コロナ危機に克つ:東北インテリジェント通信 社内変革加速へプロジェクトチーム発足
「まず自分たちの解決策」 DX活用し、“成果”を外販化
東北電力の子会社で通信事業とICTソリューションの提供を手掛ける東北インテリジェント通信(略称:TOHKnet、トークネット)は、東北電力グループ中長期ビジョンとTOHKnetプラン2025の実現にむけた取り組みを更に加速させるため、「変革加速プロジェクトチーム」を7月1日付で発足させた。ICTを活用し、社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)などを進める一方で、有効なソリューションについては、外販にむけ新たな商品・サービス化を図る。
トークネットの齋藤恭一社長は、「コロナ禍でさまざまな課題が浮かび上がる中で、まず自分たちで解決策を考え、やってみることが大事になる」と話す。機動的に解決策を試すことで、新しいサービスを生み出そうという狙いだ。
プロジェクトチームのタスクは、営業、工事管理、間接業務のDX・強化の3点だ。特にすべての組織に共通する間接業務のDXは、若手を中心に社内の課題や解決法のアイデアなどを募り、必要な設備や環境があれば先行投資で対応して、全社横断的にDXを進めていく。
2020年春の緊急事態宣言発出以降、トークネットもテレワークにチャレンジした。しかし、環境が整っていなかったため、さまざまな部門で生産性の維持に苦労したという。
例えば営業活動では、対面営業が非常に難しくなって顧客と顔を合わせる機会が減り、県をまたぐ移動を伴う活動も停滞した。こうした事態に対応し、営業活動では顧客のオンライン環境に応じたウェブ会議を実施した。メルマガを活用するなどインサイドセールスにも力を入れた。
齋藤社長は「デジタルの営業手法を進める一方で、リアルの重要性を再認識した。今では、リアルとデジタルを組み合わせながら、効果的なコミュニケーション策を採っている」と話す。
「変革加速プロジェクトチーム」は、ICTソリューションを提供している企業として、まずは設備の整備・O&M(Operation & Maintenance:運用管理と保守点検)から営業に至る、あらゆる自社の業務の中でDXへ向けたさまざまな活動に取り組むことによって、地に足のついたソリューションを創ることを目指す。
齋藤社長は「まず自社でしっかりとDXを進め、さまざまなICTソリューションを活用し、生産性を高めることが重要だ。50を超えるサービスメニューを提供しているが、自分たちの会社でもいいものは自信をもって提供できる。業務の改革・改善へ向けて試行錯誤したノウハウの蓄積が、新しい商品・サービスの開発のヒントとなり、お客さまへの提案力を磨いていくはずだ。社員には新しい仕事のやり方やソリューションを『創る』、そして地域のお客さまへ『繋ぐ』を大切にしようと話している」と述べた。
ビジネス機会が拡大 デジタル空間に急速シフト
東北インテリジェント通信 齋藤恭一社長に聞く
東北インテリジェント通信(トークネット)の齋藤恭一社長に、コロナ危機への対応やBCP(事業継続計画)などについて聞いた。
――コロナ禍でビジネス環境はどう変わったのか
「人々の活動がリアル空間からデジタルサーバー空間へ急激にシフトし、その動きは加速している。これまでデジタル化、オンライン化が進まなかった領域でも、そうしたニーズや活動が広がっている。ビジネス面ではワークスタイルが多様化していて、勤務形態や商談のやり方が大きく変わっている。行政の仕事も、ワークスタイルの変化に加え、給付金、助成金などの支援策が増えたほか、ワクチン接種のためのシステム連携など通信回線の強化が求められている。教育関連ではギガスクール構想が立ち上がり、オンライン化の整備も進んでいる。足元で見ると、コロナ危機の中で企業の投資が一時的に繰延されている動きがあるが、基調としては、これからICTの活用へむけた投資が拡大していくのは確実で、新しい働き方、新しいサービス、新しいビジネスモデルなどを視野にビジネスチャンスが広がっているととらえている」
―― 日経BP社の自治体向けITシステム満足度調査のネットワークサービス(優先型)部門で5年連続1位だ
「当社は来年で創立30周年を迎えるが、その間に積み重ねてきた三つの基盤が評価をいただいていると思っている。一つ目は、インターネットを経由しない安全安心で独自の閉域網の回線。二つ目は、東北6県と新潟という広いエリアにおいて、協力会社56社88事業所が連携して、設備の増強・維持への対応をしていること。自然災害が多い地域を抱えるが、障害が発生したケースもいち早く復旧できる。三つ目として、親会社の東北電力と重なる厚みのある顧客基盤を持っていることも強みだ。コロナ禍に伴い、お客さまがデジタルを活用した新しい活動を展開する中で、通信需要が高まっており、さまざまなニーズに応えていきたい」
――携帯電話向けの通信網の充実や5G(第5世代移動通信システム)の普及についてはどう考えるか
「スマートフォンの普及によるトラフィックの増大に対応し、トークネットの通信網は年々拡大している。光回線は5万kmまで広がった。地球一周が4万kmなので、地球を一周し、さらに地球の4分の1周まで広がっている計算だ。今後も通信需要は拡大していくので、通信網の強化は重要だ。さらに5Gは、高速大容量でのリアルタイム通信が可能で、さまざまな端末と接続することによって新たな世界を実現するものであり、これから大きく広がっていくのは間違いない。5Gの世界では二つの大きな流れがある。一つは大手のキャリアが手掛ける5Gの商用化で、これはすでに立ち上がっており、現在、急速に広がっている。もう一つの流れはローカル5Gだ。Wi-Fiでは対応できない大規模な工場や特定のエリア限定で、企業や自治体等が個別に利用できる5Gネットワークの実証実験も進められている。さらに、世界では、2030年頃といわれる商用化を目指して、6Gの開発も進行している。これまで携帯電話の普及に対応して、4Gの対応設備を広げてきた。5Gの流れに対しても、チャンスをとらえ、積極的に貢献していきたい」
――東日本大震災から10年を迎えた。BCP対策は強化されているのか
「東日本大震災による津波で、通信設備の一部である7局舎は大きな被害を受け、約560kmの光ファイバーケーブル網が使えなくなった。また、停電では、144局のうち120局舎が影響を受け、回線の35.8%が打撃を受けた。具体的な災害をイメージしたストーリー型のBCPでは対応できないことが明らかになった。これを教訓として、想定外の事象にも対応できるように、リソース型BCPに切り替えている。つまり、継続すべき業務の遂行に必要なリソースを明確にし、それが失われた場合にどうやってカバーするのかを重視している。具体的には、通信局舎を高台に移転したり、通信回線の運用を維持管理するオペレーションルームの代替施設を作ったり、あるいは停電に備えた電源設備を増強するため、バッテリーの長寿命化や非常用発電機の整備などを行ったり、様々な対応を進めてきた」
*2021年6月29日取材。所属・役職は取材当時。