コロナ危機に克つ:横浜中華街 江戸清が取り組む新戦略

宅配、ECサービス拡充 「新しい生活様式」に対応

横浜中華街で直営3店舗を展開するブタまんの江戸清が、新型コロナウイルスによる危機に対応するための新戦略に取り組んでいる。総合スーパーマーケットや食品スーパーなど量販店との取引拡大や、宅配・ECサービスの拡充などコロナ禍での「新しい生活様式」に対応したサービス力の向上を急ぐ。鍵を握るのが、江戸清ブランド力のさらなる強化だ。

江戸清のB to C 領域の事業は「江戸清のブタまん」を代表とする中華点心・中華総菜などを展開しており、直営3店舗のほかECサイト、外商ルートを通じて、全国の消費者向けに「江戸清ブランド」を展開している。

B to B 領域では、精肉や中華点心・中華総菜のほか、多様化する食文化に対応し、ハンバーガー用パティやハンバーグ、とんかつ、メンチカツなどのさまざまな食肉加工品を製造している。

コロナ禍では、居酒屋やレストランが営業自粛などの厳しい環境に置かれる一方で、ファストフードやテイクアウト、デリバリー、弁当・総菜などの中食分野へと需要がシフトした。

こうした変化に対応するため、昨年秋にニューノーマルに適応する新しい経営戦略を立案し、不採算部門の整理縮小と新分野の強化に取り組んだ。コロナ禍で客足が伸びている総合スーパーや食品スーパーなどの量販店向けの取引を拡大するほか、とんかつ弁当チェーンとコラボレーションするなど商品開発にも力を入れ、宅配・ECサービスを拡充。SNSを活用したブランド戦略にも乗り出している。

江戸清は創業以来、戦禍や災害など多くの苦難を乗り越えてきた。高橋伸昌会長は「危機の時に重要なことは原点に立ち返ること。コロナ禍の今こそ、『事業を通じて社会に奉仕する』という社是の実現に向けて、『品質優先』『顧客志向』『食文化の創造』という企業理念を徹底することが必要だ」と話す。

とりわけ、品質優先の考え方は「食」の生命である品質を最優先し「信頼」に応えるもので、ナショナルブランドでの取引が拡大することで、品質と信頼性を高めることの重要性は増しているという。

同社は環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001と、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格であるISO22000をすでに取得しており、現在は食品安全のためのシステム規格であるFSSCの認証取得へ向けた手続きに入っている。

FSSCは、食品安全をフードサプライチェーン全体で実現するという考えから、食品業界全体に取得を促す動きが加速しており、大手食品メーカーや小売との取引条件となるケースが増えている。

高橋会長は「ブランドとはお客様との約束であり、信頼と信用の積み重ねである。永くしっかりと守り育てていきたい。また、新しいお客様と接点を持ち、コミュニケーションを広げる取り組みは、コロナ禍が終息した後、江戸清のファン層の拡大と業績を押し上げることにつながると信じている」と話している。

「防戦一方」から「守りながら攻める」へ
江戸清 高橋伸昌会長(横浜中華街発展会協同組合理事長)に聞く


横浜中華街の商業振興を担う「横浜中華街発展会協同組合」の理事長でもある江戸清の高橋伸昌会長に、コロナ危機に克つための中華街の取り組みを聞いた。

髙橋伸昌 江戸清会長

――コロナ禍で横浜中華街の状況と組合の対応は

「国内で感染者が出た2020年3月には、横浜中華街の人流は9割減となり、街は夜になると真っ暗になる状態が続いた。組合員からは『理事長、この先どうなるのか、どうしたらいいのか』といった不安の声や相談が多数寄せられたため、感染終息を見据えたロードマップをつくり、それまでどう対応すべきかを示した。中国の武漢から感染が広がったと報道されたため、悪意に満ちた誹謗中傷をされるなど辛い時期もあった。横浜中華街は観光地の色彩が強く、コロナ禍の影響は計り知れない。感染の収まりと再拡大を繰り返し、客足の増減に翻弄される状態が続いたが、海外でワクチン接種が進み、ようやく国内でもワクチン接種が本格化して、出口が見え始めた。このため、ロードマップを書き直して、21年5月27日の総会で発表した。昨年度は防戦一方だったが、今年度は守りながら攻め、来年度は前に進めるようにしたい。マスマーケティングやリアルのイベントが開催できない段階では、それぞれのお客様との関係を大事にするファンマーケティングを展開していく」

――映画祭を開催している。その狙いは

「横浜中華街映画祭は、横浜中華街が掲げる新しいブランドビジョン『リピーター溢れる横浜中華街』の取り組みの一つだ。『いつの時代も人をワクワクさせる場であり、人々に愛される街でありつづけたい』という中華街の想いに賛同した5人のクリエーターに、後世へと『紡ぎ・繋がり・残す』ために製作していただいた。映画を通して、楽しく気軽にこの街のことを知っていただき、皆さまの身近な存在になりたいと願っている。1859年の横浜港開港からほどなく誕生した横浜中華街は、日本と中華の人が協力し、地域の皆さまに支えられながら今日の賑やかな街になった。もっと横浜中華街を知っていただくために、多くの人の笑顔を生むエンターテインメントの力を借りて、映画祭を開催することにした。映画の舞台は横浜中華街。『紡ぎ、繋がり、残す』をテーマに、5つのショートムービーをオンライン配信している。コロナ禍への対応でオンライン配信になったことで、より多くの人に見ていただける。全国には横浜中華街のことを知らない方々もまだまだたくさんいるはずだ」


――コロナ禍での教訓は

「新型コロナ以前は、何もしなくても大勢の観光客に横浜中華街にお越しいただいた。その時は、目の前の仕事をさばいていくことに精いっぱいで、お客様に感謝の気持ちを伝える余裕がなかった。しかし、コロナ禍になって人流が減った今だからこそ、来店していただいた一人ひとりのお客様に感謝の気持ちを伝えたいと心から思う。店頭では『ありがとう』と書いた感謝カードを配布している。ワクチン接種が進み、正常化への道を歩み始めているが、ポスト・コロナになっても、コロナ前の状態に完全に戻るとは考えていない。だからこそ、映画祭などでつながった新しいファンとの絆も大事にして、横浜中華街をさらに盛り上げていきたい」

*2021年6月7日取材。所属・役職は取材当時。

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