コロナ危機に克つ:東北電力労働組合 オンラインへの挑戦

教育研修などで成果 時間・場所の制約をクリア

東北電力労働組合は、労働組合主催の教育研修や講演会などのイベントのオンライン化で効果を上げている。新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から取り組んだオンライン研修会では、参加者が倍増したほか、アンケート調査でも参加者の満足度が総じて高い。

東北電力労組が定期開催している「イクボス」に関する研修会は、40~50人程度の参加者を見込んでいたが、コロナ禍でのオンライン開催で参加者が250人を超えるケースもあった。対面で開催していた時は参加者が限定されていたが、幅広い層の参加につながった。

イクボスとは、職場で働く部下やスタッフのワークライフバランスを考慮し、部下のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績や結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司を指す。研修会には、労働組合が進める男女平等参画の実現とダイバーシティの推進にむけて、広くイクボス文化を職場内に定着させる狙いがある。

オンライン開催によって幅広い層に門戸を開いたところ、組合員管理職のみならず若年層や子育て世代も参加するなど、イクボスへの関心の高さがうかがえた。田口正信・東北電力労働組合本部執行委員長は「対面のイベントでは時間や場所の制約があるのに対し、ウェブ開催では多くの人たちが参加できるメリットを痛感した。これだけ多くの人が社会課題への高い意識を持っていることを知り、驚いている」と話す。

また、組合で参加者に対してアンケート調査を実施したところ、概ね好反応だったという。「目の前の仕事に打ち込むことは重要だが、同時に社会の課題や地域の課題、職場の課題を俯瞰的に見て、意識が変わった」などの声も寄せられた。

東北電力労組では「人材育成の活動は労働組合の存在価値である」と位置づける。デジタル時代に生産性を高めるためには、人材の多様性を育むことが重要と考えている。田口氏は「人の集まりは足し算にしかならないが、そこにコミュニケーションが加わることで掛け算となる」と話す。コロナ禍ではあるが、今年度より新たな人材育成プログラムを立ち上げ、これからの組合活動を創り・支え・牽引すべく、マネジメント能力や高いコミュニケーション能力を持った人間力豊かな人材の育成をめざしていく。今後も、教育や歴史、政治など幅広いテーマを取り上げ、人材育成に資する組合活動に力を入れる方針だ。

ポスト・コロナでは、参加者が集まって熱のこもった議論を繰り広げる従来のイベントの開催も可能になる。田口氏は「オンライン講座の経験から、パソコンの画面越しでも、熱意は十分に伝わることがわかったので、テーマや参加希望者などの内容を精査して、対面かオンラインか、ふさわしい方法を選択できる」と話している。

新しい働き方、さらに深耕
東北電力労働組合 田口正信本部執行委員長に聞く


東北電力労働組合の田口正信・本部執行委員長へのインタビューの主なやり取りは次の通り。

田口正信 東北電力労働組合本部執行委員長

――コロナ禍で組合員の働く環境はどう変化したのか

「国の非常事態において国民保護法に基づく指定公共機関の対象事業者であり、コロナ禍においても電力の安定供給が強く求められる電気事業に携わる者として、公私ともに感染予防を徹底した生活を送ってきた。職場内では3密を避けるために、執務室を分ける分散勤務やパーテーションの設置はもちろん、フレックス勤務、在宅勤務の運用ルールを感染防止の観点からも見直し、拡大を図って対応している。発電所においては交代勤務になるので、要員を確実に確保するために、他の社員との動線を徹底して区別するなどして、より慎重な対応を行っている。一部の職場では精神的な負担が大きい期間が長く続いている。安定供給の確保に向けた設備保全や、自然災害への対応をはじめ、コロナ禍においても感染防止を徹底しながら現場作業に従事しなければならない職場はテレワークなどの働き方がなじまない。職場の実情に応じて新しい働き方をいかにしてつくり上げていくべきか、労使で知恵を出して模索をしている。新たな働き方導入以降の状況については適宜、労使で検証を進め、各県、現場の組織である支部を通じて、職場課題や同業他社の先行事例の把握に努め、労働環境や労働条件の整備に取り組んでいる」

――ポスト・コロナへむけての考え方は

「感染拡大防止の視点もそうだが、新しい働き方は次の時代のスタンダードになる。ワクチン接種が進んでも、新しい働き方をどうやって深耕させていくのかは引き続き重要であり、東北電力の特性を踏まえた制度を作り上げて、生産性の向上に結び付けていくことが課題になる」


――コロナ禍で労働組合活動はどう変わっているのか

「組合の役員に日ごろから言っているのは、いついかなる時代においても、心と体を職場に近づけるということを一番頭に入れて活動するようにということだ。しかし、コロナ禍では3密の防止によって、熱量が感じにくくなっている事情がある。それを補うべく、本部と県本部と各支部がオンラインで意思疎通が可能になるように、インターネット回線、パソコン、ウェブカメラなどの機材を徹底して確保し、運用している。東北電力労組は新潟を含め東北7県に県支部を設置しており、エリアが広く、組織が大きい。対面の会議では時間的制約があるが、ウェブの環境を活用することで、よりタイムリーな開催となるというメリットもある。内容を精査しつつ、対面開催とオンライン開催を選択して対応している状況だ。労働組合主催の教育や講演会については、対面開催では参加者が限られていたが、例えばイクボスのような男女平等参画の教育などは、オンライン開催にすることで多くの方々に聴講してもらうことができている。今後の活動の大きな柱の一つとして、オンライン開催を活用していきたい。一方で、直接、熱量を感じることがやりがいにつながる組合役員の中には悩みを抱えている人もおり、試行錯誤を続けている。こうした各職場の組合役員の活動を後押しするためには何が必要かを検討し、情報を集約し、共有化できるものは共有化していく。若い人は3密回避で集うことができないので、コロナ禍でも青年活動を支援するために、SNSも積極活用して情報発信に取り組んでいる」


――東日本大震災から10年が経過した

「東北電力と労働組合は震災の復旧復興とともに歩みを進めてきた。震災は管内に甚大な被害をもたらし、震災直後、発電所は供給力の約半数を失うという未曽有の事態に見舞われた。その中で、自らも被災者でありながら、設備復旧やお客様対応などの役割と責任を果たし続けた組合員たちの姿は忘れることはできない。使命感と責任感はまさに東北電力のDNAであり、これからも守り続け、次の世代に語り継いでいきたい」


――今後の組合活動の方向性や抱負は

「電気事業を巡る環境が激変する中では、職場で働く人たちが取り残されないことが何よりも大事だ。日本で初めて生産性労働協約を締結した労働組合として、『伝えた』という行為を重んじるのではなく、『伝わった』という結果を重視する。これから自分たちがどこに向かおうとしているのかを知らずして、生産性を高めることはできない。また、最前線の現場の情報を経営側へ伝えていく。生産性労働協約の精神で、経営の説明責任とその補完としての労組の役割を丁寧に果たしていく」

*2021年6月14日取材。所属・役職は取材当時。

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