのが実情だ。高度なスキルを持つ米欧の人々を日本に引き付けることが十分にできていないことを考えると、日本がより戦略的で組織的な活動をしていくことが求められるだろう。

ブルッキングス研究所は、解決策として投資促進機関の積極的な活用を提案している。例えば、日本貿易振興機構(ジェトロ)は、予算や人員などの点で世界でも最大級の投資促進機関(IPA)である。ジェトロは、日本企業の貿易や海外進出などに大きく貢献しているが、他国と同様に、外国の多国籍企業を日本に誘致するための取り組みもこれまで以上に活発に行うように戦略を見直し、それに合った組織改革等を実行すれば、現状は大きく変わりうる。

このような取り組みにより、高度な技術を持つ企業や人材が国内に流入すれば、それがグローバルなコラボレーションを促進し、より品質の高いイノベーションをもたらすことになる。日本でも、2018年に労働者不足や生産年齢人口の減少に対処するため、外国人労働者の制限緩和を骨子とする出入国管理法の改正を行うなど、少しずつ変化が生まれつつある。今後は、さらに踏み込んだ取り組みとして、イノベーションに貢献できる外国企業や高度な専門知識を持つ人材の行き先としての魅力を高めるインセンティブの提供など、より積極的な政策展開と無形資産への投資をはかっていくことが重要だ。研究開発領域にも人材の多様性が求められるのだ。そうした取り組みの成否が日本のこれからの生産性向上、特にアウトプットを高めることにもなるだろう。


(日本生産性本部 生産性総合研究センター 木内 康裕 他)

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